闇の精霊 2
シェリアは機嫌良く歌っている。
一緒にいるディアスも機嫌良く鳴いている。
一見すると、大型犬のような不思議な生物と幼児が仲良く過ごすほのぼのとしたワンシーンだが……。
「――さて、ここなら話しても問題なかろう。筆頭殿、構わないな?」
「ああ、話してくれ」
カナン様が許可を出した瞬間、ベルス様の首の周りが首輪のように光った。
これが制約魔法が解除された合図なのだろう。
「魔力回路が回復した」
「……やはり、そうか。だが、一度壊れた魔力回路が回復するなど聞いたことがない」
「そうだな。一度焼き切れてしまえば、元には戻らない――だが、確かにまた使えるようになった」
ベルス様は、指先に小さな炎を灯した。
カナン様のため息が聞こえる。
「シェリアと光の精霊が原因か」
「――そうだな、光の精霊様のお力を引き出せた者など、この百年いないのだから、常識が覆されることもあるのだろう」
「……」
魔力回路は、魔力が流れる道のようなものだ。
魔法を使い過ぎたりすると壊れてしまうことがあり、一度壊れると魔法が二度と使えなくなる。
「魔力回路が焼き切れてしまうなんて、俺が不在の間にずいぶん無茶をしたようだな」
「四年も最前線で戦い続けて、筆頭殿の魔力回路がいまだ無事なことの方が信じられないですよ」
「――そうだな。あのとき、魔力回路が壊れる前に魔力が尽きたからな」
「よく生きてた!」
「……シェリアのおかげだ」
カナン様は、事もなげにそう言ったが、たぶん何度も似たような状況になっていた気がする。
彼はいつでも無茶をする――王都から遠く離れた北端まで、武勇伝が届くほどだった。
彼の活躍を聞くたびに、心配で胸が張り裂けそうだった。
「さて、シェリア嬢にお礼をしなくては」
「なおって、うれしい?」
「ああ、嬉しいよ。これでまだ君たちの未来のために戦える」
ベルス様は、微笑み、シェリアの頭を撫でた。
そこで、カナン様が躊躇いながら口を開く。
「だがベルス卿、王都に魔獣が侵入したのは四年前が最後だろう? なぜ、王都を守る役割を担っていた貴殿の魔力回路が切れた?」
「――いろいろあったんだよ。たとえば、セシル・マクガンが陛下を暗殺しかけたり……な」
「セシルが、陛下を?」
その名は以前、カナン様の口から聞いたことがあった。
魔塔でカナン様と一緒に過ごしていた魔術師の名だ。
「――陛下の御身を守るため魔法を使い、その代償として俺の魔力回路は焼き切れた。だが、油断は出来ない。やつは魔術師団の追跡から逃げ延びた」
「……なぜ、セシルが。いや、彼ならあり得るのか」
カナン様はそれきり、厳しい表情のまま黙り込んだ。




