第八十七話「息もできぬ高み」
四天王との戦いが始まると、これまでの標高の高さが、これまで以上に、零たちに、大きな試練を課すことになった。
「――ッ、はぁ……! この高さで、戦うのは、きつい……!」
聖が、荒い息を吐きながら、それでも、必死に、支援魔法を、繰り出し続けた。
「――コノ地ノ、薄イ空気ガ、貴様ラノ、最大ノ敵トナロウ」
四天王が、嘲るように、そう告げた。
事実、この標高での戦闘は、これまでの、どんな敵との戦いよりも、体力の消耗が、激しかった。
「熊谷、大丈夫か!」
「――だ、大丈夫だべ……! だが、正直、きつい……!」
熊谷の盾を握る手にも、明らかな疲労が、滲んでいた。
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零もまた、これまでにない、体への負荷を、感じていた。だが、興味深いことに、その負荷は、以前のような、命を削るような、深刻なものではなかった。
(苦しい。でも、これは、以前の「病」とは、違う種類の、苦しさだ)
単純な、体力的な消耗。それは、確かに、辛い。だが、以前のように、体そのものが、崩れ落ちていくような、あの絶望的な感覚とは、明らかに、異なっていた。
「――みんな、まだ、いける!」
零の激励に、仲間たちは、それぞれ、力を振り絞った。
花霞の刀が、四天王の靄の一角を、鋭く切り裂く。夜も、影に紛れながら、隙を突いて、攻撃を、繰り出し続けた。
「――クッ、コノ、悪条件デモ、抵抗スルカ」
四天王が、僅かな苛立ちを、その声に滲ませた。
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零は、静かに、体の奥の、あの熱を、意識した。
(この氷河の、聖なる力を、守るために――)
胸の奥で、これまで以上に、穏やかで、しかし確かな光が、揺らめき始めた。
「――俺は、この河の、始まりの地を、絶対に、守る」
その言葉と共に、零は、渾身の力を込めて、剣を構えた。
薄い空気の中、荒い呼吸を繰り返しながらも、零の動きは、確かな精度を保っていた。
「――ッ!」
零の剣が、四天王の靄の中心を、深く貫いた。
「――ッ、グァァァ……!」
四天王が、大きくよろめく。
「今だ、皆!」
零の合図に応え、聖の最後の力を振り絞った支援魔法と共に、花霞、夜、熊谷が、それぞれの一撃を、四天王へと、叩き込んだ。
「――バ、馬鹿ナ……! コノ悪条件デ、コレホドノ……!」
四天王は、大きく体勢を崩しながら、後退した。
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「――今日ハ、コレマデダ。ジャガ、病神様ノ計画ハ、既ニ、次ノ段階ヘト……」
その言葉を最後に、四天王は、黒い靄と共に、氷河の奥へと、姿を消していった。
戦いが終わった後、零たちは、その場に、崩れるように、座り込んだ。
「――終わった、みたいだな」
零が、荒い息を整えながら、そう呟いた。
「零、大丈夫……!?」
聖が、心配そうに、駆け寄ってくる。
「ああ、なんとか。それより、聖の方が、大丈夫か?」
「私も、なんとか」
聖は、疲れ切った様子ながらも、微笑んだ。
「この高さでの戦い、本当に、大変だったわね」
夜も、大きく息を吐きながら、頷いた。
「うん、正直、限界に、近かった」
花霞と熊谷も、それぞれ、疲労困憊の様子ながらも、無事に、その場に、立っていた。
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氷河の水源は、四天王が去った後、以前にも増して、清らかに、輝きを取り戻していた。
「――これで、下流の、全ての土地に、また、聖なる水が、行き渡るはずだべ」
熊谷の言葉に、零は、静かに頷いた。
「ああ。この河のほとりで、暮らす、全ての人々のために」
見知らぬ国の、天にも届くような、雄大な氷河の前で、零たちは、これまでで最も過酷な環境での、確かな勝利を、その手に収めていた。だが、四天王の最後の言葉――「病神様の計画は、既に、次の段階へ」――その意味は、依然として、大きな謎として、零たちの前に、残されたままだった。




