第16話「神に脅迫されました」
この感覚には覚えがある。
「さすがに3回目となれば慣れたものだね」
モザイクがかかった神がいる。
俺は無修正が好きなんだよ。
別に他意はないぜ。
「君の性的嗜好に興味はないよ」
お前にわかってもらいたくない。
それより、今回呼んだ目的はなんだ?
「いきなり本題かい? アイスブレイクを挟もうよ」
俺にそんなコミュ力ないわ。
それに、お前と談笑する気はない。
「つれないなー。まあ、仕方ないか。単刀直入に言うとね、ユリウスを救って欲しいんだ」
ユリウスを救えって?
あの魔人のところに行けってことだよな。
無理だ。
「彼が死んでも何も思わないのかい?」
そんなことはない。
だけど、自分の命とユリウスの命を天秤にかけたら、自分の方が重いだけだ。
「君の言い分はわかる。死にたくないのもわかる。でもそれだと困るのさ」
お前が困ったときは碌なことがない。
「世界を救ってもらうために君を転生させたんだ。人一人救えないで、世界なんて救えないよ」
何度も言うが、俺は世界を救う気なんかない。
それはお前の都合だろ。
「そうだね。僕の都合だ。だから、今回も好きなようにさせてもらうよ」
俺の体でも乗っ取るのか?
「そんなことはしないし、できないよ。ところで、君はロールプレイングゲームは好きかい?」
好きと言えば好きだが。
「気が合うね。僕も好きさ。主人公が最強で爽快感を味わえるゲームよりも、苦戦してようやく敵を倒せる方が燃えるんだ。主人公のレベルに合った敵が出てきて。それを倒して成長していくところ。楽しいよね」
その気持ちはわからないわけでもない。
敵のレベルが低すぎると、すぐに飽きてしまう。
ラスボスの手前まで行った状態で、始まりの町のスライムを倒したところで全然楽しくない。
「うん。その気持ち、すごくわかるよ。やっぱり僕たちは気が合うようだ」
それはない。
で、今回の魔人がちょうど良い敵ってことか?
「あはは。そうだね」
お前がコントロールもって、動かされる主人公が俺ってわけだ。
冗談じゃねー。
俺は動かねーぞ。
「君が行かないと物語が進まない。だから、ちょっとだけ強制させてもらうよ」
何をする?
「彼を救えなければゲームオーバー、と言ったら、君はどうする?」
ゲームオーバーって、あんまりいい響きじゃないな。
ユリウスを助けないと俺は死ぬってことか?
「救えば何も問題ない」
お前、相当良い性格してるな。
「誉め言葉かい? ありがとう」
褒めてない。
それより、俺の質問に答えろ。
ゲームオーバーってなんだ?
「死ぬってことさ」
脅迫か?
「僕だって本当はこんなことはしたくないんだ」
お前だったら、うきうきしてやりそうなことだが。
「酷いな。僕をなんだと思ってるんだ?」
くそ野郎。
「あはは。神に対してそこまで言える根性。さすがだよ」
ついでに一発ぶん殴らせて欲しいくらいだ。
「うんうん、いいね。君のその反骨心。期待してるよ」
神はそう言って消えやがった。
身勝手なやつだ。
俺をただのゲームコマとしか見ていないらしい。
何がロールプレイングゲームだよ。
本当に嫌になる。
これだから転生したくなかったんだ。
■ ■ ■
「ちょっと。あんた大丈夫?」
「ん・・・。ああ、問題ない。俺はどのくらい気を失ってた?」
「一瞬よ。いきなり倒れるからびっくりしたわ」
そうか。
あの世界での出来事は、現実世界では一瞬なのか。
おそらく時間の進み方が違うのだろう。
「悪かったわ。あんたも疲れてるのに、怒鳴ったりして」
「大丈夫だ。・・・俺がユリウスを助けにいく」
「はあ!? だって、さっきまで否定してたじゃない」
「気が変わったんだよ」
変わったというよりも変えさせられたっていうのが正しい。
ほんとにあの神様はどうかしている。
悪魔と言われても納得だ。
「お前はここに残ってろ」
「いや! あたしも行くわ!」
「だめだ」
「どうしてよ! 女だから?」
「レイラはまだ少女だ」
さすがに8歳の少女を危険な目に合わせるわけにはいかない。
そのくらいの正義感は持ち合わせているつもりだ。
「はっ、そんな理由で? ふざけないで!」
「父さんからレイラを守るように言われてるんだ。それに―――レイラの手、震えてるぞ」
魔人から逃げるときから、彼女が震えていることを知っていた。
無理もない。
バイ〇ハザードもレ〇ンのように、みんながみんな化け物と戦えるわけではない。
魔人を前にして、まともな神経でいられる方が特殊だ。
俺だって小便もらしたぞ。
さっきまでパンツ濡れてたからな。
恥ずかしくて言えないが。
「そんなこと・・・。だってあの子はあたしの弟で・・・。あたしが行かなきゃ」
「お前が来ると足手まといなんだよ。いいから、ここで待っとけよ」
レイラが魔人の前でまともに動けるとは思えない。
「大丈夫。戦いにいくわけじゃない。ユリウスを見つけたら、すぐに帰ってくるよ」
「・・・ごめんなさい」
レイラは今にも泣きだしそうな表情だ。
彼女には、キツいことを言ったが、これがきっと最善の選択だ。
彼女を危険な目に合わせたくない。
それが俺の本心だ。




