第九十八話「穢れと救い」
寺院での激戦を終えた零たちは、崩れ落ちた聖域の、再建を手伝いながら、しばしの間、この地に、留まることにした。
「――皆様のおかげで、この地に、また、清らかな水が、戻って参りました」
高僧が、深く、頭を下げながら、そう告げた。
「これから、時間はかかるでしょうが、必ず、この寺院を、再建いたします」
零は、静かに、頷いた。
「俺たちに、何か、手伝えることがあれば、言ってください」
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寺院の再建作業を手伝いながら、零は、ふと、これまでの旅で、出会ってきた、様々な人々のことを、思い返していた。
トビアス、白川郷の村人たち、リン、境村の母娘、そして――エルナ。
(みんな、それぞれに、痛みや、苦しみを、抱えてる)
その中でも、エルナのことは、零の心に、特に、深く、残っていた。
「――零、何を、考えてるの?」
聖が、瓦礫を、片付けながら、そう尋ねた。
「エルナのこと、また、考えてた」
「あの子、きっと、今も、悩んでるんでしょうね」
聖の言葉に、零は、静かに、頷いた。
「病神に、創られた存在――でも、確かに、感情を、持ってた。あれは、決して、偽物なんかじゃない」
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作業の合間、零は、寺院の高僧に、これまでの旅で、感じてきた、疑問を、率直に、尋ねてみることにした。
「――『穢れ』というのは、そもそも、どういうものなんでしょうか」
零の問いに、高僧は、静かに、考え込んだ。
「――古い教えでは、穢れとは、単なる、悪ではないと、されております」
「悪じゃない、というと」
「穢れとは、本来、あるべき、調和が、乱れた状態を、指すのです。そして、それは、正しい、祓いと、浄化の力によって、再び、清らかな状態へと、還すことが、できるのです」
その説明に、零は、深く、考え込んだ。
(病神も、もしかしたら、そういう、乱れた状態、なのかもしれない)
「――では、病神そのものも、浄化することは、可能なんでしょうか」
零の問いに、高僧は、しばらく、沈黙した後、静かに、首を振った。
「――それは、私にも、わかりません。ですが」
高僧は、零を、まっすぐに、見つめた。
「あなたの、その力――苦しみを、糧とし、そして、他者の穢れすらも、受け止め、浄化する力。それは、もしかしたら、この世界にとって、大きな、意味を持つものなのかもしれません」
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その夜、零は、静かに、寺院の境内で、夜空を、見上げていた。
(俺の力は、病神さえも、浄化できる、可能性がある、のか)
その考えに、零は、これまでにない、大きな、責任と、そして、確かな、希望を、感じていた。
「――零殿」
花霞が、静かに、隣に、立った。
「そなたの、その表情――何か、大きな、決意を、感じさせますな」
「花霞さん。俺、もしかしたら――」
零は、静かに、しかし、確かな声で、続けた。
「病神とすら、戦うだけじゃなく、いつか、向き合える日が、来るのかもしれない」
その言葉に、花霞は、静かに、微笑んだ。
「零殿ならば、きっと、その道を、切り開いていかれることでしょう」
見知らぬ国の、静かな夜、零の中に、これまでとは、また、異なる、新たな、決意と、希望が、静かに、しかし確かに、芽生え始めていた。




