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k01-42 忙しい奴だな

 カルーナ・ファミリアの面々が去り、ホームの中は一気に静かになる。



 そんな中、アイネが突然大声を上げる。


「マスター! ごめんなさい!! 私のせいで……!」


「ん!? なんだ……? 良く分からんが、とりあえず手見せてみ? 怪我したんだろ?」


 そう言って、後ろに隠しているアイネの手を取るジン。


 抑えていた指先からまだ血が出ている。



「お、結構切ったみたいだな。救急箱救急箱……」


 そう言って倉庫に救急箱を取りにいく。



 その途中。


「うぉ! 何か濡れてる!」


 床が濡れていることに気づく。


 それを聞いてアイネがまた泣きだす。


「……ご、めんなさい!! だい、大事にしてたアン、アンパー、タントポーション……」


「……アンニィパータントポーションな」


 少し呆れ顔で笑いながら、ジンは倉庫から救急箱を持ってくる。



「どれ、貸してごらん。私が見てあげよう。あんたは割れたビンを片付けなさい」


 そう言いながらシエンが救急箱を受け取る。



「お、悪ぃな! んじゃ、ホウキとチリトリ、と」


 掃除用具を取りに再び倉庫へ戻っていく。



「ほら、手を出しなさい」


 そう言って、アイネをソファーに座らせると救急箱を開くシエン。


「あ……あの、自分で……」


 そう言いかけたアイネの手をシエンが黙って持ち上げる。



「……大きく切ってるけど、傷は浅いわね。消毒して傷薬で大丈夫そうね。痕にもならないでしょうから安心しなさい」


 そう言ってシエンは慣れた手つきで傷の処置を始める。


 それをただ黙って見つめるアイネ。



「……どうしたんだい、この怪我」


 傷薬を塗り、ガーゼを当てながらアイネの顔を見るシエン。


 下を向いたまま黙る。



「うっかり自分で落として怪我しました……て訳じゃないだろ。何があったんだい」


「それは……いえ、自分の不注意で。瓶の破片で切ったんです」


 それだけ言って黙る。



 ここでグランドマスターにさっきの出来事を話せば、マスター・カルーナに何かしらの処分が下るかもしれない。


 けれど、それでは自分が告げ口しているようでどうしても言葉にしづらい。


 なにより、大切なホームを目の前で荒らされて、何も出来なかった自分が一番許せなかった。



「……優しい事は良い事よ。でもね、間違っていることを間違っているとも言えないのは、ただの弱さね」


 そう言って手際よく治療を終え、シエンは倉庫に居るジンの元へ救急箱を持っていく。


 倉庫の入り口で、丁度掃除道具を持って出て来たジンと鉢合わせる。



「お、もう終わったのか」


 そう言って受け取った救急箱をさっと倉庫の中に置き、割れたビンの掃除を始める。



 その姿を見て、たまらず声をかけるアイネ。


「あの、私……何年かかるか分からないですけど必ず弁償します!」


「ん? 別にいいよ。お前がやったのか他の誰かがやったのか知らねぇけど、お前が謝って俺が許したんだそれで問題ない」


 そう言いながら割れたガラスを厚手の袋に詰め、掃除道具と一緒に倉庫に持って入るジン。


「で、でも!」


「別にいいって」


 そう言って倉庫から出て来るジン。その手には……割れたものと同じアンニィパータントポーションの瓶が握られていた。


「……え?」


「ん?」


「え? 何でまだ有るんですか? 凄く貴重な物だって……」


「そうなんか? とりあえず家にはまだ1ダース程あったぞ」


 ………


 シェンナもマスター・カルーナも貴重な物だって言ってたから、きっとそれは本当なんだろう。


 となると、やっぱりマスターのおじいさんという人が相当な人物に違いない……。



 大騒動の元となったアンニィパータントポーションの替えが、造作もなく倉庫から現れあっさりと元々置いてあった棚に戻される。


 それを見て、アイネは一気に力が抜けた。




「さて……それじゃあ、本題のコイツだな」


 そう言ってジンは、マスター・カルーナからシエンが取り上げ、リビングの机の上に置いてあった機器を手に取る。



 握りこぶしにすっぽりと収まる程の小さな部品で、基盤からいくつかのコード伸びている。


「それって……いったい何なんですか」


 後ろからアイネがジンに問いかける。


「あぁ、お前にはしっかり説明してなかったな。……前に会った黒いマモノ……シャドーウルフェンの体内に埋め込まれてた物だ」


「え!? じゃあ、やっぱりあのマモノがシェンナ達を襲ったマモノだったんですか!?」


「……あぁ。結果的にそうなったみたいだな。あいつらには本当に悪い事をした……。こいつさえ取り除けば害は無いと思ったんだが……俺の落ち度だ」


「ち、ちょっと、どういう意味ですか。それに体内って……」


「お前も一緒に居ただろ? ホームの傍であいつに出くわして……」



 そう言われ、黒い大きな獣型のマモノにガッツリ腕をかじられるジンの姿が脳裏に蘇る。



「えぇ!? まさか腕噛まれたときですか!?」


「そうだ」


「あれ、ただ単にちょっかい出して怒らせただけじゃなかったんですか!?」


「んなわけないだろ。最初見たときから何か様子が変だなーとは思ったんだよ。シャドーウルフェンは、頭も良いし本来好戦的な種族じゃない。

 そいつが何の理由もなく、いきなり敵意むき出しで寄ってくるもんだからな。で、ちょっと前に聞いた噂を思い出したわけ」


「噂……ですか?」


「そう。どこぞの軍部で『マモノを支配して意のままに操る技術を開発してる』ってな」


「ウソ!? そんな事って……!」


 会話を静観していたシエンが割って入る。


「まぁ、支配って言っても簡単な命令を実行させるだけで、実験もまだまだテスト段階って話だったけどねぇ」


「機器さえ取り除けば正気に戻るかと思ったが、完全に取り切れずにかえって狂暴化させちまったか……」


「え、じゃあ……今回の事故って……」


 ジンの顔をじっと見つめるアイネ。



「あくまでも仮説だが、ガルガティア側の組織……国家機関か個人的な団体かは分からないが、まぁここまでの事が出来るってことはそれなりの組織だろうな、そいつらが演習エリア外周の結界に何らかの細工をして一時的に無効化。

 その隙に例のマモノを送りこみ、後は外から遠隔で操っていた……ってところか」


「まぁ……大方外してはないだろうねぇ。となると問題なのは……その目的」



 話の核心に迫ろうとするシエンを遮って、急にアイネが大声を上げる。


「え!! じゃあ大変じゃないですか! あの子、操られて人を襲っただけですよね!?」


「あ、あぁ。そうだが……まぁ安心しろ。あれ以来暴れてないってことは体内に残った機器も停止して大人しくなったんだろう。クァイエンの爺さんが相当なダメージを与えたって話だし、どこかでもう死んでるか、そろそろ討伐される頃合いだろ」


 そんなジンに対して、珍しく怒った様子で言い返すアイネ。


「違いますよ! そういう事じゃないです! あの子は全然悪くないじゃないですか! それなのに退治しようとして皆探してるんですよね!? 早く止めないと!!」


「いゃあ……理由はさておき、生徒数名に大怪我させてるからな。殺処分は妥当だろ。ってか、大人しいとはいえマモノはマモノだからな」



「私、探してきます!!」


「おい!無茶すんなって!」



 制止するジンの言葉は全く耳に入らないようで、そのままホームを飛び出して行ってしまった。



「……やれやれ、忙しい奴だな。友達の心配して、俺の心配して、今度はマモノの心配か。疲れないのかねぇ」


「ふん。そんな生徒が心配で、何かあった時のために家から幻の霊薬まで引っ張り出してきた癖に。よく言うわ」



「……うるせぇ。――で、こいつはどうする?」


 そう言って机の上の機器を手に取る。


「ガルガティア製という事は分かったけど、実際にこれを使ったのが何処の誰かという所までは特定不可能ね」


「残念ながらな」


「まぁ、今はそれで充分」


「どこのどいつか知らねぇけど、目的は……やっぱり"アレ”か」


「……どうかしらね。演習エリアを嗅ぎ回ってるようじゃ少なくとも隠し場所の見当もついてなさそうだけれど」


「しばし様子見……だな」


「えぇ。あとはこっちでうまく収拾して、おしまいとしておくわ」


「頼むわ」


「ええ。……それより、あの子。見に行かなくていいの?」


「ん、アイネか? そうだな……何か変なのもうろついてるみたいだし、一応見に行くか」


 そう言って、2人はホームを後にした。

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