k02-23 波間の民
「一旦ここに隠れるぞ!」
近くにあった食料品店のバックヤードに姿を隠す。
私達と傭兵で手分けして、建物内に敵兵が居ないかを確認する……
フリをして、独りになった隙にアイネがファントムの力で周辺を確認する。
「店舗側はクリアだ」
傭兵が戻ってくる
「トイレも倉庫も大丈夫。アイネの方は?」
「うん、こっちも問題なし」
なら大丈夫そうね。
バックヤードにあった机や椅子にそれぞれ腰掛けて一旦落ち着く。
傭兵が、店舗から売り物の飲料を持ってきてそれぞれに投げ渡す。
「え、ダメですよ! お店の物を勝手に!」
慌てて棚に戻しに行こうとするアザレア。
「バカ、アザレア! こんな非常事態に何言ってんのよ! お金なんて後で払いに来ればいいわよ!!」
そう言って手に取った飲み物をガブ飲みするペオニー。
一息つくと、そのままアザレアに詰め寄る。
「てか、あんたんとこの魔兵器のサーバー、どうなってんのよ!? こんなときにシステム障害!? 朝からライセンス申請が全く通んないんだけど!! おかげでいっぱいいた傭兵も今じゃこいつ1人よ! どうしてくれんのよ!?」
凄い剣幕でまくし立てる。
「ご、ごめんなさい! 私も詳しく分からないのですが……どうも犯行グループに制御を奪われたようで……」
「はぁ!? 何やってんのよ! いつも私の街で我が物顔してる生意気なC.S.Cのくせに、肝心な時に役に立たないなんてどういう事!!」
「ご、ごめんなさい!」
頭を下げて謝るアザレア。
「ちょっと! 確かにアザレアのお父様はC.S.Cの責任者だけど、別にアザレアのせいじゃないでしょ!」
思わず間に割って入る。
「……なんなの、こいつら?」
私の事は無視して、アザレアに問いかけるペオニー。
「あ、あの。私の……友人です」
「友人……? 見た感じただの素人には見えないけど? どっかのテイルの生徒?」
私達の事をジロジロと見回す。
あんまり気分の良い物じゃないけど、ここはノーリアクションに徹する。
「え、えぇ。お2人ともテイルの生徒さんで、私の護衛も兼ねてくださっています」
「……は。またあんたそんな甘い事言ってんの? 護衛ならちゃんとしたプロ雇いなさいって言ったでしょ? あんた学校でも護衛つけて無かったわよね。そんでイジメられてたでしょ?」
「そ、それは……」
そう言って下を向くアザレア。
成る程、こんなに良い子に何で友達が居ないか不思議だったけど……要は嫉みね。
まぁ……よくある事だわ。
「私達有名人は嫉まれる事だって多いんだから。そんな下らないことしてくる奴らには力づくで――」
「お嬢様! 友達思いなのは良いけど、今はそんな話してる場合じゃねぇだろ」
呆れ顔で話を止める傭兵。
思い出した。
そういえば、ブレイク・ウォーターでペオニーに蹴り上げられていたのもこの人だ。
「え、ペオニーさんもアザレアのお友達なんですか!?」
アイネが全く持って空気の読めない発言で2人の間に割って入る。
ため息をついてその場を離れるペオニー。
「……手短に情報交換したい」
傭兵が私に話しかけてくる。
「いいわ」
「俺はゲイル。見ての通り、そこのお嬢様に雇われた傭兵だ」
そう言って握手を求めてくる。
歳はマスターより少し上くらいかしら。
線の細いマスターとは違い、よく鍛えられた筋肉が洋服の上からでも分かる。
さっきの体術や、ここまで来る最中の身のこなしといい、教科書のお手本通りの動き。
バリバリの肉体派といったところね。
「まずは状況に関してだな。今分かってるのは、社長親子、それと市長は既に敵の手にあるって事。残ってる"鍵"は、ここにいる2人と、グラードだけだ」
「グラードさんは、うちのマスターが護衛してるわ。2時間程前に連絡があった時は無事だった。それ以降は全く連絡付かないけど」
「通信用の回線も早々に乗っ取られたらしい。現代戦において情報網の遮断は最優先だからな。にしても、開戦と同時に捕まらなかったってのは朗報だな。テイルのマスターならそれなりに腕は立つんだろ?」
「ま、まぁ……それなりには」
結局のところ、うちのマスター……どれくらい強いのか未だに分からない。
アイネとファントムの接近戦の特訓相手を普通にこなしてたから、テロリスト相手に早々簡単に捕まりはしないと思うけど……。
「あと、知ってるみたいだけど、魔兵器は敵方が所持している物以外全てライセンスで使用不可になってるわ」
「全てってことは、警察やらC.S.C社と無関係の警備会社の物やら全部か?」
「そう。全部よ」
「……最悪だな」
そう言って、懐から取り出した小銃を見るゲイル。
さっき敵兵から奪った物ね。
インジケーターがグリーンに光って使用可能状態を知らせている。
元々敵が持ってた物だから今のところ使えるみたいだけど、さっきの敵兵が意識を取り戻して本隊に連絡されたらきっと使えなくなるわね。
そう言えば……プロの傭兵ならあの場で相手を殺してても不思議じゃないけど……
「あぁ、それと……。役には立たん情報かもしれんが、敵は”波間の民"を名乗ってるらしい」
「波間の民……ですか?」
隣で話を聞いていたアザレアが怪訝な顔をする。
「確か、この地方に昔住んでいたという先住民族の名前……ですね」
「そうだ。俺もここの歴史に詳しい訳じゃないが、とっくの昔に滅んだって言われてる種族だ」
そう言えば……アイネの白いワンピース。
あれも古い民族だどうのって言ってたわね。関係あるのかしら……?
「俺達が分かってるのはこれくらいだ。そっちは他に?」
「私達も同じようなものよ」
「そうか……」
暫しの沈黙が場を包む。






