第百十五話 特訓
夜、オークとゴブリンの長が訪ねてきた。どちらも種族の最上位種だけあって,非常に屈強な肉体を保持している。それが打撲による内出血で変色し、顔面などはボコボコに殴られて腫れあがっている。
元の世界にいた頃に見たボクシングの試合。
それもフルラウンドの激闘を終えたボクサーの試合後の顔みたいだ。
そんな事を考えていたら、オークの長が口を開いた。口の中も切れていて、しかも腫れてるからか喋り辛そうだ。
「フェイロン、お前は俺達を、騙したのか?」
「騙す、とは?」
「女どもは抵抗した。俺達のモノにならない」
これは重症だ。
まず、力で従わせるって考え方を何とかしないとダメだな。
「あのな、俺は自分が不在の時に、変な奴らに女衆を傷つけられるのが一番嫌だ。だから、お前らの種族の女衆を強くした。お前達と女衆が悲しまないようにな」
「それは余計な事だったのだ!! おかげで女を支配できないではないか!!」
ゴブリンの長の怒号が部屋の中に響き渡る。これだけ怒鳴れるなら問題無いな。
「その支配って考え方を止めろ。もう他種族の女を攫ってくるわけじゃないんだ。第一、あっちの方が強いんだ。逆に支配されるぞ」
「「そ、それは困る!!」」
二人の声がハモった。
こいつらは、最初は支配された方が良いんじゃないか。
「力で従わせなくても、やり方次第で向こうから、お前らを支えてくれるぞ」
「支えてくれるってのは、従わせるのと同じではないのか。全く違うのか?」
俺は大きく、そして力強く頷いた。そして懇々と諭すように話した。
力で従わせるのは相手の意思を無視してる。いつか、こいつを殺してやると思いながら従ってるだろう。チャンスがあれば殺しにくる。だが、それでは心が安まらない。
だが、支えてくれるのは相手が好意を持ってくれるからだ。お前達を好きだから色々としてくれるのだ。
窮地には頼もしい戦友となるし、飯の支度も、衣服の繕いも、夜の子作りに至るまで喜んで相手してくれるんだ。
俺のサァベルは俺が束になっても敵わないくらい強い。でも、信頼できるパートナーだ。いつも優しい笑顔で支えてくれる。
俺にサァベルがいるように、あの女衆の中には、お前達にとってのサァベルがいる。必ずいるんだ。
「力による支配がダメならば、どのようにしたら良いのだ?」
「とても簡単な事だ。お前ら拍子抜けするくらいにな」
「簡単だと!?」
「そうだ。女衆が言ってたろ? 口が臭い、体が臭い」
「言われたな、そう言えば」
「まずは清潔にしろ。そして女衆のところに行け。清潔にしてると、努力してると認められたら謝れ。女性に対する接し方が分からなかったと正直に語って謝れ」
俺は整理、整頓、清潔、清掃、しつけの5Sについて教えた。
「そんな事で、あの屈強な女達が納得するのか?」
「そんな事と言うが、毎日やるのは大変だぞ。清潔にして外面を良くしても、部屋に招いてグチャグチャだったら減点だ」
一週間もしたら、長だけじゃなくオークやゴブリンの末端まで同じ教育をするつもりだ。そうなった後に、一番良い女を部下に取られても知らないぞ。
そう脅かしたら、俄然やる気になったようだ。
それからは大変だった。
やる気になったは良いが、色々と細かい事まで質問してくる。対応しきれなくなって、蜂っ子に投げた。
一番の美女をゲットするという、ある意味一番俗物の最たる目標の為に努力を始めた二人は、蜂っ子達のスパルタ教育によって、非常に几帳面なオークとゴブリンになっていた。
こいつら、マジですげえ。
「よし、お前達! 女心をキュンキュンさせる必殺技を教えてやる!」
「はっ! 指導教官殿!」
「こうやって、こう作る。これが花の冠だ!」
「おおっ!! 素晴らしい!!」
「これを如何に効果的に渡すか、口上はどうするか、死ぬ気で考えろ!」
「サー、イエッサー!!」
蜂っ子め、本気で鍛えてやがる。
これは次が楽しみだな。




