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世界最強は今日も負け続ける  作者: 青赤黄
藍の宝玉
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神のバグ

 昔々の話。

 太陽系第3惑星地球において、戦国時代と呼ばれていた時代のこと。

 一つのバクが存在した。

 それは今現代に伝わっている歴史とは全く関わりがなく、関わった瞬間、今伝わっている史実とは別のものになってしまう存在だった。

 関ヶ原の戦いで石田三成が勝ち、法隆寺が燃えても織田信長が生きていたり。

 それ以前の問題として、有名な将軍が手に手を取り合い、自軍を全軍出した絶望するに値する連合軍が作られていたかもしれない。

 その男はそのくらい強く。

 勝った者の日記のような[歴史]に出てくるわけがない。

 それに、伝えられた文献があっても、男のあまりにも滑稽無稽なその強さは、文献を読んだものに全て絵空事に思われた。

 一つ、十万対十万の乱戦の中を無傷で歩いた。

 二つ、堅牢な城に一人で攻め入って、二万の軍勢を壊滅させるのに、3時間しかかからなかった。

 三つ、百万の軍に囲まれて、伝令役の一人を残して全滅させた。

 これらは全て、事実である。

 ただし、事実の一部でしかない。

 一つ、十万対十万の乱戦の中を無傷で歩いた。

    途中から乱戦は終わり、男に半分が挑んでいき皆殺し、逃げた半分は生き残った。

 二つ、堅牢な城に一人で攻め入って、二万の軍勢を壊滅させるのに、3時間しかかからなかった。

    実際は1時間もかかっていなかったが、城の中で美味そうな料理を発見し、2時間かけて食べていたから3時間かかった。

 三つ、百万の軍に囲まれて、伝令役の一人を残して全滅させた。

    実際は伝令役は自分がやって、城の中に入れてもらえず、守りに入られたので、二つ目につながる。

 ここまでのことをやり、本当に連合軍を作るかと、それぞれの國を治めるている将軍たちは思ったが、ある時から、この男の話を聞かなくなった。

 1ヶ月たっても、一年たっても、男の話は出なかった。

 男を知っている者たちの間では、海を渡ったのではないのかと言われている。

 誰かに殺されるとは思えないくらい強く、病気で死ぬとも思えない。

 実際、その時、男はそこにいなかった。

 海を渡ったのではなく、世界を渡ったのだ。

 リオル・クライシスのいる、何億もある世界の中で、トップスリー以内に入っている危険な世界の危険な森に。

 そこにる生物は気性が荒く、口に入るものならダイヤモンドでも噛み砕く生物しかいない。

 その森に転移した男は、自分に襲いかかってくる、異形の化物に相対し、

「デカいな」

 とだけ呟いて、一閃。

 鋼鉄と同じ強度を持つ皮を豆腐のように切り裂く。

「食えるかな」

 食えるか、元々生きていたんだし。

 そうやって、男は愛刀『失塵(しっしん)』を振るって、その日その日の食材を得て日々を過ごしていた。

 もし、男を殺せる者がいるなら、神か、神のバクか、どれだけ殺しても死に切らない生物か、勝ちという概念しか持っていない、勝つことしかできない化物だけだろう。

 

「ふひぃ、おいしいねぇ、これ、お茶だっけ?緑茶だったけ?紅茶なら飲んだことがあったんだけど、いやいや、最近これを名産にしている国があってね、君は好きだろうなぁと思って持って来させてもらったんだよ、だって君と同じ世界から入ってきた飲み物だもんね。ほんと、長生きしているといろんな物が出てきて全く飽きないや」

 そう言って、目の前のリオルなんたらと名乗った男はズズズと残りを飲み干した。

「悪いが、要件があるならさっさと言ってくれ、俺も暇じゃない」

「ああ、そうなの?ごめんね。でもこのお茶美味しいからさ」

「・・・・・・・・・・・・別に、俺たちとしてはお前が夕餉でも構わないんだが?」

 夕餉の分の食糧がないことを意識しながら、緑茶を自分の湯呑みに注ごうとする男にそう言う。

「それは困るなぁ、食われるのは痛いからなぁ」

 男はヘラヘラと冗談を聞いた時のように笑う。

 俺としては冗談を言ったつもりもなかったんだが、どうやら男は信じなかったらしい。

 どうやら、この男は極限の飢餓状態に陥ったことがないようだ。

「さて、そろそろ本当に食われちまいそうだから、本題に入るとするか」

 そう言って、居住まいを正すことなく、男はヘラっと笑って、

「君の愛刀『失塵』、あれ無くなってんだろ?あの刀がある場所を教えてあげるから、君の持ってる藍の宝玉を頂戴」

 男は片手の掌を上にして、腕を伸ばしてくる。

「生憎だが、俺の刀はここにある」

 そう言って、腰に差している刀の柄に手を乗せ、少し抜き、美しく輝いている刀身を少しだけ見せる。

「いやいや、確かに変化獣はどんな物質にでもなれるけどさ、今までの、元の世界での思い出がいっぱい詰まった刀らろ?」

 男の頭が、顎から上が落ち、ベチャと音を立てて床に落ちる。

「夕餉は得たな」

「食べようとしないでくれよー、食べられるのは痛いんだから」

 人外か、さて、こいつは何度殺せば死ぬのか。

 面倒だ。

「ちょっと待ってよ!僕の話を聞いてよー。『失塵』いらないのぉ?」

 肩に新たに口を作った男は、抗議する。

「なるほど、世界最強とはその再生力から言われてるのか」

「違うよ、僕はこの『残機』があるから世界最弱なのさ」

 ・・・・・・・・・謙遜、か?

 よくわからん。

 が、コイツのような化け物とは戦ったことがある、時間がかかって面倒だった記憶がある。

 殺し切るのは面倒だな。

「いやー、それにしても君強いねぇ」

「まぁな」

 おざなりに答えたが、目の前の男は気にしていない。

 相手にされていないような感覚がある。

「すごい自信だなぁ、まぁ、そりゃそうか、君は神のバクの中でも最強クラスだもん」

 かみのばぐ?

 かみは神だろうが、ばぐとはなんだ?

「バグっていうのはね、不具合、もしくは誤り、完璧な設定の施された世界には、生まれる訳のない存在のことだよ」

 俺はバグとは何だと訊いていないはずなんだが、心が読めるというのも本当だったのか。

 なら、他のことも事実なのだろう。

「ねぇ、僕のことって一体誰から聞いているんだい?」

「不愉快だな、人の心を読むな」

「あっごめーん、気をつけまーす」

 軽い、全てのことがどうでもいいと言っているようなものだ。

 自分の命さえ軽くなるほど、自分のその『残機』という物が有り余っているのだろう。

 面倒だな。

「あっ、そうそう、わかりやすく君の化け物具合を測らせてもらったんだけど、結果がわかったから報告するね。この世界にはないけど、ステータスってのがある世界の基準でいくと、

 普通の人はレベル1の時、

 MPマジックポイント100、ATKアタック50、DEFディフェンス100、INTインテリジェンス200、DEXデクステリティ200、AGIアジリティ100、luckラック100。

 とまぁ、こんなところなんだけど」

「今更だが、なぜこれを説明する必要がある?」

 これを説明するのだったらばぐやすてーたすというのを教えてもらいたいのだが。

「自分のおかしさを理解しろってこと、

 君の場合、この世界に来てメキメキとレベル上げちゃってるけど、君のレベルでやっちゃうとわかりにくくなるからレベル1の時のステータスで説明するね、

 MP 0、ATK1000、DEF100、INT200、DEX1000、AGIの前にluck 0」

「なぜあじりてぃを飛ばした?」

「アジリティが1番化け物だから、聞いて慄け、

 AGI10,000,000,000,000,000、

 君のアジリティは1京もあるのさ。

 これは速度で言うと、秒速258,409.000キロメートルさ、よくわかんないくらい早いってことだよ、君と追いかけっこして勝てる奴なんて僕の兄か四王くらいだろうね。

 いや、四王も引き分けがいいところか」

 男がそう言うと、とくんと、一瞬手に伝わる心音が跳ねる。

 それもすぐに普通に戻る。

「あっはっは、君は基本的に足りないステータスを速度でゴリ押ししてる感じなんだよね。それだけじゃないのは知ってるんだけどね、君の技術こそがさすが神のバグ最強クラスって感じだよねぇ」

 そう言ってからゲラゲラと男は笑う。

 そんなに笑うほど他のすてーたすというのは低いのか。

「うん低い、低すぎるね、よくこの森で生きてこれたなぁって思うくらい、AGIがあれだけ高くなかったら死んでたんじゃない?」

「心を読むな」

 静かに言いながら、男を細切りにする。

「うへぇ、やっぱはえぇ、二十個くらい感覚強化の能力を使ってたんだけどなぁ。全然見えなかったや」

 そう細切りになった肉片全てがしゃべりなら、再生してゆく。

 どうやら核を壊さない限り死なない性質のやつではないらしい。

 核がなかったからな。

 面倒だ。

「さてと、そろそろ出てきてくれないかなぁ、変化獣の鞘ちゃん、それとも、君の大っ嫌いな本名で呼ばれたい?」

「出る」

 また切ろうかと柄に手をかけ、抜き、先ほどよりも細切りにして鞘に収めた時、鞘が言った。

 鞘に収まっていた刀がグニャリと動き、刀の形を保つのをやめた液体のように床にびしゃびしゃと落ち、水が動き、下から少しずつ固まってゆき、少しずつ人の形になる。

 その姿が13歳くらいの少女だ。13歳くらいなのは自分の他の体で服を作っているからだ、使わなければ2メートルくらいにはなれると本人は言っていた。

 少女の姿なのは性別がメスだからだ、オスなら少年になっていた。

 年も自由自在で、変化でき、自分の全身の質量以下のものなら何にでもなれるとのこと。

 だから、切れ味の良い刀にもなれる。

 この変化獣の名前である鍔柄(つばつか)さやは俺がつけた。なんでも良いと言っていたので。

 鍔柄は俺の家名だ。

「ああそうだ、訊くの忘れてたな、君の名前は何?」

「鍔柄 刀身」

 端的に答えると「ほんっと何度聞いても刀を持つための名前って感じだなぁ」と言葉を漏らしていた。

 何度もと言うところは聞き流すことにした。

「さてさて話を『失塵』に戻そう。君のその力なら、死海を越えて死地に降り立っても無事でいられて、僕の兄に会うことができるだろうね、あっちなみに、僕の兄が君の『失塵』を持ってるんだよ」

 迷惑だな、人様のものを取るな。

「そうだよね、君って自分のものはかなり大事にする人だもんね」

 こいつは、何度言えば心を読まなくなるのだろう。

 もう言うのも面倒だが。

「それで、どうする?僕に案内されて、『失塵』を取り戻し、報酬として藍の宝玉のコピーを作らせるか、『失塵』を取り戻すことなく、鞘ちゃんとずっと一緒に生活しているか」

 君ならどっちもできるぜ?

 こぴーとは何だろうか。

 それがわからなければダメだな。

「コピーってのは複製って意味、だったはず、つまり、藍の宝玉をもう一個作らせてもらうの、設定を忘れちゃったからね」

「ふむ、それならいいだろう。もし嘘をついて持ち逃げでもしたら、その瞬間からお前は永遠に細切れのままだからな」

「オッケ〜、話が早くて助かるぜぇ」

 よろしくね、

 男が差し出してきた手を取ることなく、

 俺は立ち上がり、瞬間的に刀に変化して鞘に鞘が入る。

 俺たちが外に出た時、男が立ち上がって肩をすくめた。

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