第九十五話「聖域の崩壊」
寺院での戦いから数日、零たちは、この国での、さらなる調査を、続けていた。
「――皇帝牙さんが言ってた、病神の、真の計画。この国でも、まだ、その全貌は、見えてこないな」
零の言葉に、聖が、静かに、頷いた。
「これまで見てきた、各地の異変――どれも、強い想いが、宿る場所を、狙ってる。でも、それを、集めて、最終的に、何をしようとしてるのか」
その問いに、答えられる者は、まだ、誰も、いなかった。
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そんな中、零たちは、寺院の、古い経典から、気になる、記述を、見つけることになった。
「――『世界樹』という、言葉について、何か、ご存知ですか」
零が、寺院の高僧に、尋ねると、高僧は、静かに、頷いた。
「古い伝承に、伝わる、言葉です。世界の、あらゆる生命の、根源とされる、途方もなく巨大な、樹木があると、言われております」
「その樹は、どこに、あるんですか」
「――遠い、北方の地に、あると、言い伝えられております。ですが、その真偽は、定かでは、ございません」
その情報に、零たちは、顔を、見合わせた。
「――もし、それが、本当に、あるとしたら」
夜が、真剣な表情で、続けた。
「病神の、最終的な、狙いは、その、世界樹、なんじゃないかしら」
その仮説の重みに、一同は、改めて、緊張を、強めた。
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その日の夕方、零たちが、寺院の周辺を、散策していると、突如として、地面が、大きく揺れ始めた。
「――ッ、地震か!?」
熊谷が、慌てて、周囲を、見回した。
だが、それは、単なる地震では、なかった。
寺院の、地下深くから、これまでの旅で幾度となく感じてきた、あの、重苦しい気配が、一気に、噴き出してきた。
「――なんだ、これは……!」
零が、身構えると、地面の亀裂から、黒い靄が、まるで、間欠泉のように、噴き上がってきた。
「――この、寺院そのものが、狙われてたのか……!」
零の呟きに、聖が、慌てて、周囲の、僧侶たちに、避難を、呼びかけた。
「みんな、逃げて! 早く!」
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寺院全体が、大きく、揺れ続ける中、零たちは、避難する人々を、必死に、誘導していった。
「零、こっちだ! 早く!」
零は、逃げ遅れた、幼い子供を、抱きかかえながら、崩れゆく寺院の中を、駆け抜けた。
「――ッ、げほっ……!」
噴き上がる、瘴気を、僅かに、吸い込んでしまい、零は、思わず、咳き込んだ。だが、それは、以前のような、深刻な発作には、至らなかった。
(大丈夫だ。まだ、動ける)
零は、その、確かな体の変化を、実感しながら、なんとか、子供を、安全な場所まで、送り届けた。
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寺院の崩壊は、幸い、僧侶たちの、迅速な避難によって、犠牲者を、出すことなく、収束した。だが、寺院そのものは、大きく、その姿を、崩してしまっていた。
「――酷い、有様ね」
聖が、崩れ落ちた、寺院の姿を見つめながら、痛ましげに、呟いた。
零は、静かに、拳を、握りしめた。
「この寺院を、こんな形で、破壊するなんて……」
その怒りを、胸に抱きながら、零は、地面の亀裂の奥から、まだ、僅かに、噴き出し続けている、黒い靄を、静かに、見据えた。
「――まだ、終わってない」
零の言葉に、仲間たちは、それぞれ、武器を、構え直した。
見知らぬ国の、崩れゆく聖域の中で、零たちの、新たな戦いが、いよいよ、その本格的な、局面を、迎えようとしていた。




