k01-56 魔王
このまま押し切れるか……!
出だしの勢いでそう思ったけれど、想像以上に戦力差は大きかった。
スパークロッドはその特性から生身で防御する事が出来ない。
回避に徹する以上、どうしても動きが大きくなる。
しかも相手は多数……徐々に追い詰めれれていく……。
「きゃぁぁぁあ!!」
隣で戦っていたエーリエが、死角からのスパークロッドの一撃を受け悲鳴を上げて倒れる。
その体からは煙が上がり、焦げた匂いが漂う。
制服の上からでもこの威力……! 本当に魔兵器の出力を全開にしてるわね!?
「エーリエ!?」
構えを崩さず、周りを警戒したまま目線だけをエーリエに向ける。
「う……だ、大丈夫……」
そう言うエーリエだけど、とても立ち上がれるような状態じゃない。
「ち、ちょっとあんたたち! 明らかに過剰防衛でしょ!?」
そんな私の主張にはお構いなしに、2人かかりで飛び掛かってくる。
スパークロッドの動きに注視し、それを躱す!
その時
「う、うぎゃぁぁぁぁ!!」
再び、エーリエの絶叫にも似た悲鳴が聞こえ慌てて振り向く。
警備員の1人が倒れたままのエーリエに向け、放電したスパークロッドを押し当てている!
電撃の衝撃でのたうち回るエーリエ。それでも警備員は辞めない。
「……カ、カーティス様! もうこれ以上は……このあたりで良ろしいのでは!?」
動揺した様子でカーティスの方を伺う。
「煩い! 黙ってやれ! 庶民風情が二度と口答え出来ないように徹底的にだ!!」
そう指示され、戸惑いながらも再びスパークロッドを振り下ろそうとする警備員。
咄嗟に飛び込み、体当たりで警備員を吹き飛ばしエーリエに覆いかぶさる!
「シ、シェンナ……! ……! 危な」
エーリエが掠れた声で言い終わるより前に、全身に衝撃が走る!!
「きゃぁぁ!」
悲鳴を上げエーリエの上に倒れ込む。
他の警備員が私の背中に向かってスパークロッドを打ち下ろしたのだった。
重なったまま倒れ込み、動けない私とエーリエ。
そんな私達におもむろにカーティスが歩み寄ってくる。
「おい、貸せ」
そう言うと警備員からスパークロッドをぶん取る。
「まったく……お転婆が過ぎるからこんな目に遭うんだぞ。……有り難く思うんだよシェンナ。あとは僕が直々にお仕置きしてあげよう」
そう言って、ニヤニヤとしながらスパークロッドを振り上げるカーティス。
バチバチと放電の音が聞こえる。
「ごめん、エーリエ。……私のせいで」
そう言ってエーリエを強く抱きしめる。衝撃で一時的に気を失っているのか、エーリエからは返事が無い。
ぎゅっと目を閉じ体をこわばらせ、スパークロッドの衝撃に備える。
中々来ない……。何よ……カーティスの奴、楽しんでる訳!? ホント最悪……最悪!!
…………
……?
さすがに長すぎる。
そう思ったそのとき、耳元でエーリエの力ない声が聞こえる。
「……し、シェンナ。あ、あれ、後ろ」
何かに怯えるような……そんなエーリエの声。
どうにか体を横たえてて、カーティスの方を見る――
「え……」
そこには、私達を守るように毅然と立ちはだかる後ろ姿が。
小柄な少女のようだが、すぐに異変に気付く。
その少女は、手から漆黒の爪を生やしお尻には長い尻尾、それに獣のような下腿をしている。
そして髪は見たこともない鮮やかな白金に輝き、頭には黒い獣の耳が生えている。
突然の事態に思考がまったく追いつかないけど、その美しい……ともすれば神々しいとまで思える姿に一瞬見とれてしまう。
彼女のしなやかな尻尾は、長く伸び……カーティスの首を巻き取り空中に吊り上げていた!!
苦しそうにもがくカーティス。手に持ったスパークロッドでその少女を何度も殴打するけれども、その打撃も電撃も一切通用していない。
「許さない」
静かに一言そう呟くと、少女は尻尾を振り上げ造作も無くカーティスを放り投げる。
放物線を描き宙を舞うカーティスは、広場にあった銅像に激しく打ち付けられその袂に崩れ落ちる。
「……2人とも大丈夫?」
――!? 聞き慣れた声。
「ア、アイネ? その声、アイネなの?」
「……うん。たまたま近くに居たんだけど……」
そう言ってこっちに振り向く。
白金に輝く髪に、僅かに紫掛かった白い瞳。
まるで別人だけれど、それは確かに私の幼馴染の姿だった。
「やっぱりアイネ! 凄い……どうしたのその恰好」
「うん……。ちょっと色々あってね。それより……2人共ごめんなさい!!」
そう言って急に頭を下げるアイネ。
「え……なに?」
突然の事にあっけ取られる。
隣ではエーリエもどうにか体を起こす。
「本当はもっと早く助けに入れたんだけど……こんな姿見られたらまた嫌な噂たっちゃうかな……とか考えたら中々出られなくて」
そう言って回りを見渡すアイネ。
気づけば、人払いしたはずの野次馬が徐々に戻ってきていた。
「でも、2人が酷い目に遭ってるの見たら体が勝手に動いて……それなら最初からこうしてれば良かったのに。だから本当にごめん!!」
異変に気付いた野次馬達が騒ぎ出す。
『ねぇ……何あれ!?』
『え? コスプレ? 違うよな』
『マジか。本物?』
『なぁ、今アイネって呼んでたよな。あれ、"ヴァン家"だろ』
『……うわ、本当だ! 髪の色違うけど間違いないって!』
『誰かすぐに警備呼んでよ! ヤバいって! "大罪人"が化け物になって暴れてる!!』
それを聞いて俯くアイネ。そっとこちらに背を向ける。
「ねぇ。シェンナ、エーリエ。今日までありがとう。凄く楽しかったけど…………一緒に居るのは今日で終わりにしよう。明日からは……」
そう言って静かに肩を震わせるアイネ。
「――なにアホな事言ってんねん!!」
耳元で、力いっぱい絞り出したエーリエの声が響く。
「うちはアイネの事大好きやけど、その後ろ向きな所だけは好かんわ!」
そう豪語するエーリエに、驚いて振り向くアイネ。
その薄紫く輝く綺麗な目には大粒の涙がた溜まっている。
そんなアイネを見て、エーリエも感極まったのか少し涙声になる。
「シェンナも! 黙っとらんで言うてやりや!!」
そう言って背中をバンバンと叩かれる。
「……そう。"ヴァン家"でも……仮にもし"化け物"だったとしても、そんなの関係ない。だって私達は"アイネ"の友達なんだから。アイネがアイネなら、私達はずっと友達だよ!」
「そや! 1人だけ逃げようったってそうはいかんで!」
その言葉を聞いて、アイネの目から大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。
「なに泣いてんのよ! 当たり前じゃない! だって……」
だってアイネは――――私のたった一人の『幼馴染』なんだから
その言葉を聞いて、アイネは袖で目を擦る。
「……ずっと迷ってて。私も本当は2人の事そう呼びたかったんだけど……本当は2人共迷惑なんじゃないかって。でも、私もそう呼んでいいかな? もし2人がそう呼んでくれるなら。……私もそう呼んでいいなら……!」
振るえる声を落ち着かせ、一呼吸置くと……深く息を吸うアイネ。
黒いオーラがみるみると彼女の周りに立ち込める。
その中で一際妖艶に輝く白金の髪と瞳。
より一層輝きを増す禍々しい黒い爪。
さっきまでざわついていた野次馬も一斉に黙り込む。
……"化け物"だなんて生易しいレベルじゃない。
生きる世界がまるで違う。
圧倒的な存在感。
勇者や英雄と呼ばれる輝かしい者達とは真逆の威圧感……そんな存在を示す言葉を……今の私はまだ知らない。
その孤高の存在が告げる。
「あなた達!! 私の大切な"友達"に手を出したこと! その身を以って償いなさい!!」
『貴様ら!! 我が主の逆鱗に触れたその愚行! 死を以って償うが良い!!』
――生殺与奪の権を握る、その姿は正しく"王"その物だった






