食と運VS掘と銃
アグネス「もういませんわね。さあ、帰りましょうか」
ツツジ「はー、隠蔽するの大変なんですからね」
アグネスとツツジはあの荒野にいて、グレゴリー戦闘員を倒し終わった所だ。アグネスの戦い方にツツジは呆れていた。見るも無惨になった死体、そこはかつて花畑だった場所、川なんて無かった所に新たに川が出来ていた。つまり、アグネスはやりすぎるエルフだった。手加減という言葉を知らない程、エルフとは考えられない頭を持っている。
アグネス「すみません、私の能力は暴走すると止まらせる事が難しく・・・」
ツツジ「とりあえず、この遺体を運び出すのが先です」
ツツジがそう仕切って遺体を持ち上げた時、どこからか誰かに見られている気配を感じた。それも2人ぐらい。ツツジは辺りを見渡すも、誰もいなかった。それはアグネスにも感じたらしく、視野を広げて辺りを見渡したがやはりいなかった。気のせいかも、とそう自分に言い聞かせたいが、やはり誰かの視線は感じていた。ツツジは試しにタブレットを使って、手榴弾を何個か送った。そらから降ってくる手榴弾に辺りは爆発し始めたが、誰か逃げる気配も叫ぶ気配もしなかった。すると地面から勢いよく何かが出てきた。それは人間の男性だが、手は茶色いドリルになっていた。この男性は何かしらの能力者であった。
???「爆弾落とすとは、物騒だな。おかげで地上に出ちまったじゃねーか」
ツツジ「あなたは誰ですか?」
???「俺ぁ、暗殺者をしてるグラーベン、つう者だ、まあよろしくな」
アグネス「暗殺者?グラーベン?」
グラーベン「おーい、今度はテメーの番だぞ!!出てこいや!!」
すると穴からもう1人男性が出てきた。全身黒スーツを着て、杖を腕にかけて、いかにもヤクザ風な姿をしていた。その男は被っていた帽子を胸元まで持っていくと丁寧な口調で
「どうも、私フィンガーと申します」
と名乗った。この男と一緒にいる事から、彼も暗殺者であろう。しかし、彼らはついさっき地上の方からの視線を感じたはずだが、何故地中から出てきたのか。
グラーベン「実は俺たちはついさっき着いた所なんだよ。穴を掘ってな」
ツツジ「穴?」
するとグラーベンの手が突然回り出した。最初はゆっくりだが次第に早くなっていき、地面に下ろすとドリルみたいに掘り始めた。まさか、彼らは能力者!!2人の脳内には真っ先にそれが浮かび上がった。
グラーベン「俺の能力"永遠の旅"は手をドリル状にして穴を掘る能力だ」
アグネス「さっきもそれで・・・」
グラーベン「さてと、お前達を殺せば一生遊んで暮らせる金が手に入るんだ。女を殺すのは不本意だが、俺の人生の為に死んでくれー!!!」
グラーベンはドリルになった手を地面に突き刺した。すると地面は穴を掘っていき、やがて穴に入ってしまった。ツツジはとりあえず銃を手にするも、いつ現れるか分からない敵に戸惑っていた。地面の中では運送術は使えないし、もし死角に現れたらそれこそ終わりだ。まさに万事休す、絶体絶命。するとそれを見かねたアグネスが
「しょうがないわね、手を貸してあげますわ」
とコツコツと歩いた。すると体から黒く細い何かかわ出てきた。そして黒い何かは地面に突き刺さった。そのまま地面を漁るように黒い何かをグニャグニャと動かし始めた。その頃、地中では―。
グラーベン「ヒャラッハーッ!!!地面の中では俺様は無敵だぜーっ!!!」
グラーベンが地面を掘り続けていた。いつ地上から出て、あの2人を始末しようかと妄想を膨らませていた。地面ではもぐらのように動けるので、地面の中では最強を自称していた。つい先程までは―。
グラーベン「ヒャラッハーッ!!!・・・ん、何だ?今の音は?」
グラーベンが穴を掘っている中、突如音が上からし始めた。地面の中では他に動ける人がいるとは到底思えなかった。そんな事を考えていると、掘った後から黒い何かが出始めた。その後、足を掴みそのまま引きづられてしまった。その後、掘った穴から出てきて、そのまま地面に叩きつけた。
グラーベン「な、何だっ!?何が起こった!?」
フィンガー「私も何が起こったのか!?」
アグネス「私の能力を教えてあげますわ。私の能力"暴食術"ですわ」
ツツジ「暴食術ですって!?」
暴食術、それは何でも食べる事が出来る能力。胃袋は無制限で危険物でも問題なく食べる事が出来る。
グラーベン「ちっ・・・貴様らも能力持ちか」
フィンガー「だからどうしたというのですか?所詮、役に立たない能力。私の華麗なる能力の敵ではない。"太陽の休日"!!」
するとフィンガーは腰のホルスターから銃を取り出した。そして、何故か空に向かって弾を数発撃ち始めた。何故空に撃ったのか、その意味がすぐに分かった。弾は軌道を変えて、アグネスとツツジの2人の方に目掛けていた。アグネスとツツジは避けようとしたが、弾は軌道を変えて追尾し始めた。彼の能力は対象者に向かって弾を追尾する能力だ。追尾されたら撃たれるまで終わらない。空に向かって撃ったのは、それが発動する条件だからだろう。アグネスは黒い触手みたいな物を出したが、弾は障害物を抜け抜けと避けてやがてアグネスの目の前まで来た。
アグネス「・・・くっ」
フィンガー「くふ、くふふふ。どうです?あなた方がいくらいい能力を手に入れても、私の方が数十段便利なんですよ?」
グラーベン「いやっほーっ!!これで億万長者だーっ!!」
やがて弾はアグネスの肩を撃ち抜いた。しかし、これでも交わした方らしく、本来なら眉間に当たるような場所を狙っていたようだ。アグネスの肩からは血が尋常な程垂れ流れていき、地面にポタポタと落ちて行った。
アグネス「なかなかやりますわね」
ツツジ「ちょっ!?早く手当てしてください!!」
ツツジは救急箱を取り出して、アグネスの肩を手当てした。血は収まったものの、敵は攻撃をやめない。今度はグラーベンが掘った穴に入ってしまい、いつ出てくるか分からない。するとアグネスは黒い触手を伸ばして、地面に突き刺した。何をしているかは分からなかったが、アグネスが何も考え無しに攻撃するとは思わなかった。するとちょうどグラーベンが出てきて、それと同時に弾も数発出てきた。出てきた場所がちょうど近くにいた事もあってか、すぐに避けられない距離まで来ていた。
ツツジ「は、早いっ!?」
アグネス「・・・」
フィンガー「どうだい?怖気付いたかい?所詮、我々の相手ではなかったという訳だったな」
グラーベン「ヒャラッハッハッハーッ!!!」
銃弾が近づいた時、戦況は一気に変わった。弾がなくなっていた。それを見たフィンガーはとても驚いた。何故弾が消えたのか、全く検討つかなかった。それと同時にアグネスは不気味な笑みを浮かんでいた。まるで何かに取り憑かれたモンスターが笑っているみたいに人でもエルフの笑みではなかった。
アグネス「ふ、ふふふふふ・・・便利ですって?ただ追尾するだけの弾がですって?こんなの私に
すれば、ただ撃っているだけと同じ感覚ですわ」
フィンガー「何だとっ!?」
アグネス「それよりも大丈夫ですか?足元危ないですよ?」
グラーベンとフィンガーが足元を見ると、そこには爆弾がゴロゴロと転がっていた。それを見たグラーベンとフィンガーはまずいとばかりに逃げ出すも、既に栓を引かれた後なのですぐさま爆発した。
グラーベン「ぐわあぁぁぁぁー!!!」
フィンガー「何故だ!?肩に当たった筈だが!?」
2人が驚いている中、ツツジとアグネスの方を見た。2人は何も言わずに、ニヤニヤしながら歩いて来た。このままでは死んでもおかしくない状況だった。グラーベンは手をドリルにして逃げようとした時、地面が突如ひび割れ、そのまま崩れてしまった。その後も地面は崩れていき、やがてクレーターみたいな大きな穴があった。
グラーベン「何でだっ!?ここはただの地面だろ!?」
アグネス「忘れたのですか?私が何をしたのか?教えてあげますよ、ふふふふ・・・」
するとアグネスの体からまた黒い触手が出てきて、そこから牙の生えた口、ギロっと睨んだ目が無数出てきた、まるで蛇の魔物みたいなものが現れた。
グラーベン「な、何なんだよっ!?」
アグネス「あなたが知る必要ありません。とりあえずその邪魔な手足を食べなさい」
すると黒蛇は伸び始め、グラーベンの手足を噛みちぎった。これでドリルを使うことが出来なくなった。それを見たグラーベンは恐怖と絶叫のあまり、泣き叫んだ。逆にそれを見たアグネスはとても喜び、彼が底に落ちるまで笑顔が耐えなかった。
グラーベン「ひ、この悪魔っ!?」
アグネス「いくらでも言ってください。まあ、あなた方にとって相手が悪かったという、己の運命を呪うしかないですね」
その後、アグネスは黒蛇を伸ばして今度はグラーベンの顔を噛みちぎった。5箇所から血を吹き出した遺体はそのままバタッと落ちた。その頃、フィンガーはツツジと相手をしていた。
フィンガー「太陽の休日!!!」
ツツジ「運送術!!!」
フィンガーは銃を突きつけて数発撃ったが、ツツジも拳銃を手に弾に向かって撃ち始めた。弾丸を弾丸が弾き返して、弾は勢いをなくした。さらに銃に向かってツツジは撃ち始めた。そして、フィンガーの銃目掛けて一発撃ち、銃を離す事に成功した。
フィンガー(こ、この女、なんて腕捌きだ!?あの見た目から想像出来ない!?)
ツツジ「何もないなら、次で終わりにしてあげます」
フィンガー「はっ!?ま、まだだ!!これで終わると思わないでくださいね!!」
フィンガーは持っていた杖の取っ手部分を引き抜いた。それは銃口があり、引き金も常備していた隠し銃だった。万が一の時に備えて準備していたものだと思う。フィンガーはすかさず数十発撃ち、銃弾は軌道を変えてツツジの方に目掛けた。
フィンガー「くふふふ!!あの弾は既にあなたの頭や足に腕、そして心臓を狙うようにしております。あなたはここで終わりです」
フィンガーが勝利宣言をした時、ツツジは焦る事なく話しかけた。
ツツジ「どうして私達に多額の懸賞金を賭けられていると思います?どうして私達が今の今まで生き延びているか分かりますか?」
フィンガー「何っ!?ハッタリのつもりかっ!?」
ツツジ「いえいえ、私はあなた方に真相をお話ししようとしているだけです。あの弾は遠くまで飛んだので、あと1分は稼げます。その隙にお話ししましょう」
フィンガー「何!?」
ツツジは弾が到達する時間を測っていたのだ。その隙に話すなど、無茶で無理な話だ。何故そこまで言い切れるのか、皆目検討がつかない。まあ、1分もあれば余裕で殺せる、そうやって来たから。今までどんな殺しもしくじる事はなかった。さらに自身の経験データを元に計算しても、全て完璧だった。それなのに、彼女はそれを覆す事を言ってきた。そんな馬鹿な話があるか、1分もあれば十分だ。結局ハッタリだ!!
フィンガー「くふふふふー!!!私に勝てる口調をしていたようだが、どの道あなたの命は後10秒で終わる!!これでおわ・・・ぐはっ!?」
ツツジ「お答えしましょう、あなた程度では私達の敵ではないと言う事だけです。本当にいい腕をしてますね、いやしてましたね」
フィンガーは自分で撃った弾を全て喰らってしまった。既に体全身を貫通して、血も噴き出し始めた。不運な事に、心臓目掛けて撃った弾が自分の心臓を撃ち抜いてしまったために、フィンガーは底に落ちた後死亡してしまった。弾も本人が死亡した事により軌道修正出来なくなり、そのまま地面に向かった。何故弾がフィンガーの体を貫通したのか、それは弾が近づいてくる直前、ツツジは自身の能力を使ってフィンガーの体に送ったのだ。そして弾が数センチ近づいて来た所でまた運送術を使って今度はフィンガーの後ろに送った。弾は修正する時間もなく、そのままフィンガーの体を貫通してしまった訳だ。自身の能力で負けるとは、あまりにも皮肉な最期だったといえよう。とはいえ、面倒な敵ではあった。
アグネス「こっちは片付けました。そちらも終わったようですね」
ツツジ「えぇ、まあ。とはいえ、彼らはただの殺し屋だけど、能力を持っているなんて想像出来なかったわ」
アグネス「確かにそうね。最近、グレゴリーでは能力者が沢山いるわ。でも、こんな短期間でどうやって?」
ツツジ「分からないわ。ただ、まだ何か始まろうとしているわね」
世界では何が起こってもおかしくない。だが、その中で何か不吉な事が始まるのも事実ではある。その闇を知るのは、まだ先の事であった。
ツツジ「ところで、また地形変えましたね」
アグネス「あ・・・その事なんだけど〜今の出来事、黙ってくれませんか?」
ツツジ「無理です。全て話させていただきます」
アグネス「そ、そんな〜!!!」




