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会場へ入るとウエディングドレスに纏った人であふれていた。オッドアイの妖精、精霊
(?)の周りを水もないのに泳ぐ魚、はたまたキョンシーの恰好をした者までと多種多様。
「レッディースアーンドジェントルメーン。この度はミス花嫁コンテストに参加いただき、
誠に有難うございマス。わたクシ、主催者のジョヴァンニと申しマス。以後、お見知り
おきヲ」
会場に小さな拍手が起こる。ベルゼとアドラに関してはやる気マックスでそれどころで
はなかった。ノイレに関しては片っ端から料理を口に放り込んでいる。
「でハ、早速始めまショウ。自分の魅力を存分にアッピールしてくだサイ」
エントリーした者が順番に舞台へと上がっていく。ベルゼ達も慣れないヒールで駆け寄
る。
「エントリーナンッバー1番。エッレーナ」
黒檀のように黒く、さらりとした長髪。こういった場は初めてなのか、顔には焦りの色
が見えている。裾の部分は水面のようにたゆたい、不思議と水しぶきはあがらない。
「あ……あの。わたしの知らない間にこのような催しに応募していたみたいで……その」
マイクを持つ手が少し震えているのがわかる。よほど緊張しているのだろう。それを見
た客席の誰かが優しく拍手をした。それに反応して段々と拍手が大きくなり、彼女を包み
込んでいく。
「あ……あの。こういったことは初めてなのですが……た、楽しんでみようと思います」
一呼吸してからゆっくりと彼女の口はそう紡いだ。彼女を包んだ拍手は彼女だけでなく、
彼女の心や緊張感までも優しく解きほぐしたのだろう。マイクを返す時の顔は微笑んでい
た。
「ありがとうございマス。今日は楽しんでいってくださイネ。では、続いて、エンットリ
ーナンバー2番!ルサリィ」
「やっほー!今日は目一杯楽しんじゃおうね!よろしくー」
物怖じしない、適度なカジュアルさで会場を沸かせた。それに続いてキョンシーの子も
自己紹介を済ませた。次はキツネのような女の子でみんなと装いが違っており、どこか異
国情緒のあるドレスだった。
「皆さん、元気な自己紹介、有難うございマス。では、続きまして新作ドレスの紹介デス」
舞台へ上がったのはクローマ、トルトゥーラ、食事に夢中になっているノイレを無理や
り舞台へ案内した。ノイレの後にベルゼ達も続いた。
「このようなイベントに参加させてもらっている上に、素敵なドレス……とても幸せです。
この気持ち、みなさんにも分けたいです。届いて欲しいです、幸福の薄紅」
クローマがその場で小さく回転をすると、どこからともなく薄紅色の花弁が舞った。そ
の花弁は審査員のいるデスクにまで綺麗に舞った。
「続きまシテ、トルトゥーラさん。お願いしマス」
「私の特技は……調教かしら。ありとあらゆる方法で満足させることができるわ……」
一瞬だけだが、目が合ったジョヴァンニは背筋に何かを感じた。
「な……中々刺激的なアッピールありがとうございマス。続いて、ノイレさんどうド」
係の人に口元を注意さて、慌ててドレスの袖で拭きながら前へ出る。
「私の特技はバトルだぁ!私は強いぞぉ!」
……場違いとも取れかねないアピールだったが、空気を読んでか小さな拍手だけ起きた。
当の本人はとても満足そうな顔をしているので良いということか。
続いてベルゼが前へ出ようとした時、足元から急に炎が現れ、(ドレスが少し)焦げた。
「あつっ!あっつ!おのれアドラ……!姑息な手をっ!」
「あーらなんのことかしらぁ?さぁ、虫女はほっておいて、審査を進めるのよ」
まるで子供が悪戯をしたかのような仕草でベルゼを一瞥、自分は堂々と前へ出てアピー
ルを続けた。自分が誰よりも一番だということを短時間で審査員にぶつけ始めた。
審査も落ち着いた所で更にアピールをしようとしたところに、アドラの顔に何かがぶ
つかってきた。それも大量の……。
「あだっ!あだだっ!汚いわよベルゼっ!」
「がさつ者がうるさいな……さぁ、審査員よ。今のうちに審査を進めるのだ。ここからは
乙女の時間だ」
「おっ?乙女ぇ?あんた何言ってんのよ」
ベルゼが前に出てこれでもかと自分をアピール。普段は無縁ともいえるドレスを着て、
公の場に立つことなんて皆無に等しいのだから。内心、楽しくなってきていると感じてい
るのだろう。笑みがいつもよりも柔らかくなっていた。
「ふ~ん。あいつ、結構可愛らしいとこあるじゃない」
いつも見せない顔を見たアドラは少し驚いていた。いつもは冷たく見下す事しかできな
いと思っていたのだが、この場ではちょっと女性としての楽しさを感じる。敵ながらも感
心していた。
「はぁい!皆様、お疲れ様でシタ。この後、審査結果をするまで暫しご歓談くだサイ」
ジョヴァンニがその場を一旦締め、解散。エレーナは遅れてやってきた仲間から賞賛を
受けていた。本人は最初困り顔ではあったが、素敵な催しに参加させてくれてありがとう
と、感謝の意を述べた。緊張もだいぶほぐれてきて良かったみたいだ。
ルサリィも近くにいる花嫁姿をみて、興奮していた。中でもまるでおとぎ話にでてきそ
うな王子様とお姫様が目の前にいるのだから。ルサリィはあまりにも興奮して息ができな
くなった。
グラスを片手にアドラとベルゼ。特にこれといった話題もなくちびちびと飲み歩いてい
る。グラスの中身が半分くらいまで減ったところで、アドラは気になっていた事を口にした。
「ねぇベルゼ。前から気になってたんだけどさぁ」
「なんだガサツ女」
「……あんたとルシファーってどんな関係なの?」
何気ない一言を発したつもりなのだが、聞かれたベルゼの顔は真っ赤になった。
「わ……あ、あの御方の事……あ……その……恐れ多いくて……」
急にもじもじしだしたベルゼ。それを見たアドラ。普段はそんな滅多なことでは驚かな
いアドラだが、もじもじしているベルゼにはぎょっとした。
「確かに……あの御方は……偉大だ。だが、時々思うのだ。私は、あの御方に相応しいの
かと」
飲み干したグラスを適当に置いたアドラはベルゼの肩を叩いた。
「まぁ、相応しいかどうかなんて気にしないことね。そんなのに縛られてたらつまんない
じゃない。大事なのはあんたがどう思うかでしょ。思っていれば、いずれ伝わるんじゃ
ない?それにあたし、そんなのに縛られて悩んでるあんたなんか見たくないし」
いがみ合っていた二人だが、今はちょっとした相談をするくらいにまでになっていた。
これも乙女心が解放されている証拠だろうか。
『意外な一面もあるのね。ますます可愛いじゃない』
アドラは追加で飲み物を二つ注文し、ベルゼの飲みかけのドリンクと交換した。そして、無理やり乾杯をした。
「な……なにを」
「はいっ。うじうじ悩んでる時間おっしまーい。これからはいつもの胸張って生意気な言
葉吐いてりゃいいのよ。そっちの方があんたらしいわ。つーことで、これからのあんた
の幸せ、願ってあげるわ。ありがたく思いなさい」
何が起こったか理解するまで時間は要したが、ベルゼはいつもの凛とした表情に戻った。
「……つまらない話をしたな。忘れてくれ」
「つまらなくないわ。あんたがラブリーな恋心を抱いてるってのは充分にわかったから」
「なっ!き、貴様!」
「あははっ。そうよ。その顔よ。それでこそあたしのライバルに相応しいわ。いいこと?
今後、あたしの前でうじうじした顔見せたら承知しないわよ。もし、見せたら……あん
たの恋話、魔界中にバラまいてやるから」
「っ!や、やめろ!」
「だったら、もうこれっきりにしなさいよ。今日は特別だからね。だからといって、ミス
花嫁コンテストの優勝は渡さないから!」
「望むところだ。私も優勝は誰にも渡さない」
ライバルモードに戻った二人の意識を呼び戻したのは、ジョヴァンニの集計結果が出た
というアナウンスだった。二人は集計結果が出されている玄関ホールへと急いだ。




