幼馴染と親友と一緒にご飯を食べます。
「日が暮れてきたね。そろそろ晩御飯の時間じゃない?」
「それもそうですね。行きますか」
窓から差し出す光が夕暮れの赤い色に変わっていました。
時計を見るとすでに5時を回っており、晩御飯の時刻に近づいていました。
私は出したカップなどを片づけて、雄くんと共に食堂に向かいます。
ただ……歩く隣の距離が少しだけ遠い気がします
「そういえば……私の味方は誰なのですか?」
食堂へ向かおう廊下を歩いているとふと思い出しました。
雄くんはこれまで何度も味方がいるって言ってました。
私も命を狙われているので誰が味方なのか。誰に助けを求めていいかが気になります。
「え、気づいてないの? 昨日、一緒にお風呂に入ってたじゃない」
「お風呂……う! 頭が……」
思い出すことを拒否するような痛みが頭を襲います。
なんだか一瞬だけ女の雄くんが湯船の中に見えた気がしますけどきっとそれは気のせいです。
「だ、大丈夫? でも、名乗ってないのか。じゃあ、僕から言うね。彼女は――」
「雄、言わなくていいよ。」
私たちの後ろから音もなく現れました。
振り返るとそこには――――。
「え、雲母ちゃん?」
「うん。私だよ。優奈のボディガード役だね」
私の親友の雲母ちゃんがいました。
内心では驚いて……はい。驚いていますけどそれほどです。
もともと、雲母ちゃんの身体能力が高いところや教会に行くことが多いことは知っていました。
恐らくは心のどこかで雲母ちゃんは護衛者じゃないかと考えていたかもしれません。
だったら、私は雲母ちゃんに聞いておくことが、確認しておかなければならないことが一つあります。
「雲母ちゃんは雄くんが……」
「大丈夫。知ってるよ。事情が事情だしね」
廊下という場所もあってか、雲母ちゃんは私の唇に人差し指を当てて口止めをしました。
どうやら、私の杞憂で雲母ちゃんは雄くんが男であることを知っているようです。
……よかった。本当によかったです。これで少しは話してもいい相手が増えました。
と、考えていると雲母ちゃんが雄くんに詰め寄ります。
「それよりも雄。昨日のことだけど」
「優奈ちゃんの体調はもう……」
「そうじゃなくて、大浴場の」
ひそひそと顔を近づけ合って話をしてます。
会話が途切れ途切れに聞こえて、何を話しているかはわからないですが……。
……なんでしょう。親友の雲母ちゃんと雄くんが話しているのがなんだかムカムカします。
「と、とりあえず行きましょうよ。雲母ちゃん」
「それもそうね。いこっか」
すっと雄くんから顔を離しました。
そして、私の原因不明のムカムカも解消されて、あれはいったい何だったんでしょうか?
食堂では学校は休みだというのに寮の仕事がある早苗がかっぽう着姿で出迎えてくれました。
入って中を一通り見渡すとまだ夕食には時間が早いからか人がまばらです。
「あ、3人とも来たんだ。優奈さん。体調は大丈夫?」
「はい。もう大丈夫です」
「そうなんだ。よかった~」
早苗は胸に手を当ててほっとしています。
他人事なのに自分のことのように思ってくれる早苗の気遣いがうれしいです。
と、考えているのもつかの間、すぐに早苗は切り替えて厨房に向かいます。
「ちょっと待っててね。すぐに作るから」
「あ、手伝いますよ?」
「ううん。これぐらいなら厨房でまわせるから問題ないよ」
早苗は腕を叩いて任せろっといった感じです。
こういう時、早苗が年下なのに母性を感じます。
やはり寮母という仕事は早苗に合っているのでしょう。
私たちは適当な4人席に隣に雄くん。向かい側に雲母ちゃんという布陣で座りました。
数分後、ほかほかのご飯とにくじゃが。食欲をそそるサンマとみそ汁が私たちの前に並びました。
これはもう、我慢できませんね。
早々に備えられた箸を手にして、サンマに箸を伸ばした時、隣に座る雄くんがポツリッとつぶやきました。
「……飯に問題はないか」
「ん? 雄くん何か言いました?」
「いや、なんでもないよ」
何かつぶやいた言葉がうまく拾えませんでした。なんでもないって答えられたらそれ以上は追及できません。
とりあえず、サンマの身を一口……うん、素晴らしいです。
サンマの味がしっかり口の中を覆い、ご飯をかき込みたくなります。
夢中でご飯に手を伸ばし、咀嚼。最後にみそ汁を吸って完成です。
「ああ、いい……」
思わず、感想がこぼれます。
自分が作ってはこうはなりません。
やっぱり人が愛情込めて作ってくれるもののおいしさは格別です。
そう思いながら、肉じゃがつまんでいると目の前でどんどん食べている雲母ちゃんが話しかけてきました。
「ねえ、優奈」
「なに?」
「その、雄の呼び方の雄くんってやつ。やめた方がいいよ」
「へっ!?」
「いや、雄は女性になっているんだから。その言い方はおかしくない?」
「あー、そうですね。慣れてて気づきませんでした」
「優奈も相当なものだね」
雄くんを見るとすでに食事を終えて背筋を伸ばして座っています。
どこからどうみても美少女の現身……いえ、女神の現身といった方がいいでしょう。
と、話が脱線しましたね。確かに、外見女性の雄くんを雄くんと呼ぶのは問題がある気がします。
ですが、別にそれほどでもない気がしますが……。
とりあえずは雄くんの設定である妹という立場からすると呼び方はこうでしょうか。
「えーと、妹なら私も雄って呼び捨て?」
「なんでしょうか。お姉さま」
「…………」
「露骨そうに嫌な顔をしないでください。優奈ちゃん」
駄目です。雄くんにお姉さまと言われることに拒絶反応が出ます。
嫌な顔をしている自覚を持ちつつ、座り直して雄くんに言います。
「……ここがお嬢様がいる学校だからいいけど。それはなんだか疲れます」
「だったら、どうしたらいいの」
雄くんの言う通りですが……恐らく、私はもう雄くんに優奈ちゃん以外の名称で言われることに違和感を覚えています。
これはあれですね。子供が背伸びしてママという呼び方からお母さんという名称に代わる心境でしょう。
これはむずかゆい……もとい、なんか嫌です。
なら、嫌なことをするぐらいならいっその事、このままでいいじゃないですか。
「そうですね……優奈ちゃん、雄くんでいいです」
「それだと」
雲母ちゃんが指摘しようとする言葉を遮って私は言います。
「適当にエピソードを作りましょう。そうですねぇ、小さいころからおままごとをしていてそれが定着したって設定でどうでしょう?」
「あ、なるほど。それなら……」
「えー、僕はもうおままごとする歳じゃ」
「設定です! いいですね!」
「は、はい」
ぐだぐだとこの話を続けるのは私の精神衛生上よろしくありません。
とにかく、今後、雄くんの呼び方を指摘された場合はこの対処法で何とかしましょう。
そう決意し、みそ汁を一気にすすりました。




