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k02-22 もう1つの鍵

 静まり返った街中。


 前に読んだ小説で、ある日突然自分以外の人間が居なくなっちゃうって話があったな。


 ……もしかしたら島にはもう私達しか存在しないんじゃないか?


 ハイドレンジアの賑やかな日常からかけ離れた状況に、そんな感覚さえ覚える。



 なるべく人目につかない裏路地を選びながら進む。


 先頭を行くアイネの頭の上では、ファントムの黒い耳がピコピコと動いている。



 ……最初は日に数十秒しか使えなかったファントムの力も、ここ数ヶ月の特訓で随分長い時間維持できるようになった。


 アイネいわく、全力での戦闘なら10分程。

 消耗が大きい"爪"を使えば時間は短くなるし、逆に一部の力を使うだけなら1~2時間程度維持できるらしい。


 今は、音や気配の感知にのみ特化している状態だ。


 その力のお陰で、敵に近づく事すらなく安全なルートを通って進む事が出来る。



 ちなみに……ファントムの力を見たアザレアは、最初こそ驚いてたものの後は可愛いの連呼だった。


 私も見慣れてくるとそこまで恐怖はなくなったけど……初見で可愛いと思えるって、やっぱりどこか肝が座ってるわね……。




「――!」


 曲がり角の手前で立ち止まり、アイネが止まれのサインを出した。


 続けざまに『曲がった先』『敵』『2人』のサイン。


 実地遠征前に、マスターが急にブロックサインの補習なんかし出した時は何なんだと思ったけど、まさかここで役に立つとは……。



 さて、それじゃ迂回ルートは……。


 アザレアの端末で地図を確認しようとすると、こっちを振り向いて困った顔をするアイネ。


 手招きで私達を呼び寄せる。


 アイネに促され、慎重に曲がり角の先を覗き込むと……20m程先に歩兵が2人。


 銃を胸元に携え、周囲を警戒しながら歩いている。


 巡回兵みたいね。


 別に今まで見てきた兵士達と変わりばえなさそうだけど……。



 アイネが、その先を指差す。


 兵士達の先……路肩に停められた車?



 ――車の背後に人影!!


 私達と同じくらいの年の女の子かしら?


 息を殺してじっと隠れている。



 兵士達は……幸いまだ気づいてないようね。


 周囲を見回しながら、徐々にそちっちへ近づいていく。



『ど、どうしましょう』


 オロオロと慌てふためくアザレア。



『まかせてください、いざとなったら私が』


 そう言って、いつでも飛び掛かれるよう姿勢を低くして構えるアイネ。



 2人共……気持ちは分かるけど、今は私達の方が追われてる身。


 他人の事なんて考えてる場合じゃ……。


 まぁ、このお人好し2人に言った所でムダよね。


 いざという時にバックアップできるよう、腰のポーチから魔鉱石を取り出す。



 ………



 幸いな事に、兵士達は少女に気づかず通り過ぎた。


 3人共ホッと胸を撫でおろす。



 ――ところが、早くその場を離れようと慌てたのか、立ち上がろうとした少女がよろめき車に寄り掛かってしまう。


 音を立てて揺れる車。


 それに気づき、通り過ぎようとしていた兵士達が慌てて戻ってきた!



「誰か居るのか!?」


 銃を構えながら、両側から挟みこむように車の背後に向かう兵士達。



「おい! 怪我したくなければ出てこい!」


 そう言って銃を向け威嚇する。



「両手を頭の後ろで組んでその場で立て!」


「お、お願いです! 撃たないでください!」


 そう言って、怯えながら立ち上がる。



「お前1人か!?」


 震える彼女に向かって銃を突き付ける!


 コクコクと必死に頷く少女。



 アイネが姿勢を低くし、獣が獲物を狩るような体制を取る。


 大丈夫――。アイネの襲撃の射程範囲内。


 いざとなればトリガーを引くよりも早く相手を仕留められるはず。



「よし。変な気を起こすなよ。大人しくしてれば危害は――」


「――待て、こいつ! 市長の娘、ペオニーじゃないか!?」


 一方の兵士が驚いて声を上げる。



「――そうよ! まったく、初見で気づかないなんて、失礼な奴らね!!」



 次の瞬間――隣の建物の屋根から、音もなく人影が舞い降りる!



 振り向くもなく、背後から兵士の首に手刀を一撃!


 慌てて振り向いたもう1人の兵士の頭に、素早く回し蹴りをかます!



 自分の方に飛んできた兵士を寸での所で避ける少女。


「ちょっと!! 何でこっちに蹴るのよ!? 危ないじゃない!」


 少女に罵倒されたのは、ガタイの良い男性だった。


「勘弁してくれ。こんな一瞬で蹴る方向まで考えてられるか。そんな事より、さっさと貰う物貰ってずらかるぞ」


 そう言いながら、横たわる兵士達の武器をゴソゴソと漁る男。


「使えそう?」


「あぁ。小銃だが魔兵器だ。これでだいぶ楽になる」


 手早く銃の状態を確認する。


 動きに一切の無駄が無い……。慣れた手つきと落ち着いた行動……間違いなくプロの傭兵ね。



「さ、それじゃとっとと行きましょ」


「あぁ。その前に……」


 そういって、男がこっちを見る。


 慌てて物陰に顔を引っ込める!



「おい、そこに隠れてる奴ら。敵って訳じゃないだろ? 少し話さないか?」


 明らかにこっちに向かって声をかけてくる。


 ブラフじゃないわね。


 どうする……。


 考えていると、不意にアザレアが物陰から飛び出した!


「ち、ちょっと! アザレア」



「ぺ、ペオニーさん!?」


 そう言って少女の方へ駆け寄ろうとする。



「……アザレア!?」


 アザレアの姿を確認すると、警戒しつつも近づいて来る少女。


 その様子を見て、傭兵も武器を構えながら近づいてくる。



 私達も物陰を出て、警戒しつつアザレアに続く。


「お2人とも、大丈夫です。こちらは、ペオニー・バインド・ウィード。私の同級生で……市長の娘さんです」



 ――もう1つの鍵の持ち主!!



「アザレア、あんたよく無事だったわね! 真っ先に捕まってると思ったけど」


「え、えぇ。こちらのお2人のお陰です」


 アザレアに言われ、警戒を解く。


 アイネ、念のためファントムの力は解除したみたいね。耳が消えている。



「……あーーっ!! アンタ達!!」


 私達の顔を見るなり、ペオニーが大声を上げる。


 慌ててその口を手でふさぐ傭兵。



「……? あっ!!」


 どこかで見覚えある顔だと思ったら、思い出した!


 税関で大騒ぎしてたお嬢様だ!!


 まさか市長の娘だったとは……。




「お2人共お知り合いだったのですか?」


 不思議そうな顔をするアザレア。



「い、いや、知り合いという訳でもないんだけど……」



「――お嬢さん方、立ち話に花を咲かせるのも良いが、ここじゃゆっくりともいかないだろ。とりあえず離れるぞ」


 私達の様子を見ていた傭兵が話に割って入る。



 伸びている兵士2人を手早く近くのごみ箱に隠すと、私達は揃ってその場を後にした。


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