1-3
「勇者? 巫女?」
一体何のことだ?
「あらあら。ひょっとして何も知らされずに勇者なったのかしら。酷いことをする巫女もいたものねぇ」
酷い? どういうことだと俺は少女を振り返る。だが、少女は口を固く結んで何も答えようとしない。
「見てくれだけの情けない女ね。だから本命の男に逃げられるのよ」
女は少女を見下しながら高笑いをはじめる。
「な、なんじゃと! わらわを愚弄するとは……。ぬしよ、どうなるかわかっているであろうな?」
少女は怒りを露わにして、女を睨みつける。
「あら。ひょっとして図星? 当てずっぽうでも言ってみるものね」
その言葉に少女の怒りはより一層高まったようだ。
「許さぬ! 絶対に許さぬぞ! ほれ。さっさとあやつをやってつけてしまうのじゃ!」
少女は俺の肩を何度も叩いてくる。少女からすると馬にムチ打つような感覚であろうか。
「あなたも哀れね。何の色気もないスアールの小娘を命がけで守るハメになるなんて。その女の勇者は豚こそがお似合いであったでしょうに」
女のあからさまな挑発に、少女はあっさり乗せられている。それで耳元で吠えられるのだからうるさくてしょうがない。少女はありったけの罵倒雑言を返しているが、その内容はどれも聞くに堪えないものだ。しかも相手にはあまり効果はないようで、平然としている。
「ちょっと待ってくれ。とりあえず確認したいことがある」
俺は少女がわめくのに疲れて口休めをするタイミングを計らって、女に質問を投げかけた。
「どうぞ。哀れな勇者殿」
「あなたは俺の敵、なのか?」
俺は直球で訊ねる。でも、何となく予感はしていた。本来なら答えてもらうまでもない
ことなのだろう。
「ええ。そうよ。私は敵。あなたたちの――そして、生けとし生ける者すべての敵」
女が言い終えると、俺は考えるよりも早い。気がつけば、ガルダートとともに相手の懐へ踏みこんで、剣で斬りかかっていた。
「随分とせっかちね。自己紹介もまだなのよ」
だが、その剣は女の首には届かず、木の枝が途中で遮っていた。
「私はトゥークリフト。あなたたち人間は木の魔竜とも呼ぶわね」
俺は一旦剣を退いて、相手から距離をとる。
「魔竜だって?」
聞いたことがある。アルシュリオン・オンラインで世界を滅ぼしかけた八体の魔物の総称のことだ。
「そう。魔竜よ」
トゥークリフトは含みのある笑みを浮かべた。それと同時に彼女の足元から木が生えてくる。
「私は運がいいわ。楔をこんなに早く見つけられるなんて」
木はスカイツリーを侵食するように下へ下へ伸びていった。その過程でトゥークリフトの足場がみしみしと音を立てて崩れていく。
そこで俺はようやく気がついた。
トゥークリフトが長々としゃべっていたのは時間稼ぎが目的だったのだと。じゃあ、体が勝手に反応して斬りかかったのもそのせいか?
「あら。気がついた? でも、あなたも何も知らないで戦うよりはずっとよかったでしょう?」
授業料とでも思えというのだろうか。だとしたら、ふざけている。俺は再度、トゥークリフトに対して剣を構え直す。
「私もいますぐ戦ってあげたいのは山々だけど、大事なお仕事があるの。それが終わったら相手をしてあげるわ」
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