人生は人それぞれ。とことん悩め
翌日、灰川鈴は学校に来てない。親達も警察に捜索願いを出したが、一向に見つからずポスターまで貼っていた。学校にも貼ってあった。
黒季「まさか」
最近、行方不明者が続出している中、また出るとは思わなかった。大概の場合は死んでいるのが殆どだが、ここまで行方不明になると死亡説は中々考えにくい。恐らく、異世界に連れ去られた可能性は高い。しかし、どの世界に飛ばされたかは僕でも分からない。すると、白沢もやって来た。
白沢「最近、行方不明者が多くなってるわね。世間ではどこかの国に連れ去られたって言われてるけど、これって怪しいわよね」
黒季「警察も手を焼いているほどだ。なにしろ、殺人事件より難解だからな」
白沢「確かにそう言われれば、実際に本人がいないんだからね」
黒季「まあ、うちの学校にまで来るとは、世も末だね」
2人は頭を悩ませた。この事件が終わる事はまず無いと思う。異世界という存在がある限り、行方不明者はどんどん増える。異世界では活動制限があるし、地球にまで目が向けられない。すると、白沢がこんな事を言い出した。
白沢「そうだ!!私達で新たな基地を作りましょうよ!!」
黒季「はい?」
白沢は基地を作ろうと言い出した。基地を作る?どういう事?
白沢「この学校、裏は山じゃない。その裏にはね、実は旧校舎があってね、もう何十年も使われてないのよ。もう誰も使ってないし、そこを私達の拠点にするのはどう?」
黒季「えらい事言うね。その旧校舎って学校の物なんでしょ?勝手に使っていいの?」
白沢「学園長もそこまで目をつけないわよ。実際にみんな近寄らないし。隠れるには丁度いいんじゃない?」
黒季「確かにそうかもしれないけど、そんなに上手くいくの?」
白沢「大丈夫よ!!別に家を買う訳ではないし、ちょっと借りるだけよ」
黒季「さっきからすごい事言ってるよ」
白沢「この話、みんなにしてくるから、放課後集合ね!!」
そう言って、白沢は走って行った。相変わらず自由人だ。初めて会った・・・いや、何処かで会った?なんかあんな感じの人を見た事があるような。しかし、あれは違う人物だ。同じな訳がない。黒季は教室に戻った。
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アートルム「どうだい?最近、儲かってる?」
ムルータ・レスぺ「もちろんです!!地球でばか売れしましたよー!!」
その頃、アートルムはムルータのアトリエに行っていた。何やら上納金が入ったみたいで、それの回収に行っていた。ムルータは金が入ったトランクケースを3つ用意し、中身を開けた。中にはお札がびっしり入っていた。
アートルム「上出来だねー!!でもちょっと多くない?」
ムルータ・レスぺ「色をつけさせました。儲かったので、ほんの気持ちです」
アートルム「素晴らしいじゃないか!!お礼にこいつらをくれてやろう」
アートルムは後ろから2体のカオスを連れて来た。1人は顔がパラボラアンテナで黄色のコートを着ている"エレキ・ソン"。もう1人は深緑色の仮面に3つの大きな目、筋肉剥き出しの怪人カメレオン"シーカー・メレーオン"。
ムルータ・レスぺ「何と!!ありがたき幸せです!!」
アートルム「じゃあ、引き続き頑張ってね!!」
そう言い残すと、アートルムはどこかへ消えてしまった。残ったカオス達はお互いに挨拶をし始めた。
エレキ・ソン「初めまして!!私、エレキ・ソンと申します」
シーカー・メレーオン「俺はシーカー・メレーオン。シーカーでいい」
ムルータ・レスぺ「私はムルータ。お互い仲良く頑張りましょう!!」
3人はそれぞれ挨拶すると、早速作業に取り掛かった。ムルータが贋作美術品を作り、エレキが作品を荷造りし、シーカーが作品を運ぶ。今まで1人でやってたのが、今や楽に出来るようになった。
ムルータ「いいね〜!!いいね〜!!この調子でどんどん作るわよ〜!!」
ムルータはまた作品作りに没頭したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所はミニスト。ミニストには大きな屋敷があった。その屋敷は世界中、誰もが知っている冒険者パーティー"ヴァイスファミリア"の本拠地だからだ。人数はざっと100人以上はいるとか。今、灰川はその屋敷の敷地内の庭にある寮のクリーマリーの部屋に来ていた。クリーマリーの部屋には机やベッド、タンスや武器などがあった。トイレや風呂は共用だが、男女別に別れているので特に問題はないようだ。灰川は早速クリーマリーと風呂に浸かっていた。
灰川「気持ちいいー!!何か安らぐ!!」
クリーマリー「良かった!!本当ならここに住んでる人しか使えないけど、この時間帯は誰も入らないからね」
灰川「どういう事?」
クリーマリー「私、風呂入るのが遅いんだ。何しろさっきみたいにダンジョン探索で遅くなるからね」
灰川「なるほど」
風呂場は施設並みぐらい広かったので、クリーマリーは泳ぎ出した。それを見た灰川は若干驚いたが、楽しそうな顔を見ると少し緊張がほぐれた。この世界に来た時は一大事かと思ったが、彼女と出会えて良かったと思う。
灰川「そう言えば、何であの洞窟にいたのですか?」
クリーマリー「ん?ああね。実は訓練しにあの洞窟にね。今の私とあの主、どちらが強いのかなってね」
灰川「おっかないわね」
しばらく風呂に入ると、クリーマリーの部屋に戻った。クリーマリーは床にマットと敷布団を用意し始めた。
クリーマリー「あなたはベッドで寝な。私はこれでいいから」
灰川「いや、流石にそれは・・・私が床で」
クリーマリー「いいって。床に寝かせるのも失礼だしな」
灰川はクリーマリーの言葉に甘えて、ベッドで寝た。しかし、ゆっくり眠る事も出来ず、なかなか寝れなかった。やはり、こうして自分が寝ている時に親達が探している。何だか申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
灰川(お父さん、お母さん・・・)
すると、横で寝ていたクリーマリーが話しかけ来た。
クリーマリー「どうしたの?浮かない顔して」
灰川「クリーマリーさん・・・」
クリーマリー「何か悩みがあるみたいだね」
灰川「分かるんですか?」
クリーマリー「何となくね」
どうやら彼女は分かっていたようだ。本来なら話したくないが、この際だから話す事にした。
灰川「実はね、自分の人生についてね。私、ある会社の社長令嬢なんだ。そこでは鉄を作っているんだ」
クリーマリー「嘘!?社長令嬢!?」
灰川「驚いた?人は見かけによらないって事よ」
クリーマリー「なるほど。それで人生ってのは?」
灰川「私、この年頃だから好きな事をしたいじゃない?憧れている仕事をしたり、やってみたい事をやったり。でも、私は会社の社長の娘。1人っ子だから受け継ぐ人が私しかいないの」
クリーマリー「うんうん」
灰川「私、会社は潰したくないけど、社長令嬢に生まれてこなきゃ思ったって思うの」
クリーマリー「え、何で?社長令嬢なんて幸せじゃない?」
すると灰川は泣きそうになった。何か事情があるに違いない。しかし、クリーマリーは黙る事にした。そして、灰川は口を開いた。
灰川「私、もっとやりたかった事があるんじゃないかって思うの。あれがいいとか、これがいいとか。でも私は会社という肩書きがある。私は分からないの。どっちを取ったらいいのか」
クリーマリー「なるほどね」
灰川「結局、私は親の期待に答えないといけない。けど、自分の人生それでいいのかって思ってるの。私、こんなだからなかなか人に言い出せなくてね」
話を聞いたクリーマリーはしばらく黙ってしまった。灰川も話すんじゃなかったかなと思った。すると、クリーマリーは灰川に話しかけた。
クリーマリー「別にそれでもいいんじゃない?」
灰川「え・・・?」
クリーマリー「私は自分の人生ダメだったなんて思わなかったわよ。今もこうして冒険者してる訳だし」
灰川はきょとんとした。
クリーマリー「そりゃ、私だってやりたい事はあったわよ。パティシエやギルド職員にも憧れたわ。でも、どうして冒険者になったかとね、仕事が面倒臭そうだったから♪♪」
灰川「め、面倒臭い?」
クリーマリー「うん、パティシエはずっとスイーツを作らないといけないし、ギルド職員はかなりシビアだって聞いたわよ。残業も当たり前だし。だから、楽して稼ぎたいから冒険者になった訳」
灰川「楽して稼ぎたい?」
クリーマリー「まあ、クエストを達成するだけでも面倒臭かったわね。でも、嫌じゃないわよ。だって、それが性に合ってたから」
灰川はクリーマリーの話を聞いて混乱した。つまり、冒険者が楽しいってこと?
クリーマリー「そうよ、それが私の天職だから。あなたもそうなんじゃない?話を聞く限り、だいぶ昔の私と同じ事を考えていたから驚いたわ」
灰川「本当?!」
クリーマリー「あなた、あの洞窟で結晶を見た時の目、輝いていたわよ。何かに没頭するかのように」
それを聞いた灰川はハッと振り替えた。そう言えばあの時、硬さと耐震性について考えていた。あの結晶を使えば耐震対策にはうってつけだとか、無意識のうちに考えていた。でも、どうして?
クリーマリー「鉄を作る会社なんでしょ?あなたには親譲りの才能があるじゃない」
灰川「才能・・・」
クリーマリー「私はその才能を活かすべきだと思うよ。あ、いや別に会社を継げとかそんな事じゃないからね。その才能を活かした事をすれば良いんじゃないかなって思うだけ」
彼女の言葉はわかりやすく、自然体に受け入れてくれる。何だか、ずっと中に閉まっていた何かがなくなっていくようだ。
クリーマリー「私が言いたいのは1つ。何をやりたいかは自分次第。そんな事で悩むぐらいなら、まずは自分は何が出来るのか考えてみたら?そこからだと私は思うよ」
確かに、今の自分に何が出来るのか。出来ないのにやったって、それは身を滅ぼすだけ。なら、これから見つけていけばいい。答えが今じゃなくてもいい。いつか、自分に合った答えが見つかる日が来る。クリーマリーはぐっすり寝てしまったが、自身も何だか心地よく寝れる気がした。
灰川「ありがとう、クリーマリーさん」
一言言うと、灰川は眠りについた。




