第24話「俺は聖騎士になりたくないです」
突然、マシューが部屋の扉を勢いよく開けた。
俺たちはすぐさま、繋いでいた手を離した。
父さん、驚かせるなよ。
レイラはマシューの方も向き、「お邪魔してます」と挨拶する。
「と、父さん、おはよう」
俺も、レイラに続いて体をマシューに向ける。
だが、マシューは挨拶を返すこともなく、無言のまま近づいてきた。
怒りをこらえているような表情だ。
マシューは俺の前まで来ると、手を振りかぶり―――バンッとほほを思いっきり叩いた。
そして、
「このバカ息子が!!!!」
マシューの声が部屋の中に響く。
「・・・」
「お前の行動がどれだけ無謀だったか、わかっているのか!?」
マシューは物凄い形相で俺を睨みつけてきた。
頬がジンジンする。
父さんがここまで怒るのは初めだ。
大抵のことは「はっはっは。気にするな」と許してくれた。
親父にもふたれたことないのに!
いや、今ぶたれたな。
「・・・ごめんなさい」
俺は素直に頭を下げる。
父さんの言っていることは正しい。
あの場面で、もしユリウスが死んでしまうにしても、俺が行くべきではなかった。
危うく、死体が2つ転がるところだったのだ。
「英雄に憧れるのもいい。聖騎士に憧れるのもいい。だが、自分の能力を見誤るな」
マシューは俺の目をしっかり見ていった。
父さん、違うよ。
俺は英雄にも聖騎士にもなりたくない。
一般人として生きていきたい。
「お前は賢い。その歳で魔法も使える。頭もいい。だがな、どれだけ賢くてもお前はまだ子供なんだ。子供のお前が魔人に立ち向かうのは勇気じゃない。無謀だ」
「違います! 彼を行かせたのは自分です。ルークは何も悪くありません」
レイラは立ち上がって父さんにも抗議する。
マシューはレイラの方に視線を移した。
「結果的に誰も死なずに済んだが、俺が来るのが遅ければ、ルークは死んでいたかもしれん。それを肝に命じておけ」
「・・・はい、師匠」
「そして、ルーク」
マシューは俺の方に視線を戻す。
「蛮勇で死ぬ者を俺は幾度も見てきた。無謀な行動を勇気と履き違えるな」
「・・・わかりました」
俺だって戦いたくはなかった。
魔人を前に、勝てるなんて甘いことを考えたわけじゃない。
だけど、実際は戦ってボコボコにされた。
蛮勇と捉えられても仕方ない。
「師匠!」
突如、レイラが大きな声を出した。
「なんだ・・・?」
「あたしは、もう二度と自分の力不足を嘆きたくない。だから、あたしたちを立派な聖騎士になれるように育ててください!」
は? こいつ何言ってんだ?
百歩譲ってレイラが聖騎士になるのはわかる。
これまでずっと目指しきてわけだし。
だが、俺まで巻き込まないでくれ。
俺の夢は一般人として、スローライフを送ることだ。
素敵な奥さん捕まえて、子供も3人ぐらい作って、慎ましくも幸福に暮らすのが夢なんだよ。
聖騎士になったらそれが叶わねーじゃん。
「本気・・・なんだな?」
「はい! 今回のことで魔人の恐ろしさを知りました。それ以上に自分の無力さも―――あたしは、守られるだけの存在で終わりたくないです」
「聖騎士は生半可な覚悟でやれるものじゃない。任務で身近な人が死ぬことがある。大切な人を守れないことがある。それは、自分が死ぬよりも辛いことだ」
マシューは続ける。
「何度も自分の弱さを呪い、それでも前に進まなければならん。一人でも多くの人を守るために。聖騎士になるには、自らを捨て、民のために生き続ける覚悟が必要だ。それでも、聖騎士になりたいか?」
マシューは殺気すら感じる視線で問うてくる。
それに対し、レイラは視線を一切外さずに答えた。
「なりたいです。無力ままではいられません」
「誰かを守るってのはな、守りたいって気持ちだけじゃダメなんだ。守れるだけの力がなけりゃ、何も守れない。本気で誰かを守りたいと思うなら強くなれ! 強くなっても、守れないときがある。ならもっと強くなれ! 強くなって、強くなって、強くなりまくれ! それしか道はない」
マシューは手に力を込めて言った。
俺はそんなに強くならなくても良い。
そこまでして、守りたいものもないしな。
なんなら、童貞を捨てたいぐらいだ。
それに、今回戦ったような魔人とこれからも戦うなんてごめんだ。
「強くなります! 強くなって魔人から大切な人を守ります!」
レイラは決意を込めた表情で言った。
それに対し、マシューは、
「お前たちの気持ちはわかった。聖騎士になれるのは15歳からだ。それまでに、立派な聖騎士として活躍できるよう俺が特訓してやる!」
え、俺なりたいって言ってないよね。
なんか、断りづらい雰囲気なんですけど。
やめてくれー。
俺は聖騎士になりたくなんかない。
「ありがとうございます!」
レイラが決意を固くしている傍らで、俺は死んだ目をしていた。
―第1章 完-
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
1章が終了しました。
さっそく、明日から2章をスタートさせます。
拙作ではありますが、今後もお楽しみいただけるば幸いです。




