k02-29 絶望的な戦力差
「アイネ、シェンナ! 怪我はありませんか!?」
アザレアが駆け寄ってくる。
「えぇ。あれくらい問題ないわ。まぁ、殆どアイネのお陰だけどね」
「え、そんな事ないよ! シェンナの輝石魔法も凄かったよー!」
そう言って手の平をこっちに向けるアイネ。
?
あぁ。
手を合わせてハイタッチする。
とは言え、確かに我ながら想像以上の威力だった。
マスターに貰ったこの魔鉱石……一般の物と比べて内包してるマナの量が桁違い。
扱いを間違えると危ないわね……ろくな説明も無くこんなもん持たせるかしら普通!?
「お2人とも、大丈夫ですか?」
アイネがペオニーとゲイルに声を掛ける。
「え、えぇ。問題ないわ!」
バツが悪そうに、ゲイルから離れて涙を拭うペオニー。
アイネ……空気読みなさい!
まぁ、あんまり時間も無いからしかたないか。
「お2人のお陰でどうにかプラントへ向かえそうです。ありがとうございます」
そう言って頭を下げるアザレア。
「な、なぁ……」
茫然としながらこっちを見るゲイル。
「なに?」
「もしかして、はなからお前らが行ってたら、一瞬で片付いてたのか?」
「……まぁ、極論言うとそうかもしれないけど、お陰でこっちも戦力を温存出来たのは確かよ。感謝してるわ!」
正直な所、ゲイルが一般兵装や魔兵器で敵の強度を明確にしてくれたのはかなり助かった。
もしあれが無かったら、私もアイネも初撃の加減が分からず何人も殺す羽目になってたかもしれない。
「それじゃ2人は元の予定通り、安全な場所を探しつつ、余裕があれば人質の開放をお願い。プラントには私達だけで行くわ」
「わ、分かった。今更お前達の実力を疑うまでも無い。だが、くれぐれも気を付けてな」
そう言って、落ちていた魔兵器をいくつか拾うとゲイルとペオニーは街の方へ向かって歩き出す。
去り際、ペオニーが振り返り声を上げる。
「アザレア! これが片付いたら今度は学校で会いましょ。もしまたイジメて来る奴らが居たら、私がそのとんでもないボディーガードの事言いふらしてあげるから!」
「……前向きに検討しておきます」
そうとだけ答えて、ちょっと困った顔で笑いながら手を振るアザレア。
……あのお嬢様が味方なら、夏休みが終わっても大丈夫そうね。
―――
中央の建物を目指し橋の上を走る。
「アイネ、ファントムの残り時間はどれくらい?」
「20分程かな。短剣のお陰で爪使わなくて済んだから、さっきの戦闘じゃそれほど消耗してないよ。シェンナの方は?」
「この魔鉱石がどんくらい持つか正直分かんないけど……さっきくらいの威力であと10発程ってとこかしら」
建物に着くと、アザレアが入り口横のパネルに自分の端末を接続する。
慣れた手つきで画面を操作すると、よく分からない文字の羅列がいくつも表示される。
「……あ、もし大変だったら私が壊す?」
そう言って短剣を構えるアイネ。
「いいえ……もし非常装置が働くか、電子系統のトラブルにでもなってエレベーターが動かなくなると厄介です……。5分だけお時間頂けませんか」
「もちろん! 問題ないならアザレアにお任せするよ!」
―――
周囲を警戒しながら待つこと数分……
「……このコードさえ突破すれば――お待たせしました、開きました!」
操作パネルがピピっと音を立て、扉のアンロックを示すランプが点灯する。
「凄い! さすがアザレアです!」
アイネが手を叩いて褒めちぎる!
扉を開け、中に入ろうとしたとき……
アイネが突然振り返り、橋の方を見る。
……ゆっくりと橋の上を歩いて来る人影が1つ。
壮年の男性のようだ。
変った格好をしている。
ボロボロな黒いローブを纏い、つばの付いた帽子をを深々と被っている。
その腰には長剣。
ローブの下には黒色の籠手や脛当てを装着しているようで、日の光を受けて時折鈍い光を放つ。
おとぎ話に出てくる「魔法剣士」といった風貌かしら……
「味方……じゃないわよね」
「……シェンナ、アザレア。ここは私が食い止めるから。先に行って」
真剣な面持ちで、再びファントムの力を纏うアイネ。
「え、いいよ。待ってる。向こうは1人だし。すぐ片付くでしょ?」
「……ううん。多分あの人――強い」
そう言って、短剣を抜くアイネ。
男も、無言で腰の剣を抜く。
アイネの姿が目の前から消える。
次の瞬間――甲高い金属音が鳴り響き、男の前にアイネが姿を現す。
「――え?」
男は剣を片手で持ち、涼しい顔でアイネの斬撃を受け止めていた。
ウソ……!?
マスター以外の相手に、アイネの攻撃が受け止められるのを始めて見た。
男はなにかを呟きながら、空いている左手をおもむろにアイネへと向ける。
――!
何かを感じたのか、慌てて大きく飛び退くアイネ。
けれど、男の手から放たれた赤い閃光は、飛び退くアイネを空中で捉え、爆音と火炎を放つ!
弾き飛ばされゴロゴロと転がるアイネ。
「――アイネ!!」
アザレアが悲鳴を上げる!
「――っ大丈夫!」
素早く立ち上がる。
良かった……どうやら"爪"で切り裂いて直撃は躱したらしい。
「……ほぉ。随分と変わった術を使うな。キプロポリスでこんなに珍しい物に出会えるとは思わなかった……」
息一つ切らさず、静かな声でアイネに話しかける男。
「そちらこそ。輝石魔法なんて珍しいじゃないですか」
アイネが答える。
「輝石魔法? はは、あんな紛い物と一緒にしないでくれないか」
白けた笑いを浮かべる男。
紛い物……?
言ってくれるじゃない。
敵がアイネに気を取られているうちに……ポーチから魔鉱石を取り出して構える!
『緋の送り人 道を示す者よ
憫然たる魂がどうか惑わぬように
群列を成し 終焉への道を示せ
道標の赤絲――ウェスタ・フランム!!』
魔鉱石から放たれた赤光が、光線となり男を強襲する!
炎の輝石魔法"ウェスタ・フランム"
攻撃範囲こそ狭いけれど、その速さと貫通力は驚異的。
成す術も無く貫かれた男はその場に倒れ込み、燃え盛る炎がその身を包む!
そのはずが……
「……まぁ。キプロではこんな紛い物でも充分珍しい訳だが。残念ながらその程度では私には効かんよ」
男の左手、その掌から仄かに白煙が上がっている。
――素手!?
ウ、ウソ!?
戦車の装甲ですら軽く数台分貫通する威力よ!?
「シェンナ! 早くアザレアを連れて中に!」
アイネが叫ぶ!
「あ、あんたはどうすんのよ!?」
「私なら大丈夫! まだやれるから!!」
「それなら私も――!」
「――ごめんだけど! ……2人を庇いながら戦える自信ない。お願い!!」
「……!」
悔しいけれど、確かに私は詠唱中どうしても無防備になる。
輝石魔法で戦えるのもアイネのサポートがあってこそ。
それでも、アイネがあそこまではっきり言うなんて。
本当に余裕が無いんだ……。
「分かった。無理しないでね」
「シェンナこそ、気を付けて!」
そう言いながら、短剣を手に再び男に切り掛かるアイネ。
それを合図に、アザレアの手を引いて建物の中へ駆け込む!
「閉めて!」
「えっ!? だめです! アイネが!!」
「私達が居ると余計に足手まといになる!」
躊躇って動けずにいるアザレア。
その前を遮って、扉の開閉パネルを押す!
音を立て扉が閉まる。
「シ、シェンナ!」
「……行こう! 魔兵器の制御さえ取り戻せれば私達の勝ち! アイネが――」
アイネが……なに?
アイネがどうにか耐えてるうちに?
――何考えてるの、私。
何でアイネが負ける前提で考えてんのよ!?
目を瞑って頭を振る。
アザレアの手を引いてエレベータへ。
まだ戸惑いながらも、壁の端末を操作するアザレア。
程なくして、エレベータは私達を乗せ海底へと向かって動き出した。






