第27話「酒場に来ました」
外に出ると日が暮れていた。
最近は食べ盛りなのか、食べても食べてもお腹が空く。
俺たちは近くにある食事処を探した。
確か、ここら辺にマシューのおすすめのお店があるはずだ。
聖都に詳しいマシューに、色々と教えてもらっている。
「ここが父さんの言ってた店のようだね」
「そうね。入りましょ」
店内は賑わっており、各所に丸いテーブルが置かれている。
「あんたたち、若いね。ここは初めてかい?」
ふっくらしたおばさんが声をかけてきた。
「はい。えっと、父さん・・・マシューにここを教えてもらって」
「マシューの息子かい。あいつももうこんな歳の子を持つようになったんだね。ってあたしも人のこと言ってられないか」
女性は快活そうに笑う。
エネルギッシュな人だな。
「そっちの子は彼女かい? かわいい顔してるね」
「ち、違います」
レイラは慌てて否定する。
「まあ、どっちでもいいがね。適当に座ってくれ」
俺たちは開いている席を探す。
だが、酒場は盛況なため、空いているテーブルは見つからなかった。
「ねえ、あそこはどう?」
レイラに促されたところを見てみる。
そこは、4人掛けのテーブルに少年がポツンと座っていた。
「相席してもいいか聞いてくるよ」
俺はその少年に声をかけた。
「ここ、座ってもいいかな?」
「あ、はい、どうぞ」
「ありがとう」
俺はレイラとともに席に座ると、まずは自己紹介をした。
「俺はルーク。よろしく」
「あたしはレイラよ。よろしくね」
「僕は、コリン。よろしくお願いします」
コリンは黒髪のおかっぱで、気の弱そうな少年だ。
「注文はした?」
「ううん。まだ注文してないよ」
「そう。じゃあ一緒に注文しましょ。・・・どうやって注文するのかしら?」
「給付係を呼んで・・・注文すればいいんだと思う」
コリンは自信なさげに言う。
「そうなのね。すみませーん。いいですかー?」
「はーい! ちょっと待ってね」
さっきの女性が反応する。
ちなみにこの店にメニューはなく、給付係が口頭で説明する形だ。
俺たちは、気になるメニューを適当に注文しておいた。
ついでにエールも頼んでおく。
この世界でお酒の飲める年齢制限はない。
前世から考えると、15年ぶりのお酒だ。
「へー。ルーク君とレイラさんは幼馴染なんだ」
「そうね。腐れ縁というやつかしら」
「僕にはそんな相手いないから、ちょっと羨ましい」
「そんなに良いもんじゃないわよ。ルークは、すぐに弱音吐くし、頼りないもの」
確かに、修行中はよく辞めたいと言ってたな。
なんなら泣き喚いたこともあった。
サバイバルだからって、「虫を食え」と言われたら、本気で修行辞めたくなる。
虫は昔からダメなんだよ。
ちなみにカブトムシもゴキブリも変わらないと思っている。
「仲いいんだね」
「まあ、長い付き合いだしな」
「やっぱり羨ましいよ。あ、料理来たみたいだ」
さっきのおばちゃんが「サービスで量増やしといたよ。若いんだから、たくさん食べな」と言って、運んできてくれた。
テーブルの上に料理が立ち並ぶ。
俺はまず、ジョッキを持ってエールを口に流す。
「あー、上手い。やっぱりお酒はいいよな」
「あんた今まで飲んだことあったっけ?」
「いや、ないけど。なんとなく言ってみたかった」
レイラは呆れながらエールをちょびっと飲む。
恐る恐る飲むところ、可愛いな。
虫は豪快に食べていたのに。
「なによ」
「いや、ちびちび飲むなーと思って」
「あたしの勝手じゃない」
「まあ、そうだな」
「コリンはエール飲まないのか?」
「僕は、あんまり得意じゃなくて」
コリンの手元にはミルクがあった。
「そうか。健康的だな」
「健康的? どうして?」
「アルコールってのが体に悪影響を及ぼすって、聞いたことがある。まあ飲み過ぎなければ、そんなに気にすることではないけど」
「へー、初めて聞いたよ。ルーク君は博識なんだね」
「ルークは昔からよくわからないこと言うのよ。信じない方がいいわ」
前世の知識は、この世界の人が聞いてもよくわからないだろう。
科学的に正しいと言っても、科学が発達していない世界だと妄想にしか聞こえない。
俺は「ははは」と笑っておく。
「ところで、ルーク君たちは聖都出身じゃないよね?」
「よくわかったな。小さな村から来て、今日着いたところだ」
「見かけない顔だから。何しに聖都に来たの?」
「聖騎士になりに来たのよ」
「そうなんだ・・・。実は僕も聖騎士目指しているんだ。全然ダメだけどね」
コリンは自嘲するように笑う。
「コリンも3日後の入団試験受けるの?」
「うん。一応ね」
「それは心強い。ちなみに試験の内容って知ってる?」
マシューやカナリアから試験内容を聞いたが、なにせ20年以上前の内容だ。
最新の情報を仕入れておかなければ、間違って試験に受かってしまう可能性がある。
それは避けなければならない。
いかに上手に落ちるかが重要になってくる。
「例年通りなら魔力測定と模擬戦だよ。1次試験が魔力測定で2次試験が模擬戦らしい」
「なるほど」
俺は頷きながら考える。
魔力測定であえて低い値を出すか、模擬戦で負けるのがカギになってくるわけだ。
「魔力測定はどういうふうにやってる?」
「確か、水晶に触れて魔力を測るって話だよ」
潜在的な魔力量を測るのか、放出した魔力量を測るのかで、だいぶ違ってくる。
潜在的な魔力量では、試験中に調整が効かない。
魔力を放出して測定するなら、調整可能だ。
今、考えても仕方ないし、魔力測定に関しては本番に判断しよう。
「じゃあ、模擬戦はどんな感じ?」
「模擬戦は受験者同士で戦うんだ。2試合あって、1試合目に勝ったら2試合目に行ける仕組みだよ」
ここで負ければ良いのか。
そもそも、俺が受かる実力を持っているかもわからない。
聖騎士を目指す大半が、俺たちが行ってきた修行と同等のことをやっている可能性もある。
自分が特別だと思う方が無理があるのだ。
きっと、強いやつはたくさんいる。
だから、適度に頑張って負ければいいのだ。
「あたしとルークなら余裕ね」
レイラは自信満々に言う。
彼女はともかく、俺にそんな余裕はない。
俺は稽古のたびにマシューのボコられて、自信なくしたよ。
「自信あるんだね」
「それだけのことはやってきたからね」
と、レイラがコリンに向けて言った。
そのときだ。
「出来損ないコリンじゃないか。こんなところで何やってんだ?」
ガラの悪そうな金髪の少年が現れた。




