k02-21 戦闘準備
『そんじゃ、最後に1つだけ良い知らせだ。
おれのスーツケース持ってるよな?』
「あるわよ! 邪魔だから捨てようかと思ったけど!」
『捨てなくて正解だ。ダイヤルを1111に合わせると開くから開けてみろ』
1111って……どんだけザルなのよ……。
通信端末から一端離れて、スーツケースのダイヤルを合わせる。
横にあるボタンを押すと、パチッと音を立てて鍵が空いた。
アイネ達も一緒になって覗き込む。
中身がこぼれないようにそっと蓋を開けると中には――
まず、半分程を占めるのが大きなクマのぬいぐるみ。
それから、枕、洋服、ガイドブック、歯ブラシなどの小物、そして……
やたら派手な、男物の下着。
「キャァーー!」
それを見て大声で悲鳴を上げそうになるアザレアの口を、慌ててアイネが押さえる。
当のアイネも顔を真っ赤にしている。
『どうだ? 何が入ってたか声に出して言ってみろ!』
傍らに置いた端末からマスターの声が聞こえる。
「……っこのバカマスター!! こんな時に何のセクハラよ!!!」
外に聞こえない程度に精いっぱい大声で端末に叫ぶ!
『ん?? 何のことだ?? ……あ! 違う! 0701だ! 間違えた。一回閉じて0701に合わせて開き直してみろ』
「はぁ?」
良く分からないけれど、時間もないので言われる通りにする。
スーツケースを閉じ、言われた通りダイヤルを0701に合わせ……改めて横のボタンを押すとさっきと同じように音を立てて鍵が開く。
もう一度蓋を開けると……
「――何これ? どうなってんの?」
「なに!? 今度はなに?」
アイネが引き攣った顔で恐る恐る覗き込んでくる。
アザレアはさっきの衝撃が凄かったのかまだ向こうを向いたままだ。
スーツケースの中には、さっきと打って変わり――
折り畳まれた衣類や、鞘に納められた短剣、液体の入った瓶、紋章の刻まれた金細工が施された魔鉱石など見たことのないアイテム達が入っていた。
「え? これ、どうなってるんですか?」
アイネが不思議そうに覗き込む。
二重底……? ううん、スーツケースの大きさからみてそんなスペースは無かったはず……。
『どうだ!? 何が入ってる?』
再び端末からマスターの声がする。
「えぇと……。何か黒い服?」
『おお、そうだった! とりあえずそれ取り出して広げろ』
言われるがまま取り出して広げる。
留め具やフードが付いていて……マントかしら?
「えっと、何か小汚いマントみたいだけど?」
『小汚いとは失礼な! 大戦時に使われてた防具だ。テイルの制服と一緒で魔鉱石の粒子を織り込んだ特別な魔鉱糸で出来てる。防御力が高い上になにより軽い。お嬢様に渡して着させるんだ』
「分かったわ」
アザレアに手渡す。
「あ、あの、私よりもお2人が着られた方が……?」
「ううん。私達のこのマントもマスターのお手製で、結構な防御力があるから大丈夫。胡散臭いと思うかもしれないけど、あの人の持ってる道具は一応性能は確かよ」
「わ、分かりました」
そう言って、おたおたと慣れない手つきでマントを羽織るアザレア。
『後は何が入ってた?』
「自分の荷物くらい覚えときなさいよ! 後は短剣と、飾りの付いた魔鉱石。それと小瓶がいくつか」
『おぉそうだった。短剣はアイネに持たせろ。ファントムの“爪”はマナの消費が激しいからな。温存してなるべくそいつで凌ぐんだ。古い短剣だが、刀身はオレイカルコス製だ。よく切れるから扱いには気を付けろよ』
オレイカルコス……?
おとぎ話に出てくる伝説の金属じゃない。
今更驚きはしないけど……本物なら博物館行きどころか、歴史的な発見よ。
『魔鉱石は輝石魔法用にお前が使え。細工してあるから普通の物より数倍持ちが良い。あと薬瓶には残ってたアンニィパータントポーションを入れてある。いざという時用だ。それぞれ1本ずつ持っとけ』
ポーションをアイネとアザレアに手渡す。
不思議そうに瓶を眺めるアザレアに、使い方の説明をするアイネ。
『――じゃ、そろそろ通信切るぞ! こっちの用事が片付いたらすぐお前たちのバックアップに向かうから! それまで何とか踏ん張れ! じゃあな、健闘を祈る!!』
そう言い終わると同時に、通信が切れる。
ほぼ時を同じくして、ドアの外から声が聞こえてくる。
「おい! 居たか!?」
「いえ!」
「まだ遠くへは行ってないはずだ、なんとしても見つけろ! 一緒に居た女2人は殺しても構わないが、アザレアだけは無傷で確保だ! 忘れるなよ!」
「はっ!!」
入り口のドアが、ガチャガチャと音を立てる!
びっくりして心臓が止まりそうになる!!
………
息を殺して気配を断つ事数秒……
どうやら鍵がかかっていると分かり諦めたようで、人の気配は去って行った。
3人で顔を見合わせ深く溜息をつく。
マスターからの支給品を手早く装備に加え、倉庫を後にした。






