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クローマ


「クローマちゃん。その椅子、ここに持ってきてくれる?」

「あ、はい。ただいま」

 小走りで椅子を持っていき、目的の場所へと運ぶ表情は忙しいとは言えない、なにか

嬉しそうな顔をしていた。クローマがいるのはブライダルフェスの会場。新作のウエディ

ングドレスのお披露目や試着室を設置し、ドレスの試着をすすめたり挙式についてのコン

シェルジュなどを行う。クローマはその会場設営のお手伝いをしているのである。

「ばたばたしてるのに悪いね。助かったよ」

「いえ。お手伝いできることがあればなんでもおっしゃってください」

 軽く会釈をしてその場を去るクローマ。その姿にうっとりする関係者。

「なんか、礼儀正しくていい子だなぁ」

 ふとそんなことを思われていることなんて知る由もなく、クローマは会場設営に精を出

す。本人になぜこの設営準備を手伝うのか聞いてみた。

「素敵な日には両者が幸せの色を重ねあう、そんな気がします。私はそんな二人に幸せの

色を添えてあげたい。柔らかくて温かい色を添えたいのです」

 と、彼女は答えた。まるで自分自身も幸福に包まれているような口調だった。そこへ、大き目な何かが会場に運ばれてきた。台車に乗せられているのは、マネキンのようだが。

それと同時にたくさんのスタッフがやってきて、そのマネキンに何かを着せていく。

「うわぁ……」

 ずらりと並んだ数々のマネキンに着せられたのは、新作のウエディングドレスだった。

「きれい……」

 新作のウエディングドレスがずらりと並ぶ会場で、クローマはただ恍惚の表情を浮かべ

ていた。一つ一つ眺めていると、突然見知らぬ人に声をかけられた。

「そこのお嬢サン。宜しければご試着いかがデスか?」

 赤い肌に整髪剤で固めた髪。胸元がV字に大きく開いた白いタキシードに身を包んだ人

物だった。

「え?いいのですか?」

 彼がどんな人物かはさほど気にしていないクローマは、試着という言葉に大きく反応し

た。

「私が……ドレス?」

「気になったドレスどれでも構いまセン。お好きなものを選んでくだサイ。一つだけ条件

を飲んでいただければ、いくらデモ」

「はい。なんでしょう」

「このあと開催されるとあるコンテストに参加していただきたいのデス。いいですカ?」

「コンテストですか?私にできることであれば」

 タキシードの男はにっこりと笑うと、クローマをエスコート。クローマが気になったド

レスを男が持ち、試着室へ。

 数あるドレスの中からクローマが決めたものは、純白ではなく薄く桃色がかかり、裾の

部分にはサファイヤが豪華にあしらわれてる。ふわりとしたドレスからはほんのり花の香

りがした。

「素敵なドレス……この気持ち、会場にいる人に分けたいです」

 くるりと回るその姿はまるで天使のよう。会場設営男性陣はクローマの嬉しそうな笑顔

を見るだけで幸せな気持ちになれた。女性陣はというと、ただただ見惚れていた。妬み等

の負の感情はなく、ただ純粋にクローマのドレス姿に見惚れていた。中には拍手をする者

もいた。

「お気に入りが見つかってよかったデス。では、コンテスト会場に向かいまショウ」

 男のあとに続くクローマ。クローマがいなくなった会場では、しばし余韻に浸っていた。


トルトゥーラ


 魔界での調教にも少し飽きてきたトルトゥーラ。もっと私に相応しい下僕を探しに人間

界へ。胸元が大きく開いた大胆な服装は、誰が見ても目のやり場に困るもの。本人はそん

な事を気にする様子もなく、あっちふらふらこっちふらふら。

「あら?なにかしら」

 人だかりができているのに気が付いたトルトゥーラは、そちらに歩を進めた。集まって

いたのは男性女性半分ずつの割合でなにやらチラシを凝視しているようだ。あるものは決

起、あるものは妄想にふける者など様々だが、トルトゥーラは人混みの中を悠然と歩き、チラシを手に取る。

「ミス花嫁コンテスト?……ふふ、もしかしたら素敵な下僕が見つかるかもしれないわね」

 魔界にいる時とは違う、胸の高鳴りを感じながら会場へ向かうトルトゥーラだった。


 トルトゥーラが会場に到着した時には、すでに沢山の人で賑わっていて思うように動け

ない状態だった。

「あらぁ、こんなに沢山の人がいるなんて。ちょっと驚きだわ」

 会場の活気にますます興奮するトルトゥーラは辺りを見渡す。そこかしこに展示されて

いる純白のドレス。謙遜しつつも存在感あるヘッドドレス、眩い光を放つ豪華な宝石がつ

いたネックレスなど、女性なら誰でも喜ぶであろう品々を前に、トルトゥーラはにやり。

「あっちに帰った時、こういうのが好きな人がいたら……うふふ」

 トルトゥーラは気に入ったドレスを片っ端から試着することにした。清楚なものから大

胆なものまでととにかく試着を重ねた。

「私にはやっぱりこれよね」

 どこにそんなドレスがあったかはわからない。ドレスとは到底言えない、むしろ水着と

いった方が早いかもしれない。純白というところまではあっている。そこからはかなり露

出の激しいものを選んでいた。当の本人はすっかり気に入っているようだが、周りの反応

は地獄絵図だった。

「サイズもちょうどいいのがあってよかったわ。いいわね。これ」

 後ろを振り返ってみたり、屈んでみたりと動くたびにあちこちで声が聞こえた。トルト

ゥーラにしてみればそれは誉め言葉だと思っている。

「そこの麗しきお嬢サマ。お初にお目にかかりマス」

 振り返ると赤面の悪魔が立っていた。胸元が大胆に空いた白いタキシード、整髪剤をた

っぷりつけて整えた黒髪。トルトゥーラは一目で同族とわかった。

「私になにか用かしら?」

「いきなりのお声かけ、申し訳ございまセン。あまりにも美しくてつい」

「あら嬉しいわ。それで、なにがお望みかしら?」

「話が早くて助かりマス。この後、ミス花嫁コンテストが開催されるのですが、ぜひお嬢

サマにも参加していただきたいと思いまシテ」

「いいわよ。このドレスでどこまで勝ち上がれるか、興味があったの。会場まで案内して

くださるかしら」

「こちらでございマス」

 優雅に案内する姿は紳士そのもの。一緒に歩く姿は誰しもが見惚れてしまうほどだった。

ただ気になるものが一つ……彼女の背中にあった、棒状のものは一体……。


ノイレ


 彼女は今、最大のピンチだった。生きている以上避けられない戦いが進行しているのだ。

物理戦は負けたことがない位、腕には自信があった。しかし、彼女は弱っていた。傷つい

ているわけではないのだが……。

「は……はぅう……お……お腹空いたぁ」

 彼女は空腹と絶賛格闘中だった。


 外出する前はお腹いっぱい食べてきて大丈夫かと思ったのだが、想像以上にお腹が空い

てしまった。勢いよく飛び出したのも災いして、土地勘は全くない。彼女の声より空腹ベ

ルの方が大きく鳴り響いている。

「なにかぁ……食べ物落ちてないかなぁ……」

 歩くのも億劫な位弱ってしまい、今にも動かなくなってしまいそうだった。

「だ……誰かぁ」

 呼ぶ声も悲しいかな、空腹ベルで打ち消されて誰もいない町に空しく響いた。その時、

ノイレの鼻は何かを感じ取った。

「……ん?これは……もしかして!」

 何かを焼いている匂いだった。香ばしく焼きあがったパンだと感じた。それに続くよう

にスープや野菜、肉等の匂いも追いかけてきた。

「ご……ごちそうの匂いだぁ!何処だぁ!……こっちだ!」

 嗅覚を最大限に研ぎ澄まし、匂いのする場所へ駆け抜けるのであった。


「うぅおおおお!美味そうだなぁああ!」

 バスケットに盛られた焼き立てパン、コンソメと野菜が溶け込んだスープ。ふっくらと

焼きあがったハンバーグに赤ワインが利いたデミグラスソース、旬のフルーツをふんだん

に使ったロールケーキ等がずらり並んでいた。ノイレは目をキラキラさせながら料理を見

つめていた。

「食べたぁい……けど、お金なんて持ってないし……うあぁあ!」

 ごちそうは目の前にあるのに食べられないという苦痛を目の当たりし、ノイレは今にも

暴れだしそうだった。これには会場もどよめいた。

「おや、可愛いお嬢サン。どうしましたカ?そんなに暴れてしまっテ」

 背後から男性の声がした。

「食べたいのにお金がないから食べられないんだぁあ!」

 ノイレは率直に答えた。ただ真っすぐに「食べたい」と。

「そんなことでしたカ。一つ、条件を満たして頂ければいくらでもどうゾ」

「なんだなんだ!条件ってなんだ?」

「この後、ミス花嫁コンテストが開催されるのですガ、それに参加して欲しいのでス」

「おー!コンテストか!いいぞ!参加するぞー」

 ノイレは二つ返事でコンテストへの参加を決めた。見知らぬ男性からドレスを受け取り、すぐに着替えて会場へ向かう途中、ノイレはわからなかった事を聞いてみることに。

「なぁなぁ、ミス花嫁コンテストってなんだ?強いのか?」


とある二人


「さてさて、飛び入り参加とはいえど、やるからには優勝しかないでしょ。どれにしよう

かなっと」

「うぅむ……ドレスか。どれがいいか悩むな。すまないが少し手伝ってくれないか」


「あら、これも付けてみようかしら。テンションあっがるー」

「む……少しきついか……。もう少し大きめを頼む」


「やっだぁ。あたしったら可愛いじゃん。なにしてもあたしってば似合うわね」

「これでいいか。すまない、助かった」



ザッ



「「あ」」

 向かい合わせの試着室のカーテンが同時に空いた時、両者の口も同時に開いた。

「べ……べ……ベルゼ?あんたこんなところでなにしてんのよ」

「あ…アドラ?貴様、こんなところでなにをしている」

 セリフも同時に出た。それもまるっきり内容も同じだった。

「あたしは、ミス花嫁コンテストに参加して、優勝狙いに来たのよ。あんたは?」

「わ……私も……花嫁コンテストに参加しにきたのだ」

 アドラは堂々と、ベルゼは少し恥じらいを含ませながら言った。動機はなににせよ、二

人はやる気満々だ。アドラのドレスは腰辺りと裾にフリルがついたもので、大胆にも肩出

しタイプのドレスだった。一方ベルゼは、一般的にいうマーメイドタイプ(膝下からギャ

ザーやフレアを入れて裾が広がっているドレス)だ。髪には青いバラを挿している。

「なに?あんたも参加するの?だったら勝負しましょうよ。ちょうどミス花嫁コンテスト

なるものやってるし」

「そうだな。ちょうどミス花嫁コンテストなるものがあるからな。勝負するか」

「「あははははははは」」

 二人の笑い声はこれから始まる修羅場へのゴングとなった。

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