僕が君に勝てるわけないだろう
「やっぱり知ってるんだ」
リリスが言ってリオルを睨みつける
ガザは怪訝そうな顔をして、同業者かなんかだと当たりをつけ、答えてもらわなくても良いかと思いながら、リオルに「こいつも俺と同じなのか?」と訊く。
「そだよー」
リオルは、それが秘密でもなんでもないような軽さでアッサリと答えた。
ガザはその態度に少し面食らったが、隠してるわけでもないのだろうとすぐに判断を下す。
リリスも特に気にしてないようで、もしくは気にしているのかも知れないが、表情からはどんな感情も伺えない。
さっきまでの何かに怖がっているようなしぐさも、ただの演技なのかと思ってしまう。
実際さっきの動きを見ればただの人では無いことが分かる。
「その子はねー、さっきも言ったけど散歩してるんだよね。そしてついでにこの先にある家に行くつもりなんだろうね、いつも通りのお楽しみの時間だろ?ごめんねー、じゃまだったぼっ!」
リリスがリオルの心臓部にナイフを突き立てていた。
動きはなかなか早かったが、ガザにとって避けれないほどのものではなかった。
そしてリオルも目で追えていて、あえて避けなかったようにも見えた。
そして、リオルは口から血を流しながら、痛みなんて感じてないように
「あはは嬉しいなー、こんな熱烈ハグは久しぶりだぜ」
おどけて言う。
リリスは舌打ちして一気にナイフを捻り、後ろに飛び退けナイフを抜く。
リオルはナイフを抜かれた瞬間、先程よりも多くの血を吐き、地面に倒れそうになるが、足を開いてなんとか耐える。
だがすぐに「痛いなーもー」と頬を膨らませて、何もなかったように元の姿勢に戻る。
「あのさー、別に僕を殺すのはいいけどさー、せめて殺す前に殺すって言ってくれないかなー」
何言ってんだこいつ。
それよりなぜ死なない。
リオルはガザの思考を『覚』《さとり》を使い読み、
「それはねー僕の『残機』って能力のせいだよー」
芝居がかった動きで両手を広げながら答える。
人の思考を読むんじねーよ。
ガザが思うと
「分かった、もう言わない!」
と言ってビシッと敬礼する。
ウゼェこいつ。
「随分と余裕なんだな、さすが世界最強だ、俺たちなんてすぐに殺せるんだろ?」
ガザが言うと、リオルはキョトンとして
「何馬鹿なこと言ってんの?」
と、本当に何言ってんだこいつという顔をして言った。
それから、周りをキョロキョロと、探し物をしている子供のように見渡して、
「あれ?リリスちゃんいないなーどこ行ったんだろ」
頭を掻きながら言う。
それから「まぁいっか」と言って、ビシッとガザを指差し、
キリッ、と。
ヘラヘラとした顔を真面目な顔に変え、
「僕が君に勝てるわけないだろう!!」
「なに言ってんだテメェ!」
自信満々に言うリオルにガザが叫ぶ。
なんだよそれお前世界最強だろ?なに?勝てるわけないだろ?なんだよそれ意味分かんねえ!
ガザが悶々としていると
「『剛力』『錯乱』『加速』『破壊』『倍化』『螺旋』『酸化』『散弾』同時使用」
なんだそれなんだそれなんだそれなんだそれなんだそれなんだそれなんだそれ。
そんな数の能力。
勝てるわけないだろう。
ガザは一瞬そう思ったが、スキル 知覚加速を使うことで、リオルの体から放たれた骨の弾丸が数百に分かれ襲ってくるのを避け、
リオルの足元から壊れていく地面から木の上に飛び退き、
それを狙いすましていたかのように、異様に筋肉の膨れ上がったリオルの右腕を躱し、
リオルの拳の当たったところから、木がドロドロと溶けていくのを見つつ、持っていたナイフでリオルの首を掻き切る。
そして地面に着地。
そして戦慄。
知覚加速を使えなかったらどう考えても死んでいた。
これで自分のことを世界最弱だというのはどうかと思う。
とりあえず。このままやり続けられれば、残機だかなんだかもそのうち尽きるはずだ。
もしかしたら勝てるかもしれないと
リオルの再生していく頭を見ながらガザは思った。
グルン
と、
世界・・・・・・
が、
回って
なにすんのさ!僕の敵だったのに!2人とも殺しちゃって!
声がして
また僕勝てなかったし・・・・・・・・・・・・あぁでもいつも通りか、ありがとね。
世界最強の隣りに1人いる
手にリリスの頭部を持っていた。
「余計なおしゃべりしてるからです」
リオルの隣りに立っているカミスは拗ねたように言って、ぽいっと手に持っていたモノを投げ捨てた。
「まあまあ、いいじゃない、おしゃべり楽しいよー♪
それにさっきはちゃんとやってたじゃない」
「それは知ってます。でも勝ちたいのなら不意打ちとかすればいいんですよ」
「かもねー」
リオルは生返事で返答してクあぁとあくびする
「それに勝つのは諦めてるとこあるしねー、君の『瞳知り』《ひとみしり》なら見て分かるだろ?」
「当然です。なので私が先に刈りました」
刈る、ねー。
僕は考え、笑いを堪えきれずに吹き出してしまう。
「まるで雑草みたいに言うんだなー」
「雑草ですよ、命なんて」
「うっはぁ、荒んでるねー」
ケラケラ笑いながら、僕は腕を突き上げぎゅっと手を握る。
能力『引き寄せ』
効果 自分の探しているものを引き寄せる能力 大きかったり、複雑なものは引き寄せられないことがある。
でも、僕は大丈夫。
その物の感覚なら絶対に引き寄せられる。
頭の中に入ってくる。
動いている、速度的には走っている。
これだけ分かればいい。
『探知』『感知』『索敵』並列使用。
女の子が1人で走って逃げている。
後ろから追っているのが5人、全員男。
赤い《レッド・》絶望だと思う。
女の子が黄の宝玉を持っているらしい。
「さて、目的の物見つけたよ、行こっか」
「行って、どうするんですか?」
カミスの質問に、リオルは笑った。
「奪うんだよ、僕はヒーローじゃない殺してでも奪うさ」
淒慘に笑った。
数時間前。
赤い絶望のアジトである洞穴の中のボスの部屋。
部屋の中にはベッドの上に一組の男女がいた。
女の方が起き上がる。
女は裸体で、その体の腕と言わず、足と言わず、胴と言わず、顔と言わず、いたるところについている刺し傷切り傷、火傷にタトゥーが露わになっている。
部屋の中には鏡があり、女は鏡の前で自分の体を見る。
体を捻り、後ろ側も見る。
どこからどう見ても、女の体で、顔も、胸も、腰も、臀部も、ほとんどの男が理想とするような体つきだった。
女は自分の体が嫌いだった。
特に、体についている無数の傷のうち、手首、二の腕、太ももの傷は全て自傷によってできた傷だ。
女は自分の声も嫌いだった。
細い指が嫌いだった。
可愛いとか。
綺麗だとか。
言ってくる人も嫌いだった。
ついつい殴ってしまうくらい。
女にとって、セックスも嫌いなものだった。
なぜ自分がこんなことをしなければならないのか、そう思うくらいには嫌いだ。
だが、自分の大嫌いな体を虐げるためであれば、彼女はなんでもする。
大嫌いなことを毎日して、
大好きなことを我慢することなど、
彼女にとっては日常だ。
彼女のそれは、家族がいるから嫌な仕事もしなければならないなどのものとは違う。
それだけやって、自分が死んでしまえばいいと思っているほどだ。
それでも彼女が死なない理由は、
彼女が死なないように細心の注意を払い続けている仲間がいるからで、
この時も、
無意識に自分の眼球を抉り出そうとしているのを、同じベッドで寝ていた男が見つかり両腕を掴まれる。
「ボス。やめてください」
男が低い声で言う。
女はその声が羨ましく、一瞬怒鳴りそうになるが、それを堪えて「ありがとよ」と言って男に体を預ける。
「あーあ、俺やっぱ、俺の体大っ嫌いだわ」
女は、分かりきったことを、諦めたような口調で言う。
「俺たちはボスのこと好きですよ。
体だけじゃなく、ボスとしても大好きですよ。
ベタ惚れです」
男は励ますように明るい声で言う。
はっ、と女は笑って、
「んじゃ、その大好きな体を使ってもっかいしろよ。
今度こそ、首絞めながらやれよ。俺が死んでも気にすんな」
自嘲するような笑みを浮かべながら女が言う。
「ボスに死なれたら困るので絶対嫌です、残念でしたね。それと、そろそろ報告の時間です」
「そんなでっかくしておいて、かっこつかねぇぞ」
「かっこつかなくて良いんですよ!」
男が言って手を離すと、女が振り返り男の肩をポンポン叩き、
「なかなか気持ちよかったぜ」
と、ようやっと楽しそうな声で口角を吊り上げながら言った。
「そりゃよかったですよ」
男の声を背中で訊きながら、女は部屋を出る。
綺麗に磨かれて、砂利一つ凹凸一つなくなった床を、女は裸足に裸体で歩く。
ペタペタと言う音で、全員ボスが来たということを察する。
そして女が大部屋に入り、一番豪華な椅子に近づき、椅子の上に乗っている服を着る。
ほとんど下着のような服なので、露出度はさほど変わらない。
女が足を開いて椅子に座るとひょろっとした男が近づき、今日の報告をした。
その中に、女が探し求めていたものがあった
「はっ!クハッ!くははははははははははは!!!」
女は笑った。
高らかに、
馬鹿馬鹿しいほどに大声で。
笑いながら、やっと終わる。
そう考えていた女は、より一層大きな声で笑った。




