第20話「魔人との戦いは大変です」
しばらくすると、魔人は諦めたようで、俺に背を向けて動きだした。
助かったのか・・・?
俺はほっと胸をなでおろす。
ここで、待っていればいずれマシューが迎えにくるはずだ。
それまで痛みに耐えればいい。
俺は魔人の背中を見ながら思った。
いや、待てよ。
ユリウスはどうする?
魔人が俺に気を取られている間に、あいつは逃げ出せただろうか。
無理だろうな。
仮に何かしらの行動は取っていたとしても、村まで逃げ帰れたと思うのは楽観的だろう。
このまま、魔人と戦ってゲームオーバーになるか、戦わずしてゲームオーバーになるか。
どっちも同じ結末になるなら、
「・・・ははは、なんだよ。簡単じゃねーか」
何も迷う必要ない。
戦わずして勝つのは好きだが、戦わずして負けるのは嫌いなんだよ。
ボロボロにされて、何も為せずにゲームオーバー?
冗談じゃない。
吐きたくなるような痛みも、魔人の恐怖も、すべてが無意味になるのか?
俺の行動は無駄だってことなのか?
いいや、そうはさせない。
俺は歯を食いしばって立ち上がる。
そして、折れた左足を引きずりながら、前進する。
一歩動くごとに、潰れた足の痛みが悲鳴を上げる。
その痛みを無視して、前に進む。
俺は、花畑から出た。
そして、俺は右手に魔力を込め、
「岩弾!!」
と、直径1メートルの岩を魔人に向け放つ。
―――ドンッ
だが、俺の放った岩は魔人に当たらず、木をへし折って遠くへ消えていった。
「ちっ、仕留め損なった」
集中力は乱れていたのもあるが、俺に射撃のセンスはないらしい。
魔人は俺の方を振り向き、ニヤッと醜悪な顔を歪める。
そして、こちらに走り出してきた。
「いいぞ、こっちに来い」
わざわざ、花畑から出てきてやったんだ。
来てもらわなきゃ困る。
俺はそのまま、石弾を放ちまくる。
魔人に命中したのもあるが、ほとんど効いていないようだ。
「・・・なんて頑丈な奴だ」
相当魔力を込めて放っているはずなのに。
魔人は走りながら、近くにあった石を拾って投げてきた。
石といっても馬鹿にしてはならない。
やつの投石をまともにくらえば、先ほどのように体の一部をに潰されてしまう。
「土壁・・・!」
目の前に土の壁を発現させ、攻撃を受け止める。
「岩弾!!!」
俺は出現させた土壁を岩に変えて放つ。
今度は魔人に向かって、上手く飛んでいった。
だが、魔人はそれをひょいと体を捻らせて躱す。
「くそっ・・・」
と呟いた直後、魔人が贅力を駆使し、一気に距離を詰めてきた。
その力はどこに隠し持っていたんだ。
魔人が最初から本気でなかったことに気づく。
「硬化!」
俺は咄嗟に腕に土を纏わせ、腕をクロスさせる。
次の瞬間、両腕にハンマーで叩かれたような衝撃が走った。
魔人に殴られたのだ。
潰れた左足では体を支えきれず、吹き飛ばされる。
すぐ後にある木に背中からぶつかった。
「―――ガハッ」
一瞬、意識を失いかける。
魔人は、さらに追い打ちをかけ、俺の腹に蹴りを入れた。
俺は、凄まじい勢いで地面を転がる。
「グッ・・・」
満身創痍だ。
左足のみならず、両腕や腹も熱い。
さすがに、俺が動けないと見たのか、魔人はゆっくり近づいてきた。
そして、俺の前で止まると、ニタリと嗤った。
力の差がありすぎる。
左足をつぶされず、最初から万全の状態でも敵わないだろう。
そもそも俺は戦い慣れしてないんだ。
前世で平和にぬくぬく暮らしていた俺にこんなハードな戦い求めるなよ。
なぜ、俺は魔人と戦っているんだろう。
答えはわかっていても、そう問いかけたくなる。
「・・・死にたくねぇ」
それが答えだ。
一度死んだ身であっても、やはり死にたくない。
だから、戦うしかない。
俺は人差し指にありったけの魔力を集中させる。
魔人は俺がまだ動けることに驚きつつも、一瞬で距離を詰めてきた。
だが、遅い。
今までどれだけ魔法の練習をしてきたと思ってるんだ。
どんな状態であろうと、魔力を扱えるだけの鍛錬をしてきたつもりだ。
「石弾・・・!!」
魔人の胸に向けて全力の一撃を放った。
使い慣れた魔法が最も素早く発動でき、相応の威力を生むのだ。
直後、「ドンッ」という音とともに右肩が外れるのを感じた。
「うっ・・・」
魔法の威力は、それに込められた魔力量に依存する。
その反動は凄まじく、今の一撃で右肩が外れるほどだ。
そうして放った渾身の一撃は、魔人の胸にポッカリと穴が開けるに至った。
魔人はゆっくりと仰向けに倒れていく。
勝てたのか・・・?
もう、これで勝てなかったら本当に対処のしようがない。
魔力はまだ残っているものの、体がボロボロだ。
体中の痛みによって、意識を保つのが精一杯だ。
もう戦いたくない。
だから、頼む。
起きない上がらないでくれ。
「―――ごろず。おまえ、ぜっだいごろしてやる」
「・・・・なんでだよ。理不尽だろ」
奴はまだ生きていた。
胸に穴が開いた状態で、俺を睨みつけていた。
化け物め。
魔人は起き上がる。
それに対し、俺は動けないでいた。
やつは俺の頭を掴み、体ごと持ち上げた。
こいつを倒す手段が思い浮かばない。
穴が開いても生きてるっておかしいだろ。
なんだよ、その設定。
聞いてねーよ。
だけど、黙って殺されのは勘弁だ。
自分が死んでしまったら、仕方ないと言ってすぐに受け入れられる。
だけど、まだい生きていて、生き残れる可能性が1パーセントでもあるなら、最後まで足掻いてやる。
無様だと笑われようが、そんなの構うもんか。
諦めが悪いんだよ。
二度も理不尽に殺されたくねーんだよ。
俺は左腕に魔力を込めようとした、その瞬間だ。
―――ザンッ。
魔人の首が落ちた。
一瞬の出来事だった。
魔人が手の力を失ったことで、俺は地面にドスッっと落ちたされた。
「待たせたな、ルーク」
その声は普段からよく聞いていたはずなのに、随分と懐かしく感じる。
とても安心感がある声だった。
「・・・父さん」
そこにはマシューがいた。
「死ぬかと思ったよ」
俺はそう言って意識を手放した。




