第10話「レイラが家に来ました」
「レイラです。よろしくお願いします」
レイラが家にきた。
こいつ、俺の前だと、好戦的だが、意外と礼儀正しい。
村長の娘ということで、それなりの教育を受けているのだろうか。
「わー。可愛い! よろしくね、レイラちゃん」
「は、はい! カナリア様!」
母さんに様付けか。
まあ、カナリアも元聖騎士だからね。
憧れの対象なのだろう。
「様はいらいわ。カナリアで良いわよ」
「いえ、さすがにそれは・・・では、カナリアさんで」
「うん、そうね。それで許しましょう」
「じゃあ、さっそく稽古でもするか!」
「はい! よろしくお願いします!」
脳筋のマシューとレイラは、挨拶を終えるとすぐに庭に向かった。
レイラはマシューに師事していたこともあり、基本的な動きはできていた。
ぶっちゃけ俺よりも全然様になっている。
「レイラは才能あるな!」
マシューはうれしそうだ。
俺みたいな才能ないやつ相手より、よっぽど楽しいのだろう。
それに二人は相性も良いようだ。
「こう、ぶわっと踏み込むのだ!」
「師匠、こうですか!」
「そうだ! 次はこうやってだな!」
「わかりました! こんな感じでしょうか?」
「おお! さすがは俺の弟子だ!」
傍から見ていると、「なんで、それで伝わるの?」と思うことも二人なら通じ合うらしい。
俺はそれについていけず、庭の端っこで一人身体強化の練習を始めた。
別に拗ねてねーし。
マシューにはいつでも指導してもらえる。
それに身体強化を制した者は戦いを制すると言われている。
現代でもそうだが、剣術をいかに極めたところで、一人で何十人も相手することはできない。
せいぜい、3人か4人かだ。
一騎当千なんて夢のまた夢だ。
しかし、身体強化ができれば話が変わってくる。
身体強化を極めた者には、一般的な剣ではほとんど傷すらつけられない。
そして、常人の何倍もの身体能力を有する。
まさにチートだ。
その分、習得するのには相当の訓練が必要になる。
俺は強制的とはいえ、6年近く魔法を扱ってきたわけだが、それでも初歩レベルの身体強化しかできない。
チートが欲しい。
俺の中にすごい力眠ってないのかな?
あの神がそんな特典付けてくれるとは思わないけどさ。
そんなことを考えながら修行をしていると、「よし! 今日はここまでだ!」とマシューが言った。
もう、終わりの時間か。
「3人ともお疲れ様。汗かいたでしょ。水浴びでもしてらっしゃい」
「そうだな、ルークとレイラ、先に行ってきていいぞ!」
え、レイラと一緒に水浴びするの?
だって、裸になっちゃうよ?
俺の息子が元気になっちゃうよ?
「ルーク。レイラちゃんを洗い場まで案内してあげてね」
「あ、はい」
まだ、8歳だから許されるのだろうか。
子供のレイラに欲情なんてしないけど、恥ずかしいな。
そう思いながら、レイラを洗い場まで案内する。
洗い場に着くと、すぐにレイラが脱ぎだした。
おー、大胆だな。
いや、待て。
相手は子供だ。
そして、俺も子供だ。
あれ?
全然問題ないじゃん。
親も了承していて、レイラもそれを嫌がっていない。
これは合意の上の行為だ。
って、子供相手に何考えてんだ。
俺はなるべく彼女を見ないようにしながら、服を脱ぐ。
そして、水魔法を使って体を洗う。
こういうときに水魔法は便利だ。
「ねえ、あたしにも水かけてよ」
「水魔法使えないのか?」
「あんたね・・・。普通の人はほとんど魔法使えないのよ」
え、そうなんだ。
家では全員が当たり前のように魔法使ってたから、これが普通だと思ってたわ。
「水かけるぞ」
俺はレイラの体をなるべく見ないようにしながら、水をかけてあげる。
「ひゃっ」
冷たかったのか、彼女は小さく声を上げた。
うん。
大丈夫だ。
俺はロリコンじゃない。
やましいことは考えていないぞ。
そうだ。
こういうときは羊でも考えよう。
羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹・・・。
「ちょっと、あんた! もういいわよ!」
「あっ、そっか、ごめん、ごめん」
俺たちはカナリアが用意してくれた布で体を拭く。
「あんたは、いいわよね」
ふと、レイラが呟いた。
「何が?」
「聖騎士の息子ってところよ」
「そうかな」
「わかってないの!? 師匠は聖級、カナリアさんは上級まで上り詰めた聖騎士なのよ!」
「・・・聖級と上級?」
「何も知らないのね・・・。聖騎士には神級、聖級、上級、中級、下級の5つのランクがあるのよ」
「なるほど」
厨二心をくすぐられるぜ。
「聖級ともなれば聖都の守りを任せられるレベルよ。間違ってもこんな小さな村にいるような人たちではないわ」
聖都といえば、国の中心だ。
その守りを任されるのは聖騎士にとって、名誉なことなのだろう。
だけど、二人なら「都会で忙しく働くよりも、田舎でのんびりしたい」と言って、この村に来たとしても、おかしくはない。
そもそも、俺が生まれたときから彼らはここにいるのだ。
俺からすると、この村にいない二人の方が違和感がある。
「別にこの村だって小さいが、悪くないぞ」
田舎でスローライフ。
悪くないと思うが。
「そういうこと言ってるんじゃない。ただ、もったいないと思ったのよ」
「父さんも母さんも楽しそうだし、これで良かったよ」
聖都がどういうところかは知らないが、都会は気疲れしそうだしな。
俺たちは服を着ると、庭に戻った。
「あらあら。レイラちゃん、髪が濡れてるわ。こっちにおいで」
「は、はい」
カナリアはレイラを目の前に座らせると、彼女の髪に触れた。
すると、レイラは気持ちよさそうに目を細めた。
カナリアは魔法でドライヤーを再現し、レイラの髪を乾かしているのだ。
ちなみに俺は髪が短いため、自然乾燥で十分。
「あ、ありがとうございます」
「なんだか娘ができたみたいで、うれしいわ」
カナリアはにっこりと笑う。
「はっはっは。そうだな!」
二人のことを尊敬しているレイラは恥ずかしそうに俯く。
「あ、あたし・・・もう帰ります!」
「あら、もうちょっとゆっくりしててもいいのに」
「いえ、大丈夫です! ありがとうございました!」
レイラはぺこりと頭を下げる。
「そう・・・。じゃあルーク。見送ってあげて」
「そんなのいらな・・・いえなんでもないです」
こいつ、いらないって言おうとしたな。
俺だって見送りなんかしたくねーよ。
だが、ここで見送らないとカナリアに怒られるだろうな。
俺はため息を我慢し、レイラを見送ることにした。




