3
玄関ホールにはたくさんの参加者が結果待ちをしていた。皆の視線の先には大きなスク
リーン。まだ電源は入っていないからか、スクリーンにはなにも映し出されていない。
「皆様、大変長らくお待たせ致しまシタ。本日の、ミス花嫁コンテストの優勝者はこの方
デェッス!」
ジョヴァンニが指を鳴らすと、スクリーンがぱっと明るくなった。明るくなった途端、一気にガヤガヤとしだした。
「ちょっとどいて!見えないじゃない」
「すまない。通してほしい。おい、アドラ。勝手に行くな」
「うっさいわね。こういうのは最初が肝心なのよ。……あれ?」
人混みをかき分け、二人はようやく見える場所に移動ができた。スクリーンの端から端
を見ても自分の名前が一切なかった。
「……どういうことよ……これ」
「……まったくだ。おい、貴様。これはどういうことだ」
物凄い剣幕で迫る二人に、審査を担当していた人物が悲鳴をあげた。審査員が落ち着き
を取り戻すまでに数分だったが、その数分も許せない状況だった。
やっと落ち着いた審査員の口から発せられたのは、二人が予想していたものとは程遠い
ものだった。
「ええっ?あたし達のどっちも優勝じゃない?」
「主催者の好みじゃないから……だと?」
「……ベルゼェ。あたし、ちょーっと主催者と、お話がしたいかもぉ」
「奇遇だな。私もだ」
「「あはははははは」」
二人の笑いをみた審査員はあまりの恐怖にその場で失神してしまった。
「むふふ。これは、私の花嫁になる権利をかけたものでもありまシタ。んー、今回はかな
りハイレベルな戦いでしたネェ。これは迷いますネ」
ジョヴァンニは一人で笑っていた。こんなにも花嫁候補がたくさんいるとは……。贅沢
すぎる。そのなかから誰と言われても甲乙がつけられなくて、結局、飛び入り参加したあ
の二人以外を優勝させた。ステージで見たあの二人はただただ「恐怖」だった。それ以外
は当てはめることができない位……。
しかし、今はその二人を除いて全員が花嫁候補なのだと思うと、改めて今回のコンテス
トは大成功だとジョヴァンニは確信していた。
「ちょっとそこのお兄さん?あたし達とお話しましょう?」
背後からなにやらジョヴァンニを誘う声がした。声色はとても優しかった。
「素敵なボイスのレディのお願いとあらば、断る理由はありま……」
「はぁーい。あなたが主催者ね。お会いできて嬉しいわ(にっこり)」
……なんということだろうか。さっきまであの二人は恐怖だと思っていたばかりなのに、その「恐怖」が目の前に……。
「や、やぁ。レディ達。何か用カナ?」
「あたし達、あなたとお話がしたくってぇ」
「そうだ。これはとても大事なお話だ。お前とでなければ意味がない」
「あたし達が言いたいこと……もうわかってらっしゃるかしらぁ?(にっっこり)」
二人とも不気味にひきつった素敵な笑顔で、主催者のジョヴァンニに詰め寄る。じわり、
じわりと確実に一歩ずつ。遂に逃げ道がなくなり、もう逃げ場はない。
「さぁって、ゆーっくりお話しましょう?」
ポキポキ
「納得する回答が出ない限り、貴様に自由はないと思え」
ヴゥゥゥン ヴウゥウン
アドラは拳を鳴らしつつ炎を、ベルゼは睨みつけながら虫達を従える。
「の……ノオオオオオゥウ」
この悲鳴が、バトル開始の合図となった。
とある場所にて。既に何人かの男を調教済みのトルトゥーラ。満足気な顔をしていると、
どこからともなく悲鳴が。何かと思い目をやると、そこには赤い顔でもみあげの男性が、
見知らぬ女性二人から容赦なく殴られている。男性は泣いているようなのだが、どこか様
子がおかしい。……実はジョヴァンニ。かなりのドMらしい。
「あそこで殴られているもみあげの子……中々素質がありそうね。私の牢獄でイロイロ教
えてあげようかしら」
見ているトルトゥーラの表情は段々うっとりとしたものになっていった。調教魂に火が
付いたのか、ハートの形をした手錠がガチガチと動き出した。
「だめよ。今はまだその時ではないわ。もう少ししたら……ね?」
手錠から「調教したい」とでも言っていたのだろうか。優しく宥めると手錠はすぐに大
人しくなった。トルトゥーラの頭の中では、どのように調教しようか既に考えているよう
だ。
メインホールにて。まだ食事に夢中だったノイレが、騒動に気が付いたのは他でもない
悲鳴だった。それも野太い男性の。なんかどこかで聞いたことがあるなと思ったノイレは、食事を中断し、その場へ行ってみた。
「おぉ!もみあげのおじさんが、お姉さん達に襲われてるぞ!待ってろぉ!今、助けに行くからなぁ!」
「はぁい!ちょっとみんな聞いてくれるかしら?」
「今回のコンテストについての大事な話だ」
ノイレが会場に到着してすぐ、突然アドラとベルゼが大きな声を発した。傍にはボコボ
コになったジョヴァンニがいた。ボコボコのはずなのだが、顔はとても嬉しそうだった。
「今回のこのコンテストなんだけど、……名前忘れたけど、こいつの花嫁候補を選ぶため
のものだったみたいなの。だから、今回の優勝者……あたし達以外がこいつの花嫁にな
っちゃうところだったのよ」
「こんな奴の花嫁になりたい奴は別だが……嫌ならこの場から去るがいい」
そういって最初に悲鳴を上げたのはルサリィだった。優勝なんて滅多にとったことがな
かったらしく、この話を聞いて大きなショックを受けてしまったようだ。
「マジでありえないんだけど。サイッテー」
ルサリィはドレスを脱ぎ捨ててその場から退場。エレーナはその場で泣き崩れてしまっ
た。それをみた教官らしい人物と、銀髪の少女はドレス姿のままジョヴァンニを更に殴り
つけた。
「貴様、乙女心を踏みにじった罪は重いぞ」
「あたし達を怒らせたことを後悔するがいい」
「ノオォウ……はぁ……いいですネェ……」
剣と槍の無慈悲なコンボにジョヴァンニは悲鳴を上げるも、表情は嬉しそう……。その
表情を見た二人は引いてしまい、途中で退散してしまった。
「……あたし、まだ殴りたりなんだけど……ベルゼは?」
「殴っても殴っても足りないな……こいつ、反省しているのか?」
「笑ってるわね……反省してないんじゃない?いっそのこと、燃やしてみる?」
そういってアドラは右手から炎を出すと、ジョヴァンニに向けた。今度こそジョヴァン
ニの顔は青ざめる。
「ねぇえ?その子、燃やしちゃう前に私に譲ってくれないかしら?」
まるでまとわりつくような口調で話しかけてくる一人の女性がいた。
「……あんたは?」
「トルトゥーラ」
なにかあってはとアドラは警戒を解かなかった。トルトゥーラはそれに臆することなく、ジョヴァンニに近づいた。
「ねぇ?私と一緒にこない?私がこれからずーっと可愛がってあげるわ」
ジョヴァンニの顎を優しくなでると、ジョヴァンニの目がとろんと溶けた。まるで、魅
了されてしまったかのように。
「ねぇ?どう?私の愛の牢獄で永遠に可愛がってあげるわ」
「永……遠?……ずっと?イエッス!行きマス」
「決まりね。じゃあ、行きましょうか。私の愛の牢獄へ」
トルトゥーラは指を鳴らすと、ぐにゃりと歪む空間が現れた。そこへ躊躇いなく入ると、
アドラとベルゼに手を振って消えた。
「……なんか白けたわ。帰りましょ」
会場ががらんとしてしまった今、このまま居続けるのは無駄だった。アドラは早々に帰
る準備をしていた。ベルゼも名残惜しそうにドレスを脱ぐが、それを止めたのはアドラだ
った。
「あんたはこのまま帰るの!わかった?そんで、その姿をルシファーに見せつけてやりな
さい」
「なっ……!」
最初は恥ずかしがっていたベルゼだが、脱ぐのをやめてそのまま帰ることにした。やは
り、ルシファーの事が相当気になっているようだ。
「そんじゃ、また会いましょ。どっかで」
「……アドラ」
「なっ……!なによ急に。あんたがあたしを名前で呼ぶなんて……なにか悪いもんでも食
べた?それとも飲んだ?」
「茶化すな。これは真面目なことだ」
「……な、なによ。早く言いなさいよ」
「今回、私の個人的な話に耳を傾けてくれたこと、感謝する。少し気持ちに整理がついた。
二人しかいないこの場で礼を言わせてもらう」
ベルゼが深々と頭を下げると、アドラは焦りだす。
「ふ……ふんっ!か、感謝しなさいよね。器の大きいあたしが悩みを聞いてあげたんだ
からね」
「ふっ……そうだな」
「……だー!もう!調子狂うわねぇ。ほら、あんたも途中まで一緒でしょ。さっさと来な
さいよ」
アドラが拳でその場を殴ると、魔界への入り口が現れ、まずはアドラが入りそれに続い
てドレス姿のベルゼが続く。
「……ドレスとは、ずいぶんと動きが制御されてしまうものだな」
ぼそりと言って、体を押し込めると、入り口は何事もなく閉じてしまった。そして、静
寂だけの会場が残された。
一人を除いて……。
「おーい、もみあげの人達はどこへ行ったー?このドレスはこのままでいいのかー?」
状況がわかっていないノイレだけがそこにいた。
完




