第八十四話「愛と喪失の物語」
タージ・マハルでの一件を終えた零たちは、再び、ガンジス川の上流を目指す旅へと、戻っていった。
道中、零は、あの霊廟で見た、皇帝と妃の物語を、何度も、思い返していた。
「――愛する人を失う、か」
零の呟きに、聖が、静かに、隣を歩みながら、耳を傾けた。
「零、何か、考えてるの?」
「ああ。……俺は、母を、失った。それが、今の俺にとって、一番、大きな喪失だった」
零は、静かに、これまで、あまり多くを語ってこなかった、自分自身の過去を、改めて、口にした。
「母が死んだとき、俺は、何もできなかった。ただ、悲しむことしか、できなかった」
聖は、静かに、その言葉に、耳を傾け続けた。
「でも、今、こうして、旅を続けてる。母が、生きたいと願った、その想いを、俺なりに、受け継いでいる気がするんだ」
零の言葉に、聖は、優しく微笑んだ。
「素敵な、受け継ぎ方だと、思うわ」
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その夜、野営の焚き火を囲みながら、零たちは、それぞれの、大切な人との、思い出を、静かに語り合った。
「――わたくしの姉は、いつも、剣を通して、生きる意味を、教えてくれました」
花霞が、静かに、自分の過去を、改めて、皆と共有した。
「姉が、亡くなった後、わたくしは、その剣を、継ぎました。姉の分まで、生きる。それが、わたくしの、生きる意味です」
夜も、珍しく、自分自身のことを、少しだけ、語った。
「私は……両親のこと、あまり、覚えてない。物心ついたときには、既に、暗殺者としての、訓練を、受けてた」
その告白に、零たちは、静かに、耳を傾けた。
「だから、正直、家族の温かさとか、あんまり、実感、なかった。でも」
夜は、少し、視線を逸らしながら、続けた。
「今は、あんたたちが、私にとっての、家族みたいなもの、なのかもしれない」
その素直な言葉に、零は、胸が温かくなるのを感じた。
「夜……」
熊谷も、豪快に、しかし、少し湿った声で、続けた。
「俺の故郷は、貧しい漁村だったべ。家族は、皆、健在だが、俺が、こうして旅に出ることを、心配してるだろうなぁ」
「熊谷さん、故郷に、帰りたい気持ちも、あるんですか」
聖の問いに、熊谷は、静かに首を振った。
「いや。今は、この旅こそが、俺のやるべきことだと、思ってる。故郷には、いつか、必ず、胸を張って、帰るべ」
その言葉に、一同は、静かに頷いた。
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「みんな、それぞれに、大切な人との、絆や、想いを、抱えてるんだな」
零は、静かに、焚き火の炎を見つめながら、そう呟いた。
「その想いが、俺たちを、今、こうして、繋げてくれてるのかもしれない」
聖が、優しく、微笑んだ。
「そうね。愛や、絆は、たとえ、大切な人を失っても、決して、消えるものじゃない。それを、この旅で、改めて、実感してる」
その言葉に、零は、深く頷いた。
(タージ・マハルの、あの皇帝も、きっと、同じ想いだったんだろうな)
愛する人を失っても、その想いは、決して、消えない。むしろ、その想いこそが、残された者たちを、前へと進ませる、確かな力になる。
「――俺たちも、これから先、どんな困難があっても、この絆を、大切にしていこう」
零の言葉に、皆が、それぞれ、力強く頷いた。
焚き火の炎が、静かに、しかし温かく、零たちの夜を、照らし続けていた。
見知らぬ国の、聖なる河のほとりで、零たちの絆は、それぞれの、愛と喪失の物語を、共有することで、また一つ、深く、確かなものへと、育まれていくのだった。




