第21話「レイラの決意」
レイラの母親は魔人に殺された。
まだ、ユリウスが幼く、彼の記憶には残っていないだろう。
レイラは父と母、それに幼いユリウスの4人で、近くの町まで遊びに行った。
そして、その帰り道に事件は起こった。
ある程度整備された場所であれば、魔人は出没しにくいとい言われている。
安全な旅路であるはずだった。
そんな中、魔人が現れた。
そして、目の前で母を殺され、父は左足を砕かれた。
レイラは弟のユリウスを庇いながら、死を感じた。
運よく、通りかけた聖騎士が助けてくれなければレイラも死んでいた。
よくある話だ。
この世界で魔人による死者数をあげたらキリがないだろう。
だから、自分が特別不幸だと思ったことはない。
むしろ、魔人と遭遇し、生き残れていることだけで十分運が良い。
それは知っている。
自分の力で母親を助けられた、なんておこがましいことを考えているわけじゃない。
同じ場面になったときに、大切な人を失ってしまうことが怖かった。
それがレイラが聖騎士を目指すきっかけだ。
そして、マシュー・ウォーカーに出会った。
レイラはすぐに弟子にしてもらうようお願いした。
マシューは快諾してくれた。
あとで聞いたことだが、マシューは聖級の位にいる有名な聖騎士だった。
聖級といえばまさしく英雄だ。
今までどれほど魔人を倒し、人々を救ってきたことだろうか。
彼に助けられた人はどれだけ感謝していることだろうか。
すごい人に直接師事できるのだ。
自分はなんて幸運なんだろうかと感じた。
マシューからの手ほどきは基本的な動きから始まった。
筋が良いらしく、良く褒められた。
そのときに彼の口からはよく「ルーク」という少年の話が出てきた。
その少年は剣術は全然だが、魔法の才能には目を見張るものがあるらしい。
2歳のときから親に隠れて魔法を使っていたとのことだ。
レイラは、それは嘘だろうと思った。
2歳児が魔法を使ったなんて聞いたことがない。
だけど、もしそれが本当だったら、自分はなんてちっぽけな存在だろうと感じた。
少し、筋が良いと褒められて舞い上がっている。
見たこともない少年に嫉妬した。
そして、ある日、レイラはルークに出会う。
家の前でぼんやりしている少年がいたから、声をかけた。
その少年が聖騎士の息子だと知り、つい戦いを挑んだ。
―――結果は、引き分け。
その後、師匠の家で稽古をつけてもらうようになった。
そこで、何度もルークと顔を合わせたが、彼の価値観とは相いれないものがあった。
聖騎士になり、魔人と戦うことは誇りあることだ。
誰かを守り殉じたとしても、名誉なことだ。
しかし、ルークはその考えを真っ向から否定した。
「良く知らない奴らのために命かけるなんてバカバカしい」
と、一蹴したのだ。
それは聖騎士を否定することにも繋がる。
聖騎士の息子として生まれ、才能もあるのに、それを使おうとしない。
気にくわない奴だ。
レイラはルークを嫌いになった。
そんな彼に、森に誘われた。
(どうせ、カナリアさんに言われて来たんでしょ。でなきゃ、会いにくるわけがない)
わざわざ来たのを追い返すのも良くない、と考えてルークに着いて行くことにした。
森の中を歩いてるとき、ルークと話したが、やはり気にくわなかった。
聖騎士の家系から、どうして彼のような捻くれ者が生まれたのだろう。
不思議だ。
彼の考えは異質だった。
どこか達観しているくせに、臆病さを隠そうともしない。
「村長の娘なんだから、この村で不自由なく暮らしていけるだろうに」
彼の発言に腹が立った。
このまま、ずっと魔人の脅威に怯えながら、生きていけと?
(冗談じゃないわ)
それが自分の幸せだとはどうしても思えなかった。
その後に見せてくれた花畑のおかで、少し気持ちが落ち着いたときだ。
魔人と遭遇した。
魔人が近くにいると知ると、レイラの体は急に動かなくなった。
過去の記憶が呼び覚まされる。
もう奥深くにしまい込んでいた―――自分を庇って母親が死んだときの記憶だ。
(怖い・・・。魔人が怖い)
恐怖のあまり、レイラはその場から動けなくなった。
ルークに急かされなければ、村にたどり着くどころか、あの場で殺されていたかもしれない。
村まで戻り、ユリウスが森にいると知ったときも、恐怖が抜けていなかった。
それでも、自分はユリウスの姉であり、すぐに助けに行かなきゃと思った。
なんのために剣術を習ってきたのか。
ここでユリウスを助けるためだ。
レイラは「助けに行く」と言って、飛び出した。
でも、本当は止めて欲しかった。
魔人を前に自分が正気を保てる気がしない。
身体が覚えている恐怖は、そう簡単に払拭できるものではない。
だから、ルークがユリウスを助けに行くと言って、ほっとしている自分がいた。
ああ、森に行かなくていいんだ、と。
魔人が心底、怖かったのだ。
自分がいかなくても良い理由ができたことに安心してしまった。
(・・・最低ね)
彼らの無事を祈りつつも、自己嫌悪に陥っていた。
そして、ルークはボロボロになって帰ってきた。
レイラが彼を魔人のところに向かわせたのだ。
自分の弱さが彼を殺しかけた。
レイラは聖騎士になりたいと思っていた。
だけど、その覚悟が中途半端なものだったと、今回の事件を通して痛感した。
誰かのために命をかけるのが、聖騎士の役目と言いながら、何もできなかった。
そして、自分が無力であることを知ったレイラは、決意した。
聖騎士になろう、と。
もう、自分の力不足を嘆くのは嫌だ。
周りで誰かが死んでいくのは耐えられない。
レイラは立派な聖騎士になって、大切な人を守れるようになろうと、誓った。




