第八十三話「タージ・マハルの誓い」
寺院への道を急ぐ前に、零たちは、この地の情勢について、さらに詳しい情報を集めるため、近隣の大都市へと、一旦、立ち寄ることにした。
「――あれが、タージ・マハル……」
都市に到着した零たちは、その圧倒的な美しさを誇る、白亜の霊廟の姿に、思わず、息を呑んだ。
「なんて、美しい建物なの……」
聖が、感嘆の声を漏らした。左右対称に整えられた庭園、そして、その奥に、静かに、しかし荘厳に佇む、白い大理石の霊廟。
「あれは、ある皇帝が、亡き妃のために、建てた、廟だそうよ」
聖が、案内人から聞いた話を、皆に共有した。
「妃を、深く愛した皇帝が、その死を悼み、後世に残る、最高の建物を、建てたんですって」
その話に、零は、深い感慨を覚えた。
「愛する人のために、これほどのものを、遺すなんて……」
⸻
霊廟の内部を見学しながら、零たちは、この場所に込められた、深い愛の物語に、静かに触れていった。
「――こちらに、皇帝と妃の、棺が、安置されております」
案内人の説明を受けながら、零は、静かに、その場に佇む、二つの棺を見つめた。
「死してなお、共にある、か」
零の呟きに、聖が、静かに頷いた。
「素敵な、愛の形よね」
だが、その美しい霊廟の奥にも、これまでの旅で幾度となく感じてきた、あの重苦しい気配が、微かに、漂い始めていることに、零は気づいた。
「――この気配……」
零の呟きに、夜が、すぐに反応した。
「ここにも、いるみたいね」
⸻
夜、霊廟が閉門された後、零たちは、密かに、その周辺を、調査することにした。
霊廟の地下――皇帝と妃が、実際に眠るとされる、真の墓所の近くで、零たちは、黒い靄が、僅かに滲み出ているのを、発見した。
「――この霊廟の、深い愛の想いすら、狙っているのか」
零は、拳を握りしめた。
「――イカニモ」
聞き覚えのある、こもった声。靄の中から、使徒の一体が、姿を現した。
「深キ愛モマタ、絶望ニ転ジウル。愛スル者ヲ失エバ、ソノ悲シミハ、計リ知レヌ」
その言葉に、零は、強い怒りを覚えた。
「愛を、そんな風に、利用しようとするな」
零は、剣を構えた。
「この皇帝と妃の想いを、絶望の糧になんて、絶対に、させない」
「――抗ウカ。ヨカロウ」
使徒が、黒い靄を纏わせながら、迫ってきた。
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戦いは、これまでの経験を活かし、比較的、速やかに決着した。零たちの連携攻撃の前に、使徒は、なす術なく、闇の中へと、退いていった。
戦いが終わった後、零は、静かに、霊廟の白い壁を、見上げた。
「――この場所の、美しい愛の物語、これからも、ずっと、語り継がれていくといいな」
零の呟きに、花霞が、静かに、頷いた。
「零殿。そなたも、いつか、そのような、深い愛を、見つけられることでしょう」
その言葉に、零は、少し照れくさそうに、笑った。
「今は、まだ、そんな余裕、ないけどな」
「ふふ、そうでございますね」
夜明けの光が、白亜の霊廟を、静かに、優しく照らし始めていた。
見知らぬ国の、美しい愛の記念碑を守り抜いた零たちは、改めて、次なる目的地――ガンジス川の水源へと向かう、旅路への決意を、静かに固めていくのだった。




