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k02-13 私達の任務

 日が暮れる頃、ヴェントさんがバーベキューグリルに火を起こしてくれ、歓迎会が始まった。




 私達はお茶やジュース。


 マスターとグラードさんはお酒。


 それぞれに、飲み物の入ったコップを掲げて――


「乾杯~!!」



 エプロン姿のヴェントさんが、串に刺した野菜や肉をグリルに並べていく。


 さっそくジュージューと良い音が立つ。


 机には、私とアイネも手伝って切ったフルーツやサラダが並ぶ。



『何でも好きな物を買ってください』


 というお嬢様の言葉を真に受けて、スイカを丸々1玉買って貰ったアイネ。


 お肉の前に真っ先にスイカにかぶりついてる……。




 やがて、厚切りのお肉が焼き上がり、ヴェントさんが一同に配って周る。



「美味しいですー!!」


 串に刺さったままのお肉を頬張り感嘆の声を上げるアイネ。


「やっぱりお肉は炭火で焼くと格別ですね」


 一方のお嬢様は串から外し、お皿の上でフォークとナイフで上品に食べている。


「え、え!? これってそうやって食べるんですか!?」


 恥ずかしそうに串を降ろすアイネ。


「いえ、お好きなように食べるのが一番だと思いますよ」


 そう言って笑うお嬢様。



「あー、ダメだな。全然ダメだ!」



 グラードさんと談笑していたマスターが急に割って入ってくる。


 結構飲んでいるのか、少しお酒臭い。


「ちょっと、酔っぱらい! 女子の会話に絡みに来ないでよ!」


 面倒くさそうなので追い返そうとしたけど、グイグイと私をベンチの隅に追いやり、横に座ってくる。



「おい、お前ら! 今日一日何やってたんだ!? お前らには期待してたんだが……正直、期待外れもいいとこだ」


 やれやれと言った様子で首を振るマスター。


 確かに、今日やった事と言えば楽しくショッピングしたくらいで実地演習らしいことは何もしてないけど……。


 でもこの状況下でこれ以上どうしろってのよ!? 言われの無い罵倒にイラっとくる。



「ちょっと! なんの話よ!? 私達の護衛に何か問題でもあった!?」


「そ、そうですよ! お2人共しっかり私の事をエスコートして下さいました!」


 お嬢様も一緒になってマスターに抗議してくれる。



「いや、全然だめだね! お前らの任務は何だ?」


「だから、言ってるでしょ! お嬢様の護衛よ」


「はー……、違うだろ」


 そう言うと手に持っていたお酒を机に置くマスター。



「ど、どういう事ですか?」


 黙って聞いていたアイネが手に持ったスイカを置いて、真剣な顔でマスターに問いかける。



「依頼は"友達になってください"って事だったろ? なのになんだそのよそよそしい会話。友達ってのは敬語で話し合う仲なのか?」


 マスターにそう言われ、ハッと顔を見合わせるお嬢様とアイネ。


「ち、違うんですか、アイネさん!? お恥ずかしながら……実は私、お友達と呼べるような方が1人も居なくて……」


「え? そうなんですか!? 実は私も、友達はシェンナと、エーリエっていう女の子だけで……あんまり詳しく無くて……。ね、ねぇ! シェンナは友達いっぱい居るでしょ!?」


 そう言って同時にこっちを見てくる2人。



「え、えぇ!? そんなの私も知らないわよ! でも、まぁ……確かに私はアイネの事"アイネさん"なんて呼ばないし、アイネも私の事は"シェンナ"でしょ? なら、そうなのかもね……」


 私の話を聞いて、真剣な顔で向き合う2人。


「あ、アイネさん! 失礼ですが、ちょっと呼んでみて良いですか!?」


「わ、私もやってみますね!!」


 2人共鼻息が荒い。な、何が始まるというんですか!?



「あ、あのね、アイネ!」


「な、何かな、アザレア!!」


 ………


「キャー!! 恥ずかしい!」


「む、ムリです! 急には無理ですー!!」


 そう言って顔を真っ赤にする2人。


 見てるこっちが一番恥ずかしいわ!!



 そんな様子を見て、静かに笑いながらそっと席を離れるマスター。


 グラードさんと話しているのが聞こえる。


「……ありがとうございます」


「いえ。……例の件はあいつらには伏せてあります。特にアイネは顔に出るタイプなので」


「分かりました。その辺はお任せします」


「……まだ経験も技術も未熟なあいつらです。いざという時に役に立つのは"なんとしてもこの人を助けてあげたい"と思う気持ちですから」


 何の話かしら……?

 少し気になるけど、お酒を飲みながらするくらいだから大した話じゃないんでしょ。



 そんなこんなで、楽しいバーベキューは遅くまで続いた。



 ―――――



 バーベキューが終わり、跡片付けは翌日ヴェントさんがしてくれるという事で、私達は順にお風呂に入る事に。



 先に部屋に戻り髪を乾かしていると、暫くしてアイネが戻ってきた。


 その隣にはお嬢様も一緒。


「あの、少しご一緒させて頂いてよろしいですか?」


 そう言って部屋を覗き込むお嬢様。


「どうぞどうぞ、どうかされました?」


「い、いえ。そう言えば、まだシェンナさんとは名前で呼び合ってなかったなと思いまして。出来れば……私にもアイネさんと同じように接して頂けませんか!? ご迷惑でなければですけど!」


「いえ! 迷惑だなんて。私はクライアントと護衛という立場として適切かと思う対応を取っているだけなので」


「で、では、そういう事情が無ければ、シェンナさんも私とお友達のように接して頂けますか!?」


「もちろん! だって今日1日一緒にいて楽しかったですもん、きっと友達っていうのはそういう人の事を言うんだと思いますよ」


 それを聞いて、顔を真っ赤にして目に涙を浮かべるお嬢様。


「じ、じゃぁ、明日からも、一緒に色々な所に行ってくれますか? シ、シェンナ!」


「はい……、じゃなかった。うん、アザレア、明日からもヨロシクね!」



「――キャーー!! アイネ、私今日1日でお友達が2人もできました!」


「うん、うん、良かったねアザレア!」


 そう言って手を取り合って喜ぶ2人。てか、名前以外敬語に戻ってるけど。


 まぁ、喋り方なんて、友達になる上で本当はそんなに大事じゃないんじゃないと思うけどね。




「うるせー! とっとと寝ろ!」


 急にドアが開いてマスターが入ってくる。そう言えば向かいの部屋だったわね。



「ちょっと!! 女子の部屋にノックも無しで入ってくるってどういう神経してんのよ!」


「そーですよマスター! エッチです!」


「え、エッチです!」


 私に続いて追撃するアイネとアザレア。


 女子3人を相手にするとさすがに分が悪いらしく、渋々と退散していくマスター。



 とは言え、夜もだいぶ遅いので、少し声のトーンを落とし、その後暫く3人で明日からの予定について話し合った。


 明日は午前中は海水浴、午後はビーチエリアでのショッピングという運びに。


 女子3人、話は尽きないけれど、明日に備えて日が変わる頃にはそれぞれベッドに就いた。



 それにしても……こんなに良い子が友達居ないってどういう事だろ。


 まぁ、それを言うならアイネもそうか。


 そんな事を考えているうちに、寝心地の良いフカフカのベッドが心地よくあっという間に眠りに落ちた。

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