k02-04 ハイドレンジア
『お客様へご案内致します。当列車は間もなくハイドレンジア・フロント・ステーションへ停車致します。ハイドレンジアへお越しのお客様は街内線へのお乗り換えが必要となります』
列車内にアナウンスが流れる。
ウィステリアを出発してから約4時間。予定通りね。
30分程前から列車は深い渓谷の谷間を走り続けている。
窓の外の景色は、ずっと代わり映えしない岩の壁が続いていたけど……
「うわぁ~! 凄い!! シェンナ! マスター! 見てください!!」
窓の外を眺めていたアイネが大きな声を上げる。
それに促され窓の外へ目をやる。
切り立った渓谷を抜けると、突然眼下に広る海が視界に飛び込んできた。
列車の窓を開けると爽やかな海風に乗って潮の香りが感じ取れる。
海鳥の鳴き声が遠く聞こえる。
「すっごーい! 海ですよ海!!」
ウィステリアには大きな湖があるけれど、近くに海は無いからこの景色にテンションが上がるアイネの気持ちはよく分かる。
「どれどれ? おー、見えてきたな! あそこ」
マスターが指さす方向を見ると、カーブして進む列車の進行方向、その先。
海上に浮かぶ純白の巨大な半球体が見えて来た。
大きい……下部の1/3程は海中に沈んでいるけれど、それでもあの高さ!
あの中に、ビルはおろか、小高い山まですっぽり収まってる訳だからそのサイズは計り知れない。
その半球体の一部……およそ3割程が欠けておりそこから内部が伺える。
さっき確認したパンフレットの情報と照らし合わせると……。
一番手前、海に面したエリアはビーチね。
その奥にあるのがショッピングエリアだったかしら。
街と自然の一体化がテーマとなっており、綺麗に手入れされた直物を眺めながら、色んなブランドのショップや飲食店のテナントを周れる。
その奥にはホテルやオフィスが入る高層ビルエリアが続く。
街の中央は戸建ての邸宅が並ぶエリア。ハイドレンジに居宅を構えるお金持ち達の居住区画ね。
最奥、球体の一番奥まった部分には高い山がありその山頂は白く雪が積もっている。
確かスノーリゾートがあるはず。
そして……陸から島の入り口に向かい、真っ青な海を切り裂くように伸びる白い一本の橋。
『カットアップ・ホワイトライン』
陸と人工島を繋ぐ唯一の経路で、その全長は3kmを超える。
その手前の駅でこの列車を降りる事になる。
「よーし、お前ら。そろそろ着くぞ。降りる準備しろー!」
マスターの呑気な声を合図に、各々手にしていた本や資料等を鞄に詰める。
そうこうしている間に列車は徐々にスピードを落とし、目的の駅へ到着した。






