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プロローグ:三千メートルの白い闇

初めまして、ご覧いただきありがとうございます。

本作は標高3,000メートルの極限状態を舞台にした、罪と罰の山岳サイコスリラーです。


幼少期にインドネシアから移住してきた少年「エド」の視点から描かれる、逃げ場のない狂気の世界をお楽しみください。

もし面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!

2005年、8月。暗黒の暴風雨が、槍ヶ岳の尾根を狂ったように叩きつけていた。


視界はゼロ。ヘッドランプの微かな光すら、激しい雨と濃霧に吸い込まれていく。標高三千メートルの世界は、生き物の存在を拒絶する冷酷な檻だった。


「エド! 手を、離すな……っ!」


耳をつんざく風の咆哮の中、聞き覚えのある声が叫んだ。

僕――エドは、岩肌の縁から今にも滑落しそうな上条かみじょう 悠人はるとの右手を、必死に掴んでいた。


悠人の手は、雨と冷気で氷のように冷たく、そして狂おしいほどに震えていた。ライトの明滅の中で見えた彼の瞳には、底知れない死への恐怖が浮かんでいる。


(助けなきゃ。離しちゃダメだ)


頭では分かっているのに、僕の指先は感覚を失っていく。凍てつくアルプスの嵐が、僕の脳裏の奥底に眠る「別の記憶」を呼び覚ます。生まれ故郷であるインドネシア・南カリマンタン州の、湿った、暗い、底なしの泥の記憶。パニックが全身の血を凍らせた。


――その瞬間、指先が滑った。


「あ――」


悠人の体が、吸い込まれるように黒い奈落へと落ちていく。肉体が岩に激突する鈍い音が一度だけ響き、すぐに嵐の音にかき消された。


僕の手のひらに残ったのは、冷たい雨の感触だけだった。


あれから、三年。

2008年、8月。僕たちは再び、あの「槍」のふもとに立っている。


――それが、二度と戻れない狂気の始まりだとも知らずに。

プロローグをお読みいただき、ありがとうございました。


あの惨劇から3年後、2008年。エドと仲間たちは再び槍ヶ岳へ向かいます。しかし、彼らが抱えているのは「悲しみ」だけではありません。それぞれが胸の奥底に、ある【黒い秘密】を隠しています。


次回、第1話「諏訪二葉高校3年D組の夏休み(仮)」。

エドたちが上高地から一歩を踏み出したその瞬間から、すでに「奇妙な違和感」は始まっていました。写真に写るはずのない【5人目の影】とは一体――?


次回の更新を楽しみにお待ちください!

少しでも「続きが気になる!」と思ってくださった方は、ぜひブックマーク登録をしてお待ちいただけると執筆の励みになります!

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