決戦前の顔合わせ
《ラグナロク》の本拠地は、今まで20年間、創立してから今まで見つかったことがないのだ。Oの情報収集能力で、自分達の基地に冒険者がうっかり入りかけている時は、全員で転移して逃げ、騎士達が大勢きても、全員で転移して逃げる。
何度も逃げて、戦わず、そこにいたことの証拠を残さず。とにかくバレないように、とにかく追いつかれないように。
夜逃げのように逃げてゆく。
一部の構成員は、その過剰なまでの逃げを嫌い、一部の構成員は誇りにすら思っている。
「ヤッホー、初めましてだね、W、V、U。僕はリオル・クライシスと言ってね、世界最弱だよ。隣にいるのは近いところからレーン君、隻眼の剣士ってかっこいいけど、レーン君は隻眼なだけだよ。剣士じゃないよ。次に真ん中にいるのは、あっ、ちょと、落ち着いて落ち着いて、待って待って!炎のように熱い心で僕を焼き殺そうとしないで!ほら深呼吸深呼吸。えっと、この子はファイヤー、もちろん偽名だよ。本名は捨てたってね。隣はゼウン君だよ、この中じゃ1番目に弱いよ。それじゃあ、殺しあってね、仲良くしてもいいよ」
パチン、と、手を叩くと、部屋にいた7人の内、6人が転移する。
残ったリオルは少し待って、なにも知らずにいつも通り報告を聞こうと鏡を作ったライが、鏡から出てきたところで、地面との一体化をといて、心臓を狙って作り出した短剣を刺す。
短剣は深々と刺さり、ライの体にヒビが入り、リオルの心臓部に同じヒビが入る。
ライからはヒビが消えた。
「グブッ、あぁ、なるほどぉ、これが『鏡面移し』か、確か見ながら攻撃すると、その攻撃が全部鏡みたいに反射して、僕にダメージが返ってくるってやつだったけ?」
「そんなところ」
そういうライの心臓部に傷はない。
リオルも、既に治している。
「じゃあ見なければいいだけ!」
そう言って目をつぶって短剣で攻撃する。
ライはそれを一歩横に動くだけで避ける。
当然だ。
「『オートマジック』」
リオルが言うと目をつぶったまま、リオルがライを正確に追い始める。
ライは、ため息をついて、鏡を作り出した、それを割る。すると、リオルが、鏡と同じように割れて、崩れ落ちる。
「ははぁ、これが『鏡面壊し』、光を反射するものが割れたら、それに写っているものも同じように割ることのできる能力。確か血液でも割れたよね?『水質変換』で血を結晶にして、それだけでも死ぬけどさ。それに君の元から持ってる能力の『鏡面繋ぎ』、これも使って、雨雲を持ってきたりしてね、それで降った雨を割って国を楽々滅ぼせる。僕が知ってる君の能力はこんなものだけど、どー?間違ってるところあった?」
割れた体を再生させながらリオルが訊いてくる。
ライは、舌打ちをして、「煩わしい」と呟いてから
「正解だよ」と答える。
「それじゃ、僕たちも決戦の場所へ行こうか」
そう言ったのはライの目の前にいるリオルではなく、ライの後ろに立っていたリオルだった。
「それじゃあ、総力戦だ」
3人目のリオルがそう言った時には、もう二人のリオルと1人のライはいなくなっていた。
「ねぇ、あなたってぇ強いのぉ?」
「ああ強い!強い!私はものすごく強いぞ!何たって私は正義だからな‼︎」
シャキーン!と自分で効果音を付けてポーズをとるファイヤーは一切気にしていないように、U、アイスは額を押さえる。
「何だ何だ!正義の味方である私が目の前に現れて絶望したのか!安心しろ!私はお前が傷つけた人数分殴ったら許してやるからな!」
「いやぁ、あなたが正義とかぁ、ものすごく正義に申し訳ない気がするけどぉ、そうじゃなくてねぇ、こっちは二日酔いで頭が痛いからぁ、できればあまり大声を出してほしくないのよぉぉ」
ほらぁ、ここぉ、広いとは言っても洞窟だしぃ、反響するじゃないぃ?
アイスの言う通り、二人の今いる場所は出入り口がどこにも見当たらない洞窟の中で、なぜか石が光り輝いているので、晴天の時と同じくらいの明るさが確保できている。
これではどちらかが勝っても脱出なんてできない。
「む、酒はダメだぞ!確か心臓に悪い!」
「心臓じゃなくて肝臓なのだけれどねぇ。いいのよぉ、お酒を飲んでないと私の人生の楽しみが食事しかなくなるからぁ」
「ほお!そうか!私も食べるのは大好きだぞ、特に肉が好きだ‼︎」
「あぁ、私もお肉大好きよぉ、特に牛さんが好きねぇ」
「おぉ私も牛が好きだぞ!アイツらと一緒に寝ると落ち着くんだ‼︎」
「あらぁ?牛を食べるわけじゃないのぉ?」
「む、食べんぞ、私はこの世の全ての牛が大好きだからな、誰に否定されようが、私はいずれ牛さんとも番になりたいものだ、いや、そんなことをしたら浮気になってしまうな‼︎」
「・・・・・・・・・相容れない」
冷たく、凍えるような声でアイスが言う。
「気持ち悪い、気色悪い、不潔、不快、不愉快、理解不能。なんであんなケダモノと子を成そうとするのかしら。ようやっと、20年前にようやっと、あの村から逃げられたって言うのに」
声はどんどん冷たくなってゆき、アイスの脳内では村での思い出が、思い出したくもないのに思い出される。
「気持ち悪い、気色悪い、不潔、不快、不愉快、理解不能。そうだろうそうだろう!私のこの気持ちが!世の中から見て異端なのは重々承知‼︎理解可能だ‼︎だが!理解不能というだけで否定しないでもらいたい‼︎」
ファイヤーの声は、アイスとは対称的に、熱く、熱くなってゆく。
ファイヤーの中では村での思い出が、思い出そうと思って思い出されている。
そして
氷の声で
「赦せない」
炎の声で
「全てを許そう」
ファイヤーが言って、手を差し伸べて、
「わかり合おう!私はお前に無理強いはしない!」
そう言った。
その一言で、アイスはファイヤーが自分の過去を知っていることを悟った。
あの村を連想させるやつは殺す。
「死ね」
アイスは氷で作った扇を振るった。
「ど、どうも、3人の中で最弱のゼウンです。あの、すみません、僕なんかが相手をしちゃって」
卑屈に、へりくだってゼウンが言う。
その向かいにはVがいつも通りの姿で「いえいえ、構いませんね」と言っていた。
二人ともちゃぶ台を挟んで座布団の上に正座して、ちゃぶ台の上にある湯呑みからお茶を飲む。
「おいしいですよね、このお茶はね」
「はい、おいしいです」
ゼウンが応えて、ちゃぶ台の上の羊羹へと手を伸ばして、一切れ食べる。
「うまぁ」と、本当に美味しそうにゼウンが言って、お茶を啜る。
「気に入ってもらえたようで何よりですね」
V、ヴォイスが答え、話し始める。
「ところで、あなた、シャンゼ族の生き残りの方ではありませんかね?」
ゼウンはあからさまに体を硬直させて、そうです、と警戒心を隠しきれない声音で言う。
「ああ、やはりそうですかね」
ゼウンの警戒心なんてまるで気にしていないかのように、ヴォイスは言う。
「そうだろうと思いましたね、その特徴的な金と銀の目はそうだろうと思いましたね。それに、その手、なんと爪の形が整い、美しいことですかね。ところで、あなたは当時、一体どこにいたのですかね?16年前のあの日、あなたはどこにいたのですかね?屋根裏ですかね?床下ですかね?大木の中ですかね?」
ヴォイスの言葉は、あまりにも当たり前の口調で、何とも思っていない雑談と同じ様子で、違和感に気づかずに聞き流してしまいそうなものだった。
なぜ、あの原型を残さぬ形で滅ぼされたあの村に大木があったと知っているのだろう。
なぜ、あの商人すらも入ることを許されなかった村の中のことを知っているのだろう。
もしかしたら、数少ない、村に入ることを許された人なのではないか。
ゼウンはそう思うことにして、当時のことを話した。
まるで、当時のことを知っているかのような話し方なのは無視をして。
「大木ではありませんよ、あの日の前日にかくれんぼしていて、馬車の中に隠れたら、うとうとして、眠ってしまって、気づいたら知らないところで、なんとか戻ったら、あの状態でした」
「ああ、なるほど、それでは見つからないわけだ」
「あな、たは、僕の里を襲ったんですか?」
聞くものの背筋を凍らせるような声も、イカれた者には届かない。
「ええ、そうですかね。実に素晴らしいものが手に入りましたね。実は途中から記憶がないのですがね。それよりも、この腕や足が私の戦利品ですね」
そうやって、愛おしげに、ヴォイスは背中に生やしている腕を撫で、指先を舐める。
それが、もしも、僕の、知っている人のものだったら。
そう考えただけで、ゼウンの怒りは沸点に達した。
「ふっ・・・ざけるなぁああ‼︎」
怒りで立ち上がったゼウンは右手で雷の魔法を放ち、左手で能力『電王世界』で稲妻を放つ。
「ふむ、あなたも青くはないですね。私の敵ではありませんがね」
ヴォイスの能力『零か百か《オールロスト》』はどんなものでも異空間に収納、そして元の世界に放出できると言う効果も持っている。
ゼウンの雷も、稲妻も、全て収納され、返される。
「ガァぁぁアアア!」
自分の出した攻撃で、自分を焼かれ、ゼウンは叫ぶ。
「ふふふ、あなたの腕も、ちゃんと収集させてもらいますからね」
未だ立ち上がることすらせずに、ヴォイスは言って、ゼウンはヴォイスを睨みながら立ち上がった
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここは?」
「さあな」
しばらく何かを言おうとしてようやっと発せられた一言を、レーンは一言で返す。
レーンが無口なのではない。
W、エゴがレーンのどストレートに好みなタイプだったから、レーンがうまく喋れていないだけである。
レーンのタイプは小柄で、ちょっと気が狂っていて、傷だらけの女の子。
だいぶ危ない嗜好である。
彼が世界警察に入るために血を吐くような努力をしたのは、自分の好みの女性が普通に生活していては出会えないとわかっていたからだ。
さっきまでは、いきなりどこに連れて行く気だクソ野郎と、リオルのことを心の中で罵っていたのに、連れて行かれてエゴをみた時には思わず膝をついて天を仰ぎ、ありがとうございますと叫びかけていたくらいで、今も、リオルさんマジで神です!と心の中で称えまくっている。
現金な男である。
リオルは、このくらいわかりやすい人の方がいいやと言っていたので、たいして気にしていないが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二人揃って、黙り込む。
実に静か。
とてもファイヤーとアイスのいる場所と同じ環境だとは思えなかった。
ガリ・・・・・・ガリ・・・・・・ガリ・・・・・・ガリ
と、音がし始めた。
なんの音だ?
レーンがそう思って周りを見回すと、エゴが首を引っ掻いているのが見えた。
ガリ・・・ガリ・・・ガリ・・・ガリ・・・ガリ・・・ガリ。
音が少し速くなる。
それをみて、レーンはエゴの傷が自傷によってできた傷だと理解する。
ガリガリガリガリガリガリガリガリ。
ドンドン音が早くなって、ブツブツと何かを言っているらしい音が重なる。
「ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ」
首を掻く音が重なって、エゴの言っている言葉が聞こえない。
ただ、遠目にも、赤黒い色のぼろ切れのような服が赤く染まって行くのが見えた。
それが血だと気づいて、レーンはゾクっと体を震わせた。
レーンがあの血を舐め取りたいと思ったのと同時に、エゴの首がレーンの方へ回る。
「あなたを殺せば、部外者をいれてしまった失態は挽回できる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
あ、やばいこれは、興奮してる場合じゃねえ。
下手したら死ぬ。
そう思ったら、腕が吹き飛んでいた。
いや、吹き飛んでなんていない。
千切られただけだ。
どうやら、俺と彼女のカップルルートはないっぽいな。




