k01-55 黒幕
暫くして、泣き止んだ私とエーリエは近くのベンチに並んで座り目の前の芝生広場を眺めながら近状について少し話した。
「そいえば、新しいファミリアはもう決まったん? 引く手数多やって噂やけど?」
「ううん……まだなんだけど、気になってる所はあって」
「へぇ! どこやどこや?」
「うん……それなんだけど……」
その時、遠くから私を呼ぶ声が。
……暫く聞いてなかったけど、よく聞き慣れたうっとおしい声だ。
「マイハニー!! こんな所に居たのかい! 探したよ!!」
ご自慢のサラサラな金髪を掻き上げて、爽やかな笑顔を浮かべながらカーティスが歩いてくる。
……そういえば、今朝端末に何回か着信があったわね……無視したまま忘れてたわ……。
「あら、久しぶり。何か用かしら? ……今めちゃくちゃ忙しいんだけど」
「ぐ……どう見ても暇そうだろ……でもその素直になれない所がまた可愛いんだけどね! と、それはさておき、良いニュースを持ってきたんだよ!」
何だろう……。まったく良い予感がしない……。
「いらない。聞きたくない」
エーリエとのお喋りを邪魔され、少しイライラして答える。
「まぁまぁ。実は、うちのファミリアで欠員が出たんだよ。ほら、先日の事故で怪我した生徒が居ただろ? 怖気づいちゃったのか、結局そのまま自主退学しちゃってね。そ・こ・で! 聞いて驚かないでくれよ……その空いた枠に君が入れるように僕からマスターに推薦したんだよ! そしたら何と、編入を認めてくれるって!! いやー良かったじゃないか! これで君も晴れてクァイエン・ファミリアの一員だよ! 君にとってはむしろラッキーだったとしか……」
物凄い勢いで捲し立てるカーティス。慌ててそれを制止する。
「ち、ちょっと待って! 色々と気を使ってくれたのは嬉しいんだけど。でも、私他に行きたいファミリア決まってて……申し訳ないけれどクァイエン・ファミリアには行かないわ」
「……は? 何だって?」
さっきまで饒舌に語っていたカーティスの顔がみるみる曇る。
「え、だから、私他に行きたいファミリアが……」
「いやいやいや! カルーナ・ファミリアからステップアップするっていったらもうクァイエン・ファミリアしかないだろ!? 他に何処があるってんだい? それに、僕の顔に泥を塗るつもりか!? もうマスターに話は通してあるんだぞ!!」
「それはあなたが勝手にやった事でしょ!?」
「はぁ!? また君は訳の分からない事を! 許婚であるこの僕が、君のためを思って動いてあげているのに、その優しさが分からないのかい! そもそも君が"ヴァン家"が居るファミリアに出入りするようになったって聞いて心配してたんだよ! あの胡散臭いマスター、敵国のスパイだって噂もあるの、知らないのかい!?」
「別にアイネは関係ないでしょ!! …………ちょっと待って、何であなたジン・ファミリアのスパイ疑惑の事知ってるのよ!?」
「え……? えぇとそれは……有名な噂だぞ! 事故の件で発表があったじゃないか」
いつの間にか周りに集まっていた野次馬がざわめきだす。
『え、マジで? あのスパイって例の新人マスターだったの? 知らなかった』
『発表じゃテイル内の人間は一切関与してないってなってなかったっけ』
そう。テイルの発表では今回の事故、原因は敵国ガルガティアによるスパイ行為とだけ。ジン・ファミリアについては一切触れられていない。
「今回の件に関して、ジン・ファミリアは一切関係ないわ。マスター・カルーナの勘違いで一時そんな話も出たけれど、その件はごく一部の人間しか知らないはず。何であなたが知ってるの!? 答えて!!」
マスター・カルーナによるジン・ファミリア強襲の件は、マスター・ジンとアイネの厚意もあって一切公になっていない。その事を知るのはあの場に居た人達だけ!
「……い、今はそんな事どうでも良いだろ! それより……」
そう言って再び私に詰め寄ろうとするカーティス。
その間にエーリエが割って入る。
「なるほどなぁ、あんたやったんか。なんやら最近うちらの周りでコソコソしとる怪しいやつらを見ると思っとったんや。シェンナの取り巻きかと思て気にしとらんかったんやけど……あんたの手下やったんやな? シェンナの事監視でもさせとるうちに、ジンファミリアのホームの場所やら、マスターとうちらの約束やら盗み聞ぎしたんやな。……ほんで、ジン・ファミリアをつぶすためにマスターに密告した……と。ホンマ……気色悪いわ! 監視なんて犯罪行為やで! 教務課まで付き合ってもらおか!!」
激怒するエーリエの罵倒を受け、言い訳のできないカーティスが負けじと大声を張り上げる。
「き、貴様!! シェンナの友人だと思って大目に見ておけば……名誉棄損だぞ!!」
そう言ってエーリエに詰め寄る。
「そもそも! お前は一般家庭の出だろ!? なに気安くシェンナに近づいてるんだ!? あの"大罪人"といい、お前らみたいなのが傍に居るからシェンナに悪影響が……!」
そこまで聞いて、私は気づけばカーティスの顔面に思いっきり平手打ちをかましていた。
まだ治りきっていない肋骨がビリビリと痛む。
でもそんな事は気にならない。私の怒りの全部を乗せた一撃が、完璧に決まった!
ビンタの衝撃で、コケて思いっきり腰を打つカーティス。立ち上がれずにのたうちまわっている。
そんな彼を見下して忠告する。
「いい!? これ以上私に付きまとわないで!! そもそもあんたが言ってる許婚だって、小さい頃のおままごとで私が『将来お嫁さんになってあげようか』って言ったのをずっと真に受けてるだけでしょ! あんまりしつこいとお父様に言いつけるわよ!!」
私の暴露を受け、周りがざわめきだす。
中には笑いだす生徒も。
カーティスは地面に倒れたまま肩を震わせている。
「こ、これは……将来我がアルクレッド家に嫁ぐ者として許すまじ行為だな……一度厳しく躾をしなければ……おい、そこのお前ら!!」
カーティスに呼ばれて周りに居た警備員が慌ててやってくる。
「お前達見たよな! 僕は今暴行を受けているんだ。 相手は先日のリベライルで大暴れしたシェンナ・ノーブル・フェイオニスだ。周囲に被害が出る前に最初から最大警戒で対処しろ!」
「はっ! かしこまりましたカーティス様。 ジュエルシステムコネクト。こちらA2-5エリアセキュリティ、生徒による暴動鎮圧のため装備のセーフティ解除を申請する」
警備員が無線で武器の使用許可を取り付ける。
腰に携えたスパークロッドを取り出し構えると、程なくしてロッドはチリチリと音を立て放電し始める。
魔兵器の使用許可が降りた証拠だ。
……この程度の生徒のいざござで魔兵器!? なるほど……カーティスの両親はテイルの警備会社のお偉いさん。大方カーティスの息でもかかってるんでしょうね。
「シェンナ!」
エーリエが駆け寄り私の横で拳を構える。
その間に周囲にいた野次馬を警備員が散らす。
「さすがにマズないかぁ……武装した警備員8人相手に丸腰かぁ」
「エーリエ!? エーリエは逃げて! 狙いは私なんだから」
「そうはいかんわ! ついさっき友情を誓い合ったばっかなんに自分だけ逃げれるわけあるかいな!」
そう言って意地悪く笑う。
「それに、もしシェンナがあいつにビンタかましとらんかったら、ウチがグーでいっとったわ。……シェンナ、この際はっきり言うとくわ。シェンナとアイネの付き合いに比べたら、そら、うちとアイネはまだまだ浅い付き合いや。そんでもアイネはうちにとって大切な友達や。シェンナが怒るのと一緒で、うちかてアイネの事バカにされて許せる訳無いやろ! 2人共うちの大切な友達や!」
「……それなら、私だって! 大切な……幼馴染と友達をバカにした落とし前、あいつに思い知らせてやるわよ!」
そう言って、カーティスを睨みつけ私も格闘戦の構えを取る!
「……お前たち……後悔しても知らんぞ!」
警備員の一人が威嚇するようにスパークロッドを振るう。
空中にバチバチと放電音が鳴り響く。
実戦において、威嚇なんて最も愚かな行動。
その一瞬の隙を突き、姿勢を落として素早く男の懐に潜り込む。
完全に油断し慌てふためく男の股間を思いっきり膝で蹴り上げる!
男は声にならない悲鳴を上げて崩れ落ちる。
隣では、エーリエの全力の掌底打ちを受けガタイの良い男が口から涎を吐き出しながら豪快に吹き飛ぶ。
あ、あの子の場合……急所を狙うとかそういうのあんまり関係ないんだ……。
――残り6人! 魔鉱戦術学科の優等生を舐めないでよね!!






