かごめかごめ
こんなつもりはなかったなんて、そんな言い訳ぐらいはさせてほしい。
国をいくつもり滅ぼすつもりなんてなかった。
ライにそんなことさせるつもりなんてなかった。
繰り返させるつもりなんてなかった。
でも、止めろともいえなかった。
本当に世界の王とかになれるのであれば、なりたいと思ってしまったから。
だからせめて、もう戻ることができないくらい、ライに人を殺させてしまったことの言い訳をさせてくれ。
イエスマンしか周りにいなく否定してくれない俺を、だから責めてくれ。
そうしたら、やめられるかもしれないから。
「炮烙さん、おはようございます」
隣で寝ていたライが目を擦る。
「おはよ、起こしたか?」
頭を撫でていた手を止めることなく訊く、「何がですかぁ?」と寝ぼけた調子で訊き返された。
気付かれていないらしい。
それでも手を止めて、起き上がる。
「あーあ、今日何しようかな」
頑張って明るく聴こえるように言う。
言えているはずだ。
「何をしますか?なんでもいいですよ。昨晩のようなことでも」
見ると、少し恥ずかしそうに布団を口元まで持ち上げている。
こんな可愛いやつに、罪の意識なんて持たせたくない。
あーあ、甘いなぁ。
布団ごと、ライの細い体を抱きしめる。
「全員分身!」
わあぁあああ!
リオル全員が叫んで
あっという間に23恒河沙9283極8016裁3459正5871澗0645溝4257穣8588秭2046垓3197京3596兆5689億9421万3279人に増えて、逃げ惑う。
どけよ!そっちこそ!鬼さんこっちこないでぇ!あっち、あっちの方が弱いです!
醜く言い争って、押し合い、どのリオルが転んでも助けることなく能力を使って逃げ続ける。
どこにいこうと『感覚機関』で位置を掌握できる。
だから、近くにいるリオルから刺し殺していく。
「そうだ、今は全員残機は1だ。割ればいいだけ」
鏡を生成する。
今までよりも圧倒的に早く、正確に、手をかざすことなく、リオルひとりひとりを鏡を覆う。
「くそっ!僕たちはここで死ぬ!だけど第100京、100極目の僕が君と引き分けるだろう。あーはっはっは!」
捨て台詞を吐いて、リオルたちは崩れた。
今の一撃で5400万のリオルが死んだ。
『感覚機関』があるせいで、なまじリオルの言っていたことに嘘がないことがわかり、あと恒河沙とかふざけた位の人数を殺さなくてはいけないのだ。
「気が遠くなる」
そう呟いて、20キロ先にいるリオルを『感覚機関』で捉えて、
「これを使えばいつでも炮烙さんのいうことを聞けるんじゃない?」
思いついた。
「そうだ、常に炮烙さんの声を聞いていれば、すぐに行動に移せる。やった。これでもっと炮烙さんの役に立てる。炮烙さんの道具として完璧に近づける」
なら早くそうするべきだ。
『感覚機関』を使えば炮烙さんのところへ私からも声を伝えられる。
そして、ライは『感覚機関』で炮烙のいる場所を覗き、炮烙と同じ空間に人が3人いることに気づく。
二人は女、一人は男。
女の片方は聖職者のような格好で手を前で組んでおり、もう片方は腰に刀を差し真剣な表情で炮烙と話している、何を話しているかはまだピントが合っていないためわからない。
最後の男は。炮烙と帯刀女の話の途中途中で茶々を入れてふざけて、ニヤニヤしている。
その姿はまるで、さっき1000万の単位で殺した男と似ていて、ピントが合ってくると顔を感知できるようになってきて、
「リオル・・・・・・・・・・・・クライシスッ‼︎」
まずい、早く炮烙さんの元へ。
そう思った途端、「話し合いはお終いですね、師匠、お願いします」「りょーかーい」そんな会話が聞こえて、
目の前にゲートが生まれ、中から四人出てきた。
炮烙、リオル、フィン、ディスティの4人。
炮烙さん、その人たちは誰ですか?
ライがそう訊くよりも早く、「すごい!すごいよライちゃん!やっぱり僕たちの思った通りだ!君は僕たちの用意した全機関を取得できたんだね!あー、よかったぁ。死んだ2億3941人の僕が浮かばれるよぉ」とリオルが言った。
その言葉に、ライは動けなくなる。
何も、言えなくなる。
「・・・・・・・・・用意・・・・・・したって、いうのは」
絞り出すように言った言葉には、すぐに答えが与えられた。
「そのままの意味だよ。橙の宝玉はね、持ち主の強い思いによって、その思いの強さに見合った能力を渡すんだ。君は今までずっと炮烙君を守りたいと強く願い続けた。だからそれに見合った、君の元からの能力に合わせた能力が与えられた。でも、それ以上強い能力はもうなかった、僕たちがずっと前に設定してたその『機関シリーズ』以外にはね。でも、『機関シリーズ』は強すぎるからそんなにホイホイとは渡せない。君ほどの人を想う気持ちが無いとね。だから、本当にすごいと想うよ。僕はね。さぁその力で僕を殺しまくろう!僕は君の敵だ。そして君にとっては道端にいる手足をもぎ取られ動けなくなった虫と同じだ。簡単に殺せる。さぁ、君の持つそのつるぎを使って僕の中の23恒河沙の僕を殺すんだ!そうすれば君の勝ちは、君の価値は、盤石なものになるよ?」
それは、勝ったと言えるのか?
勝たせてもらったというのが正しいのでは無いだろうか。
これで、リオルを殺して、これからも炮烙さんの邪魔になるやつを消して行っても、ずっと、勝たせてもらっているだけになるんじゃ無いのか?
そんな、借り物で勝つ私に本当に価値があるのか?
「余計なことを考えるなよ。君は何も考えずに殺せばいいんだよ。君は道具なんだから」
そうだ、私は道具だ。
道具は迷わない。
道具は拒否しない。
道具は持ち主に利益を与える。
ここでリオルを殺せば、道具としての私の価値が上がる。
ああ、それはとても、とても嬉しい。
私は剣を構える。目の前の敵を殺すために。
多分、リオルは逃げない。
心の中で、すごく、死ねることを喜んでいるから。遠くにいるリオルたちからも、恐怖とかそういう反応は感じない。いつ死ねるのかと、ワクワクしているのだけはわかる。
一歩一歩近づいて、あと5歩のところで炮烙さんが間に入ってきた。
「ライ、殺さなくていい」
静かな声で炮烙さんは言った。
殺さなくていい、そう炮烙さんが言うなら殺さない。
私は剣を原子に崩壊させる。
「なぁ、ライ。今まで、本当にごめん。お前にたくさんの人を殺させちまった」
??
なんで炮烙さんは謝ってくるのだろう。
「都合がいいことを言うってことはわかってるんだ。今更すぎて、遅すぎることもわかってる、でも言わせてくれ」
———もう、道具じゃなくて人になってくれ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そ・・・・・・れは。
道具としての私はもういらないってことで。
「あっ・・・・・・・・・・・・私、もういらないんですね」
ゴミになっちゃったんですね。
「違う」
その弱々しく悲痛な声を炮烙は力強く即座に否定する。
「えっでも、私、道具としての利用価値以外ありませんよ?それなのに捨てないって、炮烙さん、長く使ってたものは思い出とかが詰まってるからって言って捨てられない人なんですか?ダメですよ、使わない、いらないものはちゃんと捨てなくちゃ」
「違う、違う。ちゃんと聞け、俺は道具としてじゃなくて、ライに人としてそばにいてほしいから道具じゃなく人になってくれと言ったんだ。俺のそばにいてほしいんだ。誰がお前を捨てるかよ」
炮烙さんは何を言っているのだろう。私に、人としての価値なんて無いのに。
「多分今、私に人としての価値が無いとか言ってたけど、お前すっけぇあるからな!料理できるし洗濯も掃除もできる!そんなやつ価値がないとか言うやつは馬鹿だし、俺はお前が何もできない、自分で体を動かせなくて、誰かに世話し続けてもらえないと死んじまうようなダメ人間でも、ライを必要としてるんだよ。俺にはお前が必要なんだよ、いい加減分かってくれ、俺はライのことが大好きで、一生そばに居たいんだよ」
「・・・・・・・・・それはどうことですか?」
「ぷふぅ!炮烙君ざんねぇーん!一世一代の告白が伝わってっ痛っててて、フィンちゃんやめて、耳がとれる!」
「師匠のそういうところ、私嫌いです!」
がーんと大袈裟にしょぼくれているリオルに目をやってから、炮烙は「これからも俺のそばに居てほしい」と真剣な表情で言う。
「それは・・・・・・これからも炮烙さんの道具として「道具じゃない、家族だ」
ライの言葉を遮って炮烙は言って、息を吸って、ライが何か言うよりも早く、
「俺と結婚してほしい」
言った。
ここまで言うつもりのなかったことを言った。
そして、ライの反応を伺う。
さっきまで、人になってくれと何度言っても聞かなかったライは、
顔を赤くし、驚いた反応を示す。
「あっ、あの、人と道具は、結婚できませんよ」
「だからお前に人になってほしいって言ったんだ」
そうですか。
少し恥じらいのこもった声を聞いて、これは通じたんだと炮烙は嬉しく思った。
今まで、言おうと思っていえていなかったことを、ようやっと言えたと安堵して、これできっと、人になってくれると喜んだ。
その喜びを、自分で最低まで突き落とす。
「でも、結婚は今じゃない」
「えっ?」
ライの傷付けられたような声を聞いて、心が痛む。
その痛みは、甘んじて受け入れなくてはいけない。
「今じゃダメなんだ。俺のせいでお前は何人も殺すことになった。だからその償いを終えてからじゃないとダメなんだ」
自分のエゴだってことはわかってるし、自分一人が悪いのもわかっている。
最初の時に、俺は本気で言ったんじゃないと言えば、助かった命が多かった。
否定せず、世界の王という今までとうてい届くはずのなかった、考えさえしなかった夢を目の前に出されて我慢できずに食らいついてしまった。
「俺が刑務所から出てきたら、迎えにきてくれると嬉しい」
「えっ?」
さっきとは種類の違う驚き、そしてこういう時にライは俺を止める。可能ならここにいる全員を殺してでも俺を逃がそうとするだろうだから。
「ライ、これは俺がしたいことなんだ」
そういう必要がある。
道具をやめて人になれと言ったが、今だけは道具のままで、俺を見送ってほしい。
逃がそうとしなくていい。
「本心なんですね」
ライは、最初にそう言った。
それは意外だった、なんでだとか、そういうことを言うと思っていた。
だが、ライは目の端に涙を溜め、「洗脳されているとか、そういうことではないみたいですね」と言う。
「私も、ついていきますよ、刑務所にでもどこにでも、なのに、なんで私を連れて行ってくれないんですか?」
それはどこか子供がただをこねるのに似ていて、癇癪を起こす寸前の子供のようにも見える。
「私も、連れて行ってください、じゃなきゃ、私は人として、ここにいる全員を殺してでも炮烙さんを連れて行きます」
「いやでも、俺が命令したことなんだから、お前に罪はないんだ。だから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁライ」
「はい」
「俺のこと好きか?」
「はい、大好きですよ」
そうか、炮烙はつぶやいて、フィンに向かって「さっきの話は無しだ。ライも頼む」
そう言った。
悪いのは命令を下していた俺だけだ、だからライは捕まえないでくれ。
その条件から始まった二日間の交渉は全て水泡に消えた。
1ヶ月後、
リオルの元に一通の手紙が届いた。
差出人は雅楽 ライだった。
この手紙を届けたのはそのライ本人だったので脱獄したらしい。
脱獄者は雅楽炮烙と雅楽ライの二人。
あんなかっこいいことを言っておいて脱獄とはいやはや恐れ入る。
だが、手紙の中には脱獄する際に炮烙が暴れて叫びまくって、脱獄を防ごうとしていたと言うのだからちゃんと言ったことは守っていたらしい。
そこを無理やり拉致するかの如く連れ去ったと。
そして今は人の少ない村などを転々として、傷ついた人を治したりしていると書いてもあった。
治すのには『生産機関』の力を使っており、治療費等のものは一切もらっていない。
そして、ラグナロクの残党はUは数話前に書いた通りでWはレーンに強制的に連れ去られて猫可愛がりされているらしい。
いやいや、幸せで結構。
他の残党はVはもう捕まっている。捕まえたのはライだ。今後そう言う活動もしていくのだろう。
今度二人に会いに行って、炮烙君を鍛えてあげよう。
能力を三つ四つあげるのもいいかもしれない。
「リオルさーん!」
外からフィンの声が聞こえた。
「ちょっと待っててぇ!」
リオルは窓から身を乗り出してフィンに言い、窓から飛び降りる。
リオルが落ち切る前に「リオルさんが落下によるダメージを受けることを否定する」とフィンが言い、リオルに落下ダメージはない。
「いやー大所帯だねぇ」
「たった三人がですか?」
「そうそう、『否定』と『拒絶』と『罰』の3人なんて、一人でもやばいんだぜ?大所帯だろ」
『拒絶』君ははじめまして、リオル・クライシスです。そう言って両手に包帯を巻いた青年に手を出し、握手してもらえないまま下げる。
「あはは、それじゃあはじめましょう約束通り———」
———殺し合いを。




