第七十三話「兵馬俑の真実」
皇帝牙の一撃は、これまで零たちが見てきた、どんな攻撃よりも、鋭く、そして重いものだった。
「――ッ、ナニ者……!」
十二使徒が、初めて、明らかな動揺を見せた。
「勇者、皇帝牙。貴様のような雑魚に、名乗る名は、持たん」
皇帝牙の言葉には、これまでにない、冷徹な響きがあった。
「零、しばらく、休んでいろ。この程度の相手、俺一人で、十分だ」
皇帝牙は、そう言うと、十二使徒に向かって、次々と、鋭い斬撃を繰り出していった。
「――ッ、グ、ゥ……!」
十二使徒は、皇帝牙の猛攻に、なす術なく、後退を続けた。
⸻
聖が、すぐに、倒れた零の元へと駆け寄り、治癒魔法をかけ始めた。
「零、大丈夫……!? しっかりして!」
「……ああ、大丈夫だ」
零は、痛みを堪えながら、なんとか上体を起こした。皇帝牙の圧倒的な力の差を、目の当たりにしながら、複雑な思いを抱いていた。
(あの人には、まだ、遠く及ばない)
だが、それ以上に、自分の力不足への、悔しさが、胸の奥に、強く込み上げていた。
「――皇帝牙さんに、また、助けられた」
零の呟きに、聖は、優しく首を振った。
「それでいいのよ。今は、まず、あなたの体を、治すことが、先決」
⸻
一方、十二使徒は、皇帝牙の猛攻の前に、次第に、追い詰められていった。
「――貴様、コレホドノ、力ヲ……!」
「お前たちが、この兵馬俑の陵墓で、何をしていたか、俺も、既に、掴んでいる」
皇帝牙の言葉に、十二使徒は、僅かに動揺を見せた。
「知って、いるのか……」
「病神の計画――各地の、強い想いが宿る場所を狙い、その力を、簒奪すること。そして、その集めた力で、何か、より大きなものを、目覚めさせようとしていること」
皇帝牙の言葉に、零たちは、思わず息を呑んだ。
(そこまで、掴んでいたのか)
「――貴様、ドコマデ……」
十二使徒の声に、明らかな焦りが滲んだ。
「これ以上は、お前程度に、語る必要はない」
皇帝牙は、そう言うと、渾身の一撃を、十二使徒へと放った。
「――ッ、グァァァァ……!」
十二使徒は、大きく吹き飛ばされ、その姿が、黒い靄と共に、大きく揺らいだ。
「――今日ハ、コレマデダ。ジャガ、コノ借リハ、必ズ……」
その言葉を最後に、十二使徒は、闇の中へと、姿を消していった。
⸻
戦いが終わった後、皇帝牙は、剣を鞘に収めながら、零の元へと歩み寄った。
「零、無事か」
「……はい。皇帝牙さんのおかげで」
零は、悔しさを滲ませながら、そう答えた。
「悔しそうな顔をしているな」
皇帝牙の指摘に、零は、素直に頷いた。
「まだまだ、力が、足りません」
「当然だ。お前は、まだ、この道を歩み始めたばかりに過ぎん」
皇帝牙は、静かに、しかし確かな眼差しで、零を見据えた。
「だが、焦る必要はない。お前の成長速度は、俺が見てきた誰よりも、速い」
その言葉に、零は、少し驚いた。
「本当に、ですか」
「ああ。それに」
皇帝牙は、少し表情を和らげた。
「先ほどの十二使徒の言葉、聞いていただろう。病神の計画――各地の、強い想いが宿る場所を、狙っている」
「はい」
「その計画の、最終的な目的――俺も、まだ、完全には、掴めていない。だが」
皇帝牙の目が、鋭く細まった。
「恐らく、何か、途方もなく大きな存在を、この世界に、呼び覚まそうとしているのだろう」
その言葉の重みに、零たちは、改めて、この戦いの、途方もない規模を、突きつけられた思いだった。
「零、お前の旅は、まだ、長く続くだろう。だが」
皇帝牙は、静かに、しかし確かな激励を込めて、続けた。
「お前になら、きっと、その道を、歩み通せるはずだ」
その言葉を最後に、皇帝牙は、再び、颯爽と、街道の先へと、去っていった。
零は、その背中を、静かに見送りながら、改めて、自分の内に、新たな決意を、確かに、灯していくのだった。
見知らぬ大陸での旅は、十二使徒との激戦と、皇帝牙からの、新たな真実の一端を経て、また一つ、大きな局面を迎えるのだった。




