転生者と冒険者
アートルム「ねえねえ、いつまでこんな状況なの?」
ドロル「すいませんね〜!!何しろ、匂いすら残さないんですからね〜」
ガルド・ジョー「ウヘヘヘヘへ〜!!」
その頃、グレゴリー本部でアートルムとグレゴリーパトロールが話し合っていた。あれからグレゴリーパトロールは各地各世界を探し回ったが、ノワールファミリーを探すのに苦労していた。最初にアジトを見つけたのはいいが、アジトごと移動されたいま、何処にいるのかすら分からなかった。ただただ時間が過ぎていくだけになってしまった。そんな彼らにアートルムは呆れていた。
アートルム「しっかりしてよ。何のために君達を作ったんだか。自慢の嗅覚で探してよー」
ドロル「出来る限りの事はします。あとはこいつら次第ですが」
他の狐達は酒を飲みながら、笑っていた。
アートルム「じゃあ、引き続きよろしくね」
ドロル「へい」
そう言うと、グレゴリーパトロールは部屋を出て行った。アートルムは頭を抱えながら、何処かへ消えてしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
場所は学校。黒季は頭を抱えていた。今日、テストが帰って来たが、最悪な結果だった。一応、赤点は免れたが平均点を超えたものがほとんどない。これは下から数えた方が早いという事だ。何だか、廊下に行くのが億劫になってきた。1年生の学年テスト結果が貼り出された壁には、たくさんの生徒が集まっていた。僕はというと、下から50番目の所にあった。まあ、みんな僕の結果なんて見ないからいいけど。そう言えば白沢は2位、宝華は12位、オリヴィアは56位、赤城は36位、優衣は18位、ほのかは19位。T.J.達は下からだが、そこそこいい場所にある。1位は生徒会庶務の世羅英玲奈。3位も生徒会庶務の庄原眞子。まあ、上には上があるって話だな。それからもずるずる見ていると、1番後ろで棒付き飴を舐めている人を見つけた。あれは、前にアジフライ弁当で取り合っていた人だ。
女子「?何かよう?」
黒季「いや、何でここにいるのかなって」
女子「別に。ここにいるだけよ」
そう言うと女子は何処かへ行ってしまった。学年順位見なくて良かったのかな?すると、近くにいた生徒が話していた。
男子生徒A「うわー、生徒会すげー。あの白沢さんも2位だぞ!!でも4位の奴って誰だ?」
女子生徒A「たしか、灰川工業の社長令嬢の灰川鈴て名前だったわ」
男子生徒B「へー。何か近寄りがたいなー」
女子生徒B「一部じゃ"鋼の少女"て呼ばれてるわ」
・・・灰川鈴。灰川工業っていったら、あの鉄で有名な会社だ。マンションの骨や橋の骨にも使われる程有名な会社だ。その会社の子供だったのか。それにしても、今日も制服にジャージを着ているな。流行りか、あれ?しかし、何か彼女には何かを感じる。それが何かはまだ、この時は知らなかった。その後、屋上ではみんなに呼び出されていた。しかし、昼飯とは違う。僕は正座させられている。逆に白沢達は仁王立ちをしている。顔は見えないが、だいたい予想がつく。
優衣「黒季くん?これはどういう事かな?」
宝華「あれだけ私達が教えたっていうのに、何で下らへんなの?」
黒季「でも、赤点じゃないから・・・」
オリヴィア「黒季、大丈夫ネ!!私モ下ダカラ仲間ネ!!」
優衣「オリヴィアちゃん、ちょっと静かに」
オリヴィア「ハ、ハイッ!!」
黒季「あのー、いつまで正座させられるのですか?」
宝華「黒季、次はないわよ」
黒季「は、はいー!!」
宝華達の重たく恐ろしい圧に耐えられなくなり、つい「はい」と答えてしまった。でも、どうしよう。次はもっと面倒な期末試験があるのにー!!あ、最後の手に能力を使うと言う手があるか。
宝華「黒季く〜ん、何か邪な事考えてない?」
黒季「・・・いいえ」
宝華は何かと勘が鋭い。・・・助けてください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
???「いいねぇ〜いいねぇ〜!!」
その頃、あるアトリエらしき部屋で誰かが絵を描いていた。ただし、人間ではない。機械の胸部を持ち、鮮やかな色の体で目が飛び出している。見た目はカタツムリみたいなものだ。片方の手は絵の具のチューブ部分を模した機械になっている。もう一方の手には絵筆を握っていた。目の前にキャンバスが置いてあり、何か絵を描いていたのだ。横には山積みになったキャンバスがあちらこちら置いてある。
???「これをこうしてと、出来たぁ〜!!う〜ん、我ながらいい作品だねぇ〜!!」
描いたのは風景画だ。どこの風景かは知らないが、恐らく異世界の何処かの景色だろう。はたから見れば、傑作に見える。しかし、もっと驚くべきはこの絵が数十枚あると言う事だ。つまり贋作だ。彼の名は"ムルータ・レスぺ"。もちろんカオスだ。奴の稼業は贋作を作り、それを高値で売り付ける事だ。しかも、それを異世界中に売り付けるのであちらこちらから金がたんまり入ってくるのだ。
ムルータ・レスぺ「次は石像だな。"誰が誰を作ったのか"」
絵筆から粘土こてに持ち替えると、目の前に置いた岩が粘土のように柔らかくなり、やがて石像が出来た。時間は1時間も掛かっていない。
ムルータ・レスぺ「いいねぇ〜!!いいねぇ〜!!地球では、こいつらをいくらで売ろうかな?」
完成した作品を前に、ムルータは高笑いをし始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アートルム「ムルータの奴が動いたのか」
青紫「全く、これまで裏世界で美術品の贋作を売り捌いていた奴がどう動くかと思えば・・・」
ブルトシュバイン「ガンガン・・・ヤツノエ、タカイ・・・ガン・・・ガン」
琥珀「・・・」
同時刻、アートルムの部屋には十二神将の青紫、琥珀、ブルトシュバインが来ていた。青紫の部下であるムルータの近況を報告しに来たのだ。
青紫「でも、私はそう言うの嫌いじゃないけど」
アートルム「なるほど。どうやら本格的に金儲けに走ったね。裏世界で偽物を売るのも飽きたんだね」
アートルムが喋っていると、琥珀が突然喋り出した。
琥珀「青紫、お前の好き嫌いなど関係ない。我々は裏世界で生きる身だ。あんな堂々としたやり方など・・・」
アートルム「構わんよ。結果が全てだから」
すると、アートルムが横から入って来て、琥珀の話をやめさせた。その後、琥珀は喋るのを辞め、部屋を出て行った。
ブルトシュバイン「ガンガン・・・コハク、イッタ・・・ガンガン」
青紫「あーあ、不機嫌になっちゃったかなー?じゃあ、私達もこれで」
青紫はブルトシュバインを連れて、部屋を出て行った。
アートルム「やれやれ、問題児ばかりだねー」
アートルムはグラスに入った酒を飲みながら、空中を浮遊していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
灰川鈴。彼女は灰川工業の社長令嬢。灰川工業は大正時代に創業した会社で、最初は鈴やブリキのおもちゃなどを作る小さな会社だった。時は流れ昭和になると、戦闘機や戦艦を作る会社になり、高度成長期にはあらゆるビルの鉄筋を作る会社に成り上がった。バブル期には結構稼いだらしい。令和になった今でも、まだ発注が来る大きな会社だ。そんな会社の社長令嬢として産まれた灰川は、物心ついた時から感じる事があった。そう、会社についてだった。家族を裏切りたくはないが、好きな事をやりたい年頃だ。自分が会社を継がなければ、歴史ある会社はなくなってしまう。会社と人生、そんな天秤があるなら、今すぐその天秤がない世界に行きたい。そう思っていたが、まさかそれが現実になるとは思わなかった。
灰川「・・・え、どこ?」
目の前には薄暗い洞窟。明かりもそんなになく、スマホのライトでも全く見えないくらい、真っ暗だ。帰りおる時、突如黒くもやっとした壁が出て来て、そのまま進むと今に至るのであった。
灰川「え、今流行りの異世界転生ってやつ?いやいや、あれはフィクションで・・・」
灰川が恐る恐る進むと、目の前に光る部屋があった。その光を頼りに進んで入ると、そこはキラキラと光り煌めく、結晶の塊ばかりある場所だった。白、赤、青、透明な色が沢山あり、目がチカチカするぐらい眩しかった。
灰川「す、すごい!!これは見た事がない鉱石!!これなら、耐震製の骨組みに使えるわ!!ただ、これは加工出来るかな?」
結晶を触ると鉄でもなく、石でもない全く未知の物質だ。恐らく、溶かさない限り、加工は難しいと思う。周りに転がっている石を拾って見ると、中に少量の結晶が入ってあった。これなら加工しやすいと思う。しばらく歩いていると、ゴゴゴと動く気配を感じた。後ろに振り返ると、背中や手足に結晶が付いた生き物が動いたのだ。口を開いて唸り声を上げていた。目はギョロッとして、今にもおぞましい雰囲気を漂わせていた。不幸中の幸い、結晶の塊に隠れたおかげで相手には気づかれなかった。このままさっき入った所に行けば、逃げられる。そう思った時、手に持っていた石を落としてしまった。ガコッと音がしてしまい、それに気づいた生き物に気づかれてしまった。
灰川「あ、あ、ヤバい!!」
生き物はグオォォォー!!!と声を上げて、襲いかかった。手足をのしのしさせながら走って来て、硬い結晶もいともせず踏み潰して行った。化け物が動いた衝撃か、洞窟内は揺れ、結晶が落ちてきた。あれが頭に当たれば、即死は免れない。まだやりたい事があったのに、こんな場所で死ぬのか。そう考えると体が動かなくなり、固まってしまった。やがて、足が近づいた時、誰かがダッシュで走って来た。とてつもない速さだったので、目で追いかけるのは難しかったがその人は化け物に一蹴りすると、手を掴んで走った。掴んできたのは、褐色肌の紫髪の女性だった。
???「このまま走り続けるよ!!じゃないと私達オジャンよ!!」
そう言って、手を掴み、薄暗い洞窟を走り続けた。やがて外に出た頃には2人共息切れしていた。近くに池があり、そこまで歩いて行った。水を一口飲むと体が全身に潤ってきた。
灰川「あ、あの、ありがとうございます。あなたは?」
クリーマリー「クリーマリー・コルドストン、冒険者をやってるわ」
冒険者?まさか、本当にあの冒険者?最近、漫画やアニメであるけど現実にあるとは思わなかった。いや、そもそもあり得ない事実だけど。ていうか、どこから突っ込んだらいいのか。
クリーマリー「君、よくあんな危ない場所にいたわね。あの洞窟は結晶竜クリスタルドラゴンが守っている洞窟よ。そこんそこらの人じゃ、なかなか攻略出来ないわよ」
灰川「ドラゴン!?まさか、これって異世界転生!?」
クリーマリー「うーん、その反応といい、その格好といい、あなたも別の世界から来たの?」
灰川「あなたもって?」
クリーマリー「この世界にはたまに異世界人が来る事があるんだ。その場合は召喚士が召喚魔法を用いるんだけど、あなたは?」
灰川「えっと、黒くもやっとした壁に入ったら、ここに来た」
クリーマリー「何それ?聞いた事がないわよ」
お互い、頭が混乱していた。特に灰川は未だ現実が受け入れられなかった。つまり、もう地球には戻れないという事。そう考えるだけで悲しくなってきた。それを見かけたクリーマリーは
「行く場所ないならうちに来る?」
と持ちかけた。確かに、今は安全な場所が欲しい。もしかすると地球に帰れる方法があるかもしれない。しかし、それがいつ分かるのかは分からない。それに他人の家に行くのはちょっと抵抗があった。それでもこのまま野宿するよりはマシだ。
灰川「あ、ありがとうございます。お言葉に甘えて」
クリーマリー「よし、決まりね!!あたしの家までしばらくあるけど」
灰川「あ、私の名前は灰川鈴です」
そう言うと、2人は再び歩き出した。




