k02-24 共同戦線
「……で、そっちはこれからどうするの?」
ゲイルに問いかける。
「……場所を変えながら時間稼ぎだな」
「時間稼ぎ……?」
「あぁ。俺の勘だが……おそらく犯人は極力死傷者を出したくないはずだ」
「どういうこと?」
「考えてみろ。犯人が目的最優先の極悪非道なテロリストなら、どうして俺達に5時間も猶予を与えた?」
離れて会話を聞いていたペオニーが付け加える。
「友好関係にある近隣の街にはテロの話は行ってるはず。救援部隊が到着するのにかかる時間が、だいたい6時間って言われてるから、5時間ってのは救援部隊が来る時間を考えてギリギリのタイミングね」
「いくらハイドレンジアの防御機構とはいえ、制御を完全に乗っ取れていない今の状態で攻撃を受ければ防衛は困難です。犯人側もシステムの上書きは常時試みているようですが、まともなやり方では6時間以内に全システムを書き換えるのは不可能みたいですね」
そう言いながら手元の端末を見るアザレア。
「となると……犯人としては一刻も早く鍵を揃えてシステムを乗っ取ってしまいたいはずだな」
「確かに。人質は充分に居るはずなんだから、それこそ"30分後から10分おきに1人ずつ殺す"とでも脅迫すれば、もっと迅速に私達を追い込めるはず」
「だが、何故か犯人はそれをしない。人質を殺したくない理由があるはずだ」
「つまり、支援部隊の到着まで、時間を稼げば稼ぐ程犯人は追い詰められる」
「その通りだ」
「あ、あの。いくら殺したく無い理由があるとは言え、そこまで追い詰められたら犯人も本当に人質を殺害し始めかねないんじゃないですか……?」
アイネが心配そうにつぶやく。
「十分ありえる話だ。出来るだけ殺したくないはず、ってのはあくまでも倫理観やら思想の問題で、目的のためにやるかやらないかは別の話だ」
「じ、じゃあ……」
「とは言え、降服なんて選択肢はあり得ないわ! ハイドレンジアの制御が完全に向こうの手に落ちれば、奪還は絶望的。それどころか、近隣国家へ向けて攻撃に転じる事も可能になる。"私の街"を世界の敵になんてさせてなるもんですか!」
そう言って立ち上がるペオニー。
やれやれといった様子でゲイルも立ち上がる。
「俺達が取れる行動は……まず第一に、絶対に捕まらない事。そして、第二に、余裕があれば人質の解放だ。人質の数が少なくなれば、その分向こうも慎重にならざる負えない」
「あんたたちも協力しなさいよ!」
そう言ってアザレアを指さすペオニー。
「わ、私達は……」
私の事を見るアザレア。
「……いいわ。こっちの目論見も話しておきましょう」
「私達は……魔兵器の制御を奪還しようと思っています」
「……はぁ!? どうやって?」
「じ、実は……私、C.S.C社のシステムにハッキングできるんです。魔兵器の管理コンソールにさえ接続できれば……」
マジか!? っていう顔でゲイルが私の方を見る。
それに頷き返す。うちのお嬢様を甘く見てもらっちゃ困るわ。
「簡単に乗っ取られたりハッキングされたり……C.S.Cのセキュリティーはどうなってんのよ!? この件が解決したら、ハイドレンジア市としてじっくり問責にかけてやるわ! ……と、まぁそれはさておき。……残念だけど、その作戦はかなり厳しいと思うわよ。管理コンソールって、C.S.C本社にあるんでしょ? 私達、あの近くから逃げてきたんだけど、あの周辺が一番警戒が厳重よ」
「それは、分かっています。でも、実は……もう1つ方法があるんです。ハイドレンジアの機関プラント。その最下部にあるサーバーシステムの本体。そこに直接アクセスしても、制御の書き換えが可能なんです」
「プ、プラント!? 地下プラントの事? サーバーの本体ってC.S.C本社にあるんじゃなかったの!?」
ペオニーに詰め寄られて、思わず顔を背けるアザレア。
「は、はい! こういう事態も想定して、本社には管理コンソールだけ。本体はプラントの一角に隠ぺいしてあるんです」
事前にアザレアから聞いた話によると、ハイドレンジアの地下――海抜より下の部分は巨大なプラントになっていて、ハイドレンジア全域へのライフラインの提供の他に、非常時の食料等の備蓄庫、さらには地下シェルターの役目も果たすらしい。
そこに、私達が目指す"サーバー"もあるという話だ。
「まったく!! そんな大事な事を市に報告もしないで秘密裏に……! だからC.S.C社は嫌いなのよ!」
「ごめんなさい。私もさっきお父様から聞いたばかりなんです」
「……しかし、それでもあんまり状況は良くないな」
ゲイルが2人の間に割って入る。
「……何か問題でも?」
「プラントはハイドレンジアの運用を司る重要施設だ。C.S.C本社程じゃないにしても、おそらくそれなりの戦力が配備されてるはずだ」
「それでもやるしかないわ。いざとなったら私とその子で制圧するつもり」
アイネを見る。
「制圧って……冗談だろ。学校で何習ってきたか知んねぇが、テイルのひよっこ2人でプロのテロリスト何十人も相手に制圧なんざ出来る訳ねぇだろ」
そう言って頭を掻くと、暫く考え込むゲイル。
「お嬢様。俺たちの作戦だと、人質の犠牲は多かれ少なかれ免れない。それなら、いっそこっちの作戦に掛けるぞ。俺も現場に行く。そんで、本当に警戒が厳重なら、俺が引き付ける。いいな?」
「ちょっと、そっちこそ冗談でしょ? 敵の規模は分かんないけど、あなた1人で相手するつもり?」
立ち上がってゲイルに詰め寄る。
「少なくとも、テイルの女子生徒2人よりは動ける自信はあるぜ」
にやりと笑うゲイル。
「……とにかく。現地の状況を見ないと何とも言えないでしょ。危険だけど、全員でそこに向かうわよ」
そう言うペオニーは……さっきまでの威勢は無く、どこか複雑そうな顔をしている。
ともかく、全員でプラントの入り口へ向かう事になった。






