第七十九話「中国編、終幕」
翌朝、零たちは、霊山の頂を目指し、険しい山道を登り始めた。
「――思ったより、きつい道のりね」
聖が、息を切らしながら、そう呟いた。
零は、自分の体調を、静かに確認した。標高が上がるにつれ、以前ならば、確実に、息苦しさを覚えていたはずだった。だが、今の零の呼吸は、驚くほど、安定していた。
「零、大丈夫? 顔色、良いみたいだけど」
聖の問いに、零は、頷いた。
「ああ、思ったより、平気だ。この大陸に来てから、また一段と、体が、丈夫になってきてる気がする」
その言葉に、夜が、静かに、興味深そうに零を見つめた。
「あんたの体、本当に、少しずつだけど、確実に、癒えてきてるのね」
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山頂に近づくにつれ、周囲の空気は、これまでの旅で幾度となく感じてきた、あの重苦しい気配に、色濃く染まっていった。
「――近いな」
零の言葉に、一同は、緊張を強めた。
山頂に到着すると、そこには、古い祭壇の跡が、静かに佇んでいた。その中心には、黒い靄が、大きく渦を巻いている。
「――ヨウヤク、来タカ」
靄の中から、以前対峙した、あの十二使徒が、再び姿を現した。
「――お前、まだ、諦めてなかったのか」
零が問いかけると、十二使徒は、静かに頷いた。
「――病神様ノ、御命令ダ。コノ霊山ノ、力ヲ、必ズ、簒奪セヨ、ト」
十二使徒の纏う気配は、以前対峙したときよりも、さらに、強く、そして禍々しいものへと、変化していた。
「――我ハ、コノ地デ、コレマデノ雪辱ヲ、晴ラス」
⸻
戦いは、これまでで最も激しいものとなった。
「――ッ!」
零は、十二使徒の、以前を遥かに凌駕する猛攻を、必死に凌いだ。
「熊谷、前へ!」
「おうよ!」
熊谷の盾が、正面からの攻撃を、なんとか受け止める。花霞と夜が、連携して、側面から、鋭い攻撃を仕掛けていった。
聖の支援魔法が、パーティー全体を、力強く包み込む。
「零、あなたなら、できるわ!」
聖の声援に、零は、静かに頷いた。
(みんなの、想いを、力に変えて)
零の胸の奥で、これまでにない強さで、あの熱が、燃え上がった。
「――俺は、この霊山の、平穏を、守る」
その言葉と共に、零は、渾身の力で、剣を振るった。
「――ッ、グァァァァァ……!」
十二使徒の悲鳴が、山頂全体に、響き渡った。
「――バ、馬鹿ナ……! コノ我ガ、再ビ……!」
十二使徒は、大きく体勢を崩しながら、後退した。
「――今回モ、退カザルヲ得ヌノカ……」
十二使徒の声には、深い悔しさが滲んでいた。
「――ダガ、覚エテオケ。我ラハ、次ノ大陸デモ、貴様ヲ、待チ受ケテイル」
その言葉を最後に、十二使徒は、黒い靄と共に、姿を消していった。
⸻
戦いが終わった後、山頂に渦巻いていた瘴気も、次第に薄れ、消えていった。麓の村の少女の容態も、これで、完全に、回復に向かうはずだった。
「――終わった、みたいだな」
零が、荒くなった息を整えながら、そう呟いた。だが、その疲労は、以前の戦いに比べて、遥かに軽いものだった。
「零、また、成長したわね」
聖が、嬉しそうに、そう告げた。
「みんなの、おかげだ」
零は、静かに、頷いた。
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その後、山を降りた零たちは、麓の村で、しばしの休息を取った後、大陸での旅を、一つの区切りとすることにした。
「――この大陸でも、本当に、色んなことがあったな」
零が、しみじみと、そう呟いた。
万里の長城、張家界、兵馬俑の陵墓、農村地帯、そして、この霊山。数々の戦いと、出会いを経て、零たちの絆は、これまで以上に、確かなものへと、育ってきていた。
「次は、どこへ向かうんだべ?」
熊谷の問いに、聖が、地図を広げながら答えた。
「西の彼方に、インドという、広大な国があるみたい。聖なる河や、天まで届くような、高い山々があるそうよ」
零は、遠くに霞む、これまで旅してきた大陸の景色を、静かに見つめた。
(次は、どんな出会いと、試練が、待っているんだろうな)
新たな旅路への期待と、確かな決意を胸に、零たちは、次なる大陸を目指し、その一歩を、踏み出していくのだった。
――第四章「中国編」、完。




