第八十九話「病神が創りし者」
麓の村での休息を終えた零たちは、次なる目的地を検討しながら、この国での、さらなる旅を、続けていた。
「――皇帝牙さんが言ってた、病神の、真の計画。この国にも、何か、手がかりが、あるかもしれないな」
零の言葉に、聖が、地図を広げながら、頷いた。
「この国の、南方に、古くからの、信仰の中心地が、あるみたい。そこに、向かってみましょう」
道中、零たちは、これまでとは、異なる種類の、異変の噂を、耳にすることになった。
「――何でも、森の奥で、不思議な少女を、見た、という話があるんだ」
宿場町で、地元の猟師から、そんな話を、聞いた。
「不思議な、少女?」
零が問い返すと、猟師は、少し、怯えたような表情を、見せた。
「ああ。真っ白な髪をした、幼い少女でな。だが、その少女が、通った後には、決まって、動物たちが、病に倒れるんだ」
その話に、零たちは、思わず、顔を見合わせた。
(また、病神に、関係する何かか)
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森へと向かうと、猟師の話の通り、動物たちの死骸や、枯れ果てた植物が、点在しているのが、見つかった。
「――この先に、何かが、いるわね」
聖の指摘に、一同は、慎重に、森の奥へと、進んでいった。
やがて、開けた場所に、一人の少女の姿が、見えた。
真っ白な髪、そして、感情の読み取れない、虚ろな瞳。年の頃は、十歳ほどに、見える。
「――あの子……」
聖が、思わず、声を上げた。
零は、その少女に、これまでの旅で、幾度となく感じてきた、あの重苦しい気配――しかし、これまでとは、明らかに、異なる、より複雑な気配を、感じ取っていた。
「――君は……」
零が、そっと、声をかけると、少女は、ゆっくりと、こちらを、振り返った。
「――誰カ、イル」
その声は、幼く、しかし、どこか、空虚な、響きを持っていた。
「俺は、零。お前は、何者なんだ」
零の問いに、少女は、しばらく、無言のまま、零を見つめていた。
「――ワタシハ、名前ヲ、持タナイ。病神様ガ、創ッタ、器」
その告白に、零たちは、息を呑んだ。
「病神が、創った……?」
「――ワタシハ、病神様ノ、力ノ一部。人ノ姿ヲ、シテイルダケノ、存在」
その言葉には、深い、虚無感が、滲んでいた。
零は、静かに、少女に、歩み寄ろうとした。
「――近寄ルナ」
少女の周囲に、突如として、黒い靄が、渦を巻き始めた。
「――ワタシニ、近ヅク者ハ、皆、病ニ、蝕マレル」
その警告に、零は、思わず、足を止めた。
だが、その少女の瞳の奥に、零は、確かな、悲しみの色を、見て取った気がした。
(この子は――本当に、ただの、病神の道具、なんだろうか)
見知らぬ国の、静まり返った森の中で、零たちは、これまでとは、明らかに、異なる種類の――そして、どこか、痛ましい存在との、新たな邂逅を、迎えようとしていた。




