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世界最強は今日も負け続ける  作者: 青赤黄
青の宝玉
28/44

戦争終了

 数十億の即死攻撃は、追撃して当たるはずだったクグルに当たらずリオルに当たった。

 当たった瞬間リオルの体がボロボロと崩れ出す。

「ウヒィ、おっそろしぃ」

「この程度で?」

 クグルの言葉にリオルは静かに言い返す。

「こんな人体を細胞レベルで分解する程度、僕じゃなくても打つことができるやつはいるよ」

 それが当然だと言うように、冷めた口調でリオルが言う。

「それに君の能力は『根無草(スイッチボックス)』だろ?一番近い生物と転移する能力。その程度、僕が負ける理由にはならないね」

 引き分けに持ち込む方法ならいくらでもある。

「へー、ほんとにかぁ?そんなのあんのかよ世界最強」

「あるよ、ざっと一千万通りくらい。それと、僕は世界最強じゃなくて世界最弱だよ」

 それを間違えるな。

 冷たく、低い声で言ってから、ニタァと笑い、

「世界最強は僕の兄だよ」

 そう言って、さっきよりも多くの即死攻撃を作り出し、クグルに向ける。

「はっ、この手の攻撃は何回やっても同じだよ」

「同じじゃないんだぜ?同じだって予想は敵が同じ攻撃をしてくると思ってることに起因してるんだろ?そんな敵に依存した判断を下すなよ、テメェの弱さが知れる」

 まっ、僕よりは強いけどさ。

 その言葉と同時に即死攻撃はクグルに向かって飛ぶ。

 クグルの視界が即死攻撃から放たれている光とその圧倒的な物量で塞がれる。

 その位置に、リオルが来て、再び細胞レベルで分解される。

 そこから再生すると、クグルはいなかった。

 どこかにいったわけではない。

 いったとしても、地獄。

「『根無草スイッチボックス』は、相手が安全な場所にいるって思うから使う能力だろ?それはそれで、敵に依存してるよね。そんなの、僕みたいな、自分の命を一番ゴミだと思ってる生命体には使えないのにね。

 さっきの僕は死んで、さっきの僕が戦ってた君は も死んだ」

 美麗で醜悪な引き分けという幕引きだ。

「あーあ、キャラがぶっ壊れてるな、他の僕に僕のやろうとしてたことを引き継ごう、それで、その僕にやって貰えばいいや」

 じゃあ、よろしく、僕。

「あいさっ!ほいさっ!任されたぜぇ僕!」

 いつのまにか現れたもう一人のリオルがそう言って、地面に降りてゆく。

「じゃあ、平等にね」

 リオルが言うと、ぽろっと、指先が落ちて、数メートル落ちる間に光の球となり、どこかへ飛んでいく。

 それは当然指先だけではなく、腕も同じ、足も同じ、骨も同じ、肉も同じ、内臓も同じ、数秒でリオルの体は全て光の球となり、どこかへ飛んでいった。

 どれだけ待ってもそこにリオルは現れなかった。


 ゆさゆさと、体が揺れる感覚があった。

 眠くて仕方がなくて体を揺らす主に「もうちょっとぉぉ」と言って布団を頭までかぶる。

 布団越しに、はぁ、と揺らしていた人がため息をついたことがわかった。

 その声は昔から聴いていた声で、今聞くと子守唄のよう心が安らぐもので、眠気を誘うものだった。

 体をトン、トン、とゆっくり、優しくあやすように触れられる感触があって、意識が頭の中から溶け出し始めた時、首に冷たいものを当てられて「ぴゃう!」と小動物が虐められた時みたいな声を出して飛び起きてしまう。

「お嬢様、おはようございます」

 急に起きたせいでフラフラする視点が定まらないうちに、声が聞こえて、頭を押さえながら「おはようツサミ」と小さい声で言う。

 視界が定まって、ツサミの手に氷嚢が握られていることを確認してから「ひどい」と唇を尖らせてツサミに言う。

「何がですか」

「わかってるくせに、首に氷を当てて起こすのやめてよー」

「ハイハイ、さっさと起きてくださればこんなことしませんよ」

 そう言って立ち上がったツサミに「ねぇ、チューして」と猫撫で声で言う。

「ダメです、何年も同じことを言ってますよね?」

「えーいいじゃん、子供の時は毎日してたじゃん」

「お互い子供でしたね、あの頃は」

 そうだねぇと相槌を打ってベットから降りると、ツサミが「フライメント様がいらっしゃておりますよ」と言ってきた。

「えっうそ‼︎いつから⁈どれだけ待たせちゃってるの?」

「約30分です」

「もっと早く起こしてよ!」

「あなたが起きなかったんです」

 もうっと頬を膨らませながら、着替えるためにパジャマを脱ぐ。

「えっ、わっ、うわっ!」

 急ぎすぎてうまく脱げなくてバランスを崩して声を上げて騒ぐが、優しくツサミに受け止められる。

「あ、ありがと」

「いえいえ、お嬢様のおっちょこちょいには慣れておりますので」

 ツサミはそう言って微笑して言う。

「うわぁ、カッコいい」

 本心からそう言うと、ツサミは顔を赤くして「そんなこと言わないでください、惚れてしまいます」と言った。

「ふふっ、惚れてもいいんだよぉ?ってこんなことしてる場合じゃないじゃん」

 急げぇ。

 慌てて着替えて、ご飯を食べることなく走って、

「ツサミ!フライメントさんはどこの部屋にいるの⁈」

 行こうとしたが、場所が分からずに訊く。

「お嬢様、走らないでください」

「だって、じゃなき、間に合わないかわっわぁ」

 ツサミに持ち上げられた。

 それもお姫様抱っこ。

「ツサミィ、カッコいい、惚れそう」

「惚れてもいいんですよ」

 ツサミは言ってから、体を揺らさずに、走る。

 全然視界が揺れない。

 ほんと、すごい技術。


「あはは、そんなことがあったんでか」

「そうなのよ、あの子は昔からおっちょこちょいでねえ」

 僕の目の前で、死んでいたはずの人が笑って喋っている。

 顔色も普通で、寧ろ僕と話している間に笑ってほんのりと赤くなってる。

 本当に、あの人はすごい。

 本当に世界最強なのかと疑っていたことをお詫びしたい。

 感慨に浸っていると、コンコンとノック音がした。

「失礼致します。お嬢様をお連れしました」

 もう既に何回も会っていると言うのに、この瞬間は心臓の音が大きく、早くなる。

 もしも、今見ているのがただの夢で、あの子はあの時の、壊れたままなんじゃないのか。

 そう思ってしまうが、

「ちょっと降ろしてよ!フライメントさんが見てるでしょ!」

「このくらいは寝坊した罰だと甘んじて受け入れてください。お嬢様が悪いのです」

「もーー!」

 一番仲のいいメイドにお姫様抱っこをされ、その腕の中で暴れている姿を見ると、そんなふうに怖がっていた自分が馬鹿らしくなる。

 本当に、あの世界最弱だと謙遜するあの人は、誰も追いつくことのできないくらい強い世界最強だ。

 人を、あんな絶望的状態から生き返らせるなんてことができるのを見ると神様が近いのかもしれない。

 それにしても、停戦協定を結んだと言ってきた時の「やぁやぁ、君がフライメント君か、カッコいいね」と言う言葉は不思議に思った。

 なんでそんなことを言ってくるのか訊いたが、「こっちの話ぃ」とはぐらかされてしまった。

「本当、二人とも仲良いですね」

「私とお嬢様は赤い糸でぐるぐる巻きです」

「青い糸でもぐるぐる巻きよ」

 ツサミさんはツワンさんを椅子の横に下しながら言って、ツワンさんは椅子に座りながら言った。

「赤い糸はわかるけど、青い糸って何?」

「えっ、そ、それは、あの、幸せの青い鳥って絵本があって、だから、青い糸だと二人とも幸せになるよーみたいな」

 はにかみながら子供のような考えを口にする。

 でもそれは、本当だったらいいなと思わせられる考えだった。

 本当、そう言うことを考えつけるだけで、彼女は素晴らしい。

「フライメント様、失礼ですが、お嬢様のことを一歳児のように見ないでください」

 真顔で、ネタなのか本気なのか分からない言い方で、ツサミさんは言う。

「ちょっと!フライメントさんはそんなこと思ってないわよ!思ってるのはツサミでしょ!」

「そうですよ?お嬢様の精神年齢はいつまで経っても一歳児のままじゃないですか?」

「そんなことないもん!」

「ほら、そうやってすぐに頬を膨らませたミルニアのようになる。とても可愛らしくて、愛らしい一歳児の用じゃないですか」

「この子供好きめ!フライメントさんの前でなんてことを言うの!」

「しょーじき、そういうふうに、好きな人の前で叫んだりしている間はオマセな5歳児よりも精神年齢は低いと思いますよ」

「きゃー!なんでフライメントさんがいる前でそんなことを言うのよ!」

「ご安心ください、フライメント様にはもうとっくに気づかれておりますから、そうですよね?フラ・・・・・・・・・何か辛いことでもございましたか?フライメント様。泣いておりますよ?」

「えっ?」

 ツサミさんに言われて、自分の目尻を指先で拭い、指先が濡れたのを見て、僕また泣いているのかと気づく。

 あれ以来、僕以外の家臣はトゥエル王国に関わろうとしていない。

 あの惨状を見たのだから当然だとも言える。

 でも、僕は、だからこそ、彼女たちを支えたいと思った。

 記憶がなくなって、無意識に体が反応することもなく、至極自然に生活している彼女たちが、また、同じ道に行くことのないように支えたいと。

 だから僕は、今のように彼女たちが楽しげに話していたりすると、それが嬉しくて泣いてしまう。

 これもいつものことだ。

「だ、大丈夫ですか?」

 本当に心配している声音でツワンさんが訊いてくる。

 彼女を心配させてしまったことに、少し辛くなるが、上目遣いで見てくるのがとても可愛い。

「うん、大丈夫だよ。みんなが幸せそうで本当に良かったなぁと」

 そんな本心からの言葉はツワンさんとツサミさんを安心させたようで、ツサミさんは「私はお嬢様と一緒になるまで幸せにはなれませんよ」などと本気かどうか、本当にわからないことを言っていた。

 もしかしたら、本気のプロポーズだったかもしれないそれを「いつも一緒にいるからツサミはもう幸せです」とツワンさんは力強く言って返した。

「ええ、そうですね。まるで自分の子供を育てているような感慨深さがありますよ」

「ちょっと、私のことを子供扱いしないでよ、4歳しか違わないでしょ?」

「いいえ、お嬢様とわたしには16年の歳の差があります」

「私生まれた時から成長してない!」

「ふふっ、本当仲がいいなぁ」

「あっ、あっ、私が本当に好きなのはフライメントさんですよ!」

「知ってる、だからそんなに慌てなくてもいいよ」

「むう、なんか手のひらの上って感じですね」

 はははと声に出して笑ってから、とっくの前に出されていて、すっかり冷めてしまった紅茶を飲む。

 これは、幸せでいいのだろう。

 本当の記憶もなく、人生も曲がりに曲がったものを無理やりまっすぐにしたような、そんなやり方だけど。

 今が幸せなら、それで幸せということでいいんじゃないだろうか。

 これほどの幸せをもらって、返せたのは青の宝玉だけ、しかも、それと同じ効果のある目を『遺伝』として『設定』までしてもらった。

 それにしても、青の宝玉に選ばれるのが、人間の眼球と同じ大きさの青の宝玉を自分の目に埋め込むことだなんて、なんで悪趣味な。

 でも、それだけしなければ割に合わないような力を持っている。むしろおまけがくるほどだろう。

「お代わりは?」

 いつのまにか側までティーポットを持ちながら来ていたツサミさんに、「もらいます」と答えて紅茶を注いでもらう。

 さて、今日も、今後の国のことを話すという名目のもと開かれたお茶会を楽しく過ごすとしよう。

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