貴賓室の商談会 2
「さて、ここからが本番だ」
「叔父様……本番とは?」
魔術師様たちが、魔石を買って去って行った。
そこに現れたのは、カナン様と魔術師団長ベルス様だった。
さらに、その後ろにも何人かの魔術師様がいる。
叔父様が、鍵付きのトランクケースを開けた。
赤い布が敷き詰められたトランクケースには、一つ一つケースに入れられた魔石が並んでいた。
「これは、四属性」
「ふむ、これは見事だな……」
「どうぞ、お手にとってご覧ください」
ベルス様が、魔石を手に取ってランプの明かりに透かした。
「内包物すらない。こんなに美しい魔石――しかも、火・水・土・風の四属性」
「ベルス様は確か、それらの四属性の魔法が使えると伺っております」
瞳の色が左が金、右が銀だなんて、どれほどの魔力を有するのか。
それに、四属性だなんて……。
だが、こちらに向かって紫色の目を細めたカナン様は、四属性に光と闇の二属性、さらに娘のシェリアも同様だ。
「値段は」
「お任せいたします」
「これは――難しいな」
ベルス様は、考え込んでしまった。
安く買ったなら、商人への借りになる。
あるいみお金よりも重い。
「……ああ、そうだ。良いものがあった」
ベルス様が取り出したのは、淡い金色の原石だ。
「四属性の魔石と釣り合うかな?」
「これは……」
叔父様が前のめりになった。
この時点で、商談はベルス様の勝利だ。
――まさか、こんなところでお目見えするなんて。
先日、光の精霊マリルがカナン様が作った四属性の魔石に光属性を加えた。
だが、通常光属性の魔石はとても高価なものなのだ。
私も一つ持っているが、とても小さいのにとても高価だった。
ベルス様が持っているのは、大きな原石。
母石についたまま、あんなに大きな光属性の原石なんて初めて見た。
「失礼。姪に鑑定させてもよろしいでしょうか」
「構わない」
ルーペを取り出し、手袋をする。
「やっぱり、鑑定用の器具を持ち歩いていたか」
「当然です……いつ、こんな機会があるかわかりませんもの」
光の魔石の原石には、インクルージョンが含まれていた。
しかし、このインクルージョンが金色でいかにも精霊が好みそうだ。
魔石は基本的に、内包物がないほど高価だとされる。
宝石的な価値を考えればもちろんそうだし、基本的には精霊も透き通った魔石を好む。
だが、美しさを増すようなインクルージョンとなれば話は別だ。
「美しい――これは、通常のものよりも精霊が好むでしょう」
「そうか」
「自然に作られるインクルージョン。少々、耐久性は下がるかもしれませんが」
「――マリル!」
そのとき、シェリアの頭からマリルが飛び降りて、原石にかじりついた。
たぶん、とても気に入ったのだろう。
原石が輝き、みるみるうちに色を失っていく。
「あ……」
残されたのは、魔力を失った透明の魔石。
「――え? かわいそう」
シェリアが、ベルス様の顔を見て気の毒そうな表情を浮かべた。
「いいよ、助けてあげようね」
シェリアが、魔法陣を描いた。
美しい正円、いつも子どもっぽい初級文字しか書けないなんてとても信じられない細かい魔法文字。
「痛いの痛いの飛んで行け~!!」
シェリアがおまじないの言葉を唱えると、室内は光に包まれた。
「……まさか」
ベルス様の顔が青ざめている。
カナン様が額を押さえて天を仰いだ。
叔父様は、商売スマイルの口の端が震えている。
「絶対に誰にも話してはならぬ。筆頭魔術師命令だ――いや、お願いします」
カナン様は、命令を途中からお願いに切り替えた。
何が起こったかわからないが、この場の空気は、天才児シェリアがまた何かを引き起こしてしまったことを告げているようだった。




