第18話「ユリウス」
ユリウスは姉のレイラが好きだ。
かっこよくて、強くて、綺麗で、頼りになる最強のお姉ちゃんだ、と思っている。
母親を知らないユリウスからすれば、レイラは姉であると同時に、母親でもあった。
物心ついたときから、レイラにべったりとくっついてきた。
レイラといるときが一番幸せだ。
ユリウスは心の底からそう思っていた。
そんなある日、ユリウスとレイラはマシューという男に会った。
ユリウスはただの暑苦しいおじさんだと思った。
だが、レイラの反応は違ったようだ。
レイラはキラキラした瞳でマシューを見ていた。
嫌な予感がした。
大好きなお姉ちゃんを取られてしまう、と。
そして、ユリウスの予感は当たった。
レイラは「聖騎士になりたい」と言い、マシューに弟子入りした。
それだけならよかった。
マシューが来る日はそれほど多くない。
少しの時間、姉が取られるのを我慢すれば良いのだ。
だが、レイラはマシューがいない間も熱心に稽古するようになった。
そして、ユリウスと遊んでくれなくなった。
大好きなレイラが取られた。
遊ぼうと誘っても忙しいと言って断られる。
そうしてしばらく経つと、次はルークという少年が出てきた。
(こいつも僕からお姉ちゃんを奪うのか・・・?)
今まで、レイラは同年代の子供たちと一切遊ばず、相手にしなかった。
だが、ルークに対しては、他の子供とは違う反応を示していた。
レイラは、ルークのことを「馬鹿だ」とか「あいつは根性がない」と言っていた。
だが、その言葉を聞いたユリウスは、レイラが同年代の子について話していることに驚いた。
基本的に興味がないものは視界にすら入れない、あのレイラが、だ。
その事実が余計にユリウスを不安にさせた。
そして、今日。
レイラがルークと一緒に遊びに行くと言い出した。
普段、あれだけ嫌っているのに。
ユリウスは焦りを感じた。
(お姉ちゃんが離れて行っちゃう)
そして、こっそりとレイラの後を尾行した。
レイラとルークの歩みはゆっくりで、十分ついていくことができた。
森に入ってから半刻経った頃、突如、二人は立ち止まった。
森の中、ぽっかり空いた空間を見つめながら、しばらく彼らはそこで佇んでいた。
(何やってるんだろう)
近くの木に隠れながら様子をうかがっているときだ。
突然、ルークがレイラの腕を掴んだ。
ユリウスは「何やってんだ!?」と、つい大声を出してしまう。
次の瞬間、彼らは一気に駆け出した。
(やばい、気づかれた!?)
ルークは一瞬焦ったが、二人がユリウスに気づいている様子はなかった。
彼らは物凄い早さで走り去っていった。
急いで追いかけようとしたが、すぐに見失う。
(うーん・・・。なんだったんだろう)
ユリウスは考えたが、わからない。
そういえば、ここはどこだろうか、と周囲を見渡す。
気がついたら迷子になっていた。
どうしよう、と急に心細くなる。
しばらく一人で歩いていたが、一向に森から抜け出すことはできない。
森に入るときはいつもレイラが傍にいた。
レイラについていくだけで良かった。
「お姉ちゃん・・・」
ユリウスはポツリと姉の名前を呼んだ。
そして、こらえ切れず、その場で泣き崩れた。
どれくらい経ったのだろうか。
気が付けば、森が暗くなってきた。
このまま、森で一人取り残されてしまうのではないか、と不安に襲われる。
(弱音を吐いちゃ、ダメだ)
レイラだったらこういうときも諦めずに帰る方法を探すはずだ。
ユリウスはそう決意したときだった。
ガサガサ。
近くで音がした。
(お姉ちゃんが探してきてくれたのかも!)
ユリウスは淡い期待を抱き、音がした方向を向く。
だが、そこにはレイラはいなかった。
代わりに、人の形をしている黒い何かがいた。
醜悪な顔とただならぬ気配が、ユリウスに恐怖を抱かせる。
「あ・・・」
恐怖のあまり、思った通りに声が出なかった。
ユリウスは急激に鼓動が早くなるのを感じ、額から汗がにじみ出る。
逃げなきゃダメなのに、体は自分のものではないように、言うことを聞いてくれない。
その間にも黒い何かはユリウスに近づいてきた。
2メートルを超える巨大な体で、のそり、のそりと近づいてくる。
「みぃつけた」
背筋に冷たいものが走る。
(助けて・・・お姉ちゃん)
ユリウスは、ただ祈るしかできなかった。
化け物は、引き裂けるくらいに口を大きく広げた。
ユリウスは死を意識した。
もうダメだ、と諦めかけたその瞬間。
「石弾!!」
魔人の顔に石が直撃した。




