k02-12 本当の依頼内容
その頃――
屋敷の客間にて。
「いやー、それにしてもハイドレンジアの技術力の高さには驚きました。ウィステリアでは見たことのない物の連続です」
「そうですか、楽しんで頂けているようで良かった」
ジンとグラードが横並びで椅子にかけて話をしている。
「特にセキリュティの強固さ。これだけの人が出入りする街なのに、犯罪の発生率が世界中でも断トツに低いというのも驚きです」
「えぇ、島のセキリュティはC.S.Cが担っていますので、そうお褒め頂けると光栄です」
「だからこそ――」
そう言って、和やかに話していたジンの顔が真顔に変わる。
「うちのグランド・マスター経由で頂いた今回の依頼。最初依頼書を読んだ時はさすがに信じられませんでしたよ」
娘と友達になって欲しいという例の依頼書。
電子メールで届いた訳だが、実は依頼書のデータには古い形式で隠しメッセージが添付されていた。
それを解読して出てきた内容は……
『C.S.C軍部によるテロの可能性あり。救援求む』
「本当ですか?」
「……えぇ、間違いあません。ジンさん達も通ってこられたはずですが、この人工島に続く唯一の橋『カットアップ・ホワイト・ライン』。我が社ではあの橋のセキリティも請け負っているのですが……そのセキュリティシステム内に不可解なコード改変の後があるのを、私の部下が見つけました」
「コード改変……ですか?」
「はい、一種のウィルスが仕込まれていたのです」
「……すいません、その辺の事には疎くて……」
「申し訳ない。端的に言うと、あの橋の閉鎖命令を出すコードを何者かに掌握されてしまっている状態です」
「橋の閉鎖……」
「厳密に言うと、橋に設置された警備用の魔兵器の制御を、命令1つで完全に乗っ取る事が可能な状態という事です」
「成程……。ちなみに、仮に橋の制御を奪ったとして、犯行グループの狙いは何なんでしょうか?」
「……それをご理解頂くにはまず、このハイドレンジアの成り立ちについてご説明せねばなりません」
そう言って、グラードはハイドレンジアの設計資料らしきものを棚から取り出す。
「あまり一般に知られてはいませんが、ハイドレンジアは外部の街々が何か重篤な事態に陥った場合でも、島内の物資だけで半年以上日常生活が送れるよう設計、運用されているのです」
「住人だけで数十万人以上居るはずですが、それを半年ですか!?」
「えぇ。島の下部……海抜より下の部分は、島のシステムを司る巨大なプラントであると同時に、物資の備蓄庫も備えています。そして、空に浮かぶ巨大魔鉱パネルは、システムの書き換え1つで戦闘用の防御障壁として稼働できます」
「へぇー。そして、周辺の海は海流が荒く海路での侵入も困難と……」
「はい。先の大戦後に世界中の資産家や政府が資金を出し合って建造を始めた巨大シェルター……それがハイドレンジアの成り立ちです」
「海に浮かぶ、孤立した安全地帯……ですか。そうなると……一度制圧されてしまうと、外部からの救援は困難ですね」
ハイドレンジアの図面を確認しながら呟くジン。
「はい、島内を掌握されてしまえば、島に住む多数のVIPと、一般の観光客全員が人質……ということです」
「しかし、島内にもある程度の戦力はあるでしょ? それこそC.S.Cの兵士や街の警察が集まればテロリストの鎮圧くらい……」
「えぇ、仰る通りです。C.S.Cの私設部隊はこの島の最大戦力です。小規模なテロリストの鎮圧くらいは容易です。それは犯行グループも分かっているはず。それを承知の上で、それでも尚決行に乗り出すという事は……」
「あぁ……それで犯人はC.S.Cの軍部、それも少なくとも島全体を制圧出来る程の人員を擁するグループ、という事ですか」
大きな溜め息をつく。
「そうです。もしかすると警察にも息がかかっているかもしれません。ですので、内部の人間に相談する事が出来ずこうして外部から皆さんに来て頂いた訳です」
「……状況は分かりました。つまり、誰が敵か分からない以上大々的に動くことは出来ない……と」
「その通りです。なので藁にも縋る思いで古くからの友人……シエンに助けを求めたのですが……。返ってきた返事が、教員1人と生徒2人を派遣する……でしたから。申し訳ありませんが、正直なところ程よく断られたのだと思いましたよ。しかし、優秀な彼女の事、何かしら策があると信じて受け入れました」
「まぁ、確かに。この状況下で大規模な戦力を派遣する訳にもいかないでしょうし、敵方に気づかれずに人員を潜り込ませる事を最優先したんでしょう。敵もまさか我々3人が助っ人とは思わないでしょう」
「えぇ、現にこうして2人きりで話せているのは疑われていない証拠でしょう」
「最後に……他にこの事を知っている人物は?」
「私に報告をくれた部下と、発覚後すぐに私から報告した社長だけです」
「2人の動向は?」
「それが……部下はその翌日から行方が分からなくなっていまして……」
「それは……あまり良くないですね。社長の方は?」
「社長とは長い付き合いでして、私の唐突な話も真剣に聞いてくれました。ただ、事が事だけに、確実な事実確認が取れるまでは下手に動かないようにと。本業である警備部門のしかも本社での事件となれば、例えそれが誤報だったとしても結果として信頼を大きく失います。現在は社長の肝入りで秘密裏に調査が進められているはずです」
「事情は理解しました! で、我々への具体的な要望は」
「万一有事に陥った際、私と、娘の護衛をお願いします。もし可能ならば犯行を事前に止めたいですが……さすがにそこまで危険な事はお願いできません」
「承知しました。しかし、それならば今のうちに事が落ち着くまで島の外に退避して頂くのが一番なのですが……」
グラートは暗い顔で首を横に振る。
「私も真っ先にそれを試みて、家族旅行の体で出島申請を提出したのですが……社の方からNGが出ました。大きなプロジェクトが動き出すとセキュリティ部門の責任者は機密保持のため出島禁止になる事がたまたまあるのですが、それが急遽このタイミングで発令されまして……」
「偶然……にしては出来すぎですね」
「えぇ……怪しまれていると思って間違いないでしょう」
「分かりました。我々の任務は有事の際に2人の安全を確保する事。それまでは目立たないようお2人の身辺警護要員として過ごさせて頂きます」
「ありがとうございます。こんな危険な事に巻き込んでしまい申し訳ない!」
「大丈夫です。これでも一応プロなので。それに……」
その時、丁度アイネ達が買い物から帰ってきたのが窓の外に見えた。
「うちの生徒2人、見た目以上に相当強いですから」






