表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

三人の密室3

三人の最後、中本過凪なかもと・かなぎさんとは連絡が取れなかった。

現在、学校にも通っていない、オンラインで授業を受けているとのことだ。

学校で会える機会はなく、情報の遮断がされていた。


仲が良いという三人だが、内二人の家はとても厳しいようだ。


「さて――」


いくらか情報を得たけれど、あまり進展は無い。

あの後、右野山さんはふらふらと帰宅し、あれ以上の情報は得られなかった。


「整理をしよう」


仲の良い三人組は高校二年生が、現在は疎遠になった。

その原因は、おそらくクラストだが、なぜそうなったかは分かっていない。


「クラストを発見したのは彼ら三人が高校一年生のとき」


一年以上前だった。


「そこをたまり場として使った」


そのクラストは、最近壊れた。


「どうして、どうやって壊れたのかについては、誰も分かっていない」


時期としては一ヶ月ほど前だ。

以降、三人の人格は変わった――そのような評価を受けていた。


佐竹八館さたけ・はちかんさんは快活だった性格が変わった」


塞ぎ込み、何かに怯えるようになった。

クラスメイトからも心配されているようだ。


右野山聖うのやま・ひじりさんは、落ち着いた性格がトゲトゲしくなった」


粘り強く冷静と見られていたのは今や過去、下手に接触すれば苛立ちと皮肉を返す奴だと見られている。


中本過凪なかもと・かなぎさんは情報不足――」


というより、もともと変人だったようだ。

あまり交友関係は広くない。


「佐竹さんは、記憶の欠落が何かを知りたがっている」


唯一覚えているのは、血が弾けるイメージだった。


「右野山さんは、夢が失われたと嘆いた」


それを行ったのは佐竹さんだとも。


「簡単に考えれば、佐竹さんが右野山さんの夢を壊した」


それは棚に入っていた物品だった可能性が高い。だが――


「どうして、それで血が?」


右野山さんにも佐竹さんにも、怪我はなかった。

病院に通った記録もまたなかった。


「つながるようで、つながらない……」


そもそも、奪われた夢って一体なんだ?


「んー……」


クラストという秘密基地で、何かが起きた。

それが根幹だ。

それは分かっているが――


「まあ、考えるだけ無駄かな、これ……」


想像や推理でたどり着けるとは思えなかった。

判断するための材料が、あまりに不足している。


「行ってみるか」


だから僕は、完全に無駄だろうと覚悟しながら、「クラストがあった場所」に向かうことにした。



  +  +  +



クラストの外観にはルールがない。

現実との境界設定はゲームマスターによって異なる。


キーを経由するしかない場合もあれば、普通の扉として設置されていることもある。

URLを選択しただけでクラストに入ったこともあるけど、さすがにあれは例外だ。


「何にも無いなぁ……」


住宅地の間、右側にはコンクリートのビルがあり、左側にはブロック塀があった。

ごく狭いそこは、1人しか通れない。


「というか、こんなところあったんだ」


住宅地やビル密集地にたまにある「道ではない道」。建物同士の隙間。そこがかつてのクラストがあった場所だった。


「……当たり前だけど、血が散ってる様子はない」


話によれば、この狭い道の中程にあったそうだ。


「というか、夜とか街灯も届かないし、かなり怖いよね、ここ」


通っていた右野山さんは、大丈夫だったんだろうか。


「いや……」


たしかに狭いし暗い。けれど、直線だった。


「んん……?」


モヤモヤとしたものが、少しだけ形になりそうだった。

僕は腕組みをし、壁へと寄りかかる。


ポケットから取り出したゼリー飲料を飲む。

少しぬるくなっているのがマイナスだ。


ガラス片でも埋まっているのか、やけに反射する壁を睨むようにしながら思考を巡らせる。


「……分かっていることを、整理しよう……」


わずかだが、理解できることがある。


「佐竹さんは、クラスト内で日記を書いた」


もちろん、やっていたのは日記を書くだけではなかったはずだ。


「具体的な行動は不明。だけど、それは放課後に行われた」


彼は「ここ一年間の、放課後の記憶がない」と言った。


「右野山さんは、わりと遅い時刻にクラストに通っていた」


時間帯としては夕食後だ。

寝るには早い半端な時間。


「そう、あの二人は、一緒にクラスト内で過ごしていない」


時間として重ならないようにしていた。


「クラスト消失がきっかけで、不仲となったわけじゃないんだ」


それよりもずっと前から、破綻の予兆はあった。

中本過凪については分からないけど、佐竹八館と右野山聖の二人については、意図的に顔を会わせないようにしていた。


「それでいて右野山さんの、佐竹さんに対する評価は高い」


何より――


「右野山さんの夢は、おそらく音楽だ」


もっと言えば。


「彼はあのクラスト内で、ギターの練習をしていた」


それもベースだろう。

右野山さんの中指の先にはタコがあった。きちんと見ることはできなかったが、薬指にもできてたはずだ。


「あれは何度も水ぶくれを潰し、それでも弾き続けた指だ――たぶん、棚に入れていたのはベースギターだった」


厳しい家庭環境、監視されている状況で、クラスト内だけが、誰にも咎められることなく音を楽しむことのできる場所だった。


「その夢を、佐竹さんが壊した」


いったいどうやって?

ただギターを壊しただけ?


この部分はまだ不明だ。


「だが――」

「スゴイね」


すぐ横から、声をかけられた。

反射的に距離を取る。

全身から冷や汗が吹き出た。

いつの間に?


狭間のような裏路地。

暗い景色を背景に、その人はいた。


「君が手に持ってるのが何かは分からないけれど、ぶつけるのは止めてくれない? 痛いのは嫌なんだ」


僕は飲み終わったゼリー飲料を振りかぶっていた。


車が通る。

ライトが薙ぐように僕らを照らした。


その相手を、僕は知っていた。


背の低い、どこか女性的な印象の、眠たげな目。

中本過凪なかもと・かなぎだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ