闇の精霊 1
「そうだな……万が一もある、制約魔法を使おう」
ベルス様が話しかけたのは、三人の魔術師だった。
「構わないな? しゃべらなければ、良いだけのことだ」
制約魔法だなんて、よほどのことが起こったのだ。
――いや、たった三歳の幼女が魔法陣を描いて魔法を使ったことだけでも異常事態。
素人目に見ても、精密な魔法陣だった。
しかし、それだけではないのだろう。
「恩に着る」
「いや……感謝するのは、俺だ」
「やはり、そうなのか」
カナン様とベルス様の会話の意味はわからないが……。
ベルス様が、指先で小さな魔法陣を描いた。
魔法陣から現れたのは、一枚の紙だ。
「君たち、指を」
魔術師たちが、指先に魔力を込めて紙にサインしていく。
全員がサインし終わると、ベルス様が紙に文字を書き込んでいく。
【魔力回路の回復が可能であることをカナン・オルトの許しなく誰が相手であろうと話さないことを誓う】
「……魔力回路の回復」
「俺たちにも制約魔法を……だが、子どもが話さないのは難しいし、シェリアはまだ理解できていないから除外してもらえないか」
「何を言っている。もう隠す必要がなくなった」
カナン様にベルス様が笑いかけた。
シェリアはマリルを頭にのせて自慢げだ。
「いたくなくなった?」
「ああ、シェリア嬢のおかげでもう痛くないよ。さあ、お菓子を用意してあげよう。魔術師団長室においで」
「うん! お菓子食べる!」
「筆頭殿もどれでいいだろう?」
「ああ……」
結局のところ、何が起こったのかわからないまま、私たちは魔術師団長室へと向かった。
* * *
魔術師団長室には、歴代の魔術師団長の肖像画が並んでいた。
大きな机は年季が入っているが磨き上げられて大切にされてきたことがわかる。
「――魔石」
大きな魔石の原石――紫色の原石の中には、キラキラと金色の光が輝いている。
「触れなければ、自由に見てかまわない」
「こんなに巨大な紫色の魔石は、見たことが――え!?」
魔石を鑑定するために持ってきたポッシェットの隙間から光が漏れ出した。
その光はまっすぐに大きな原石を照らした。
「おや、同じ場所で採れた魔石か」
「……これは、あのときの」
そう、ポシェットの中に入っているのは、あの日、カナン様が贈ってくれた魔石だ。
一番大事な仕事道具と一緒に、いつも持ち歩いていたのだ。
そのとき、狐にも栗鼠にも似た生き物が、紫色の原石から飛び出してきた。
「ディアス」
カナン様が困惑した声を出す。
色違いのマリル――だが、マリルが小型犬くらいなのに対してディアスは大型犬くらいの大きさだ。
「か~わい~!!」
「おや、闇の精霊のお姿が見えるのか」
ベルス様が感嘆したようにそう言った。
マリルはシェリアの頭からディアスの体の上に移動した。
シェリアは機嫌良く、ディアスに抱きついたのだった。




