第七十二話「崩れゆく大地」
十二使徒の圧倒的な実力の前に、零たちのパーティーは、次第に、追い詰められていった。
「――ッ、くっ……!」
零は、脇腹の痛みを堪えながら、なんとか剣を構え直した。
「零、無理しないで!」
聖の声に、零は、首を振った。
「ここで、退くわけには、いかない」
十二使徒は、静かに、しかし確かな余裕を持って、零たちを見据えていた。
「――貴様ラノ実力、既ニ、見極メタ。コレ以上ノ、抵抗ハ、無意味」
その言葉と共に、十二使徒は、これまでにない規模の靄を、周囲一帯に、展開させ始めた。
「――なんだ、この量……!」
夜が、驚愕の声を上げる。黒い靄が、まるで、大地そのものを覆い尽くすかのように、広がっていく。
「みんな、離れろ!」
零の警告と共に、靄が、地面を、大きく抉り取るように、攻撃を仕掛けてきた。
「――ッ!」
熊谷が、大盾で、なんとかその一撃を受け止めるが、衝撃で、大きく後方へと弾き飛ばされた。
「熊谷!」
「――だ、大丈夫だべ……!」
熊谷は、なんとか立ち上がったものの、その顔には、明らかな疲労の色が滲んでいた。
⸻
戦況は、次第に、悪化の一途を辿っていた。
「――このままじゃ、全滅する」
夜が、焦燥感を滲ませながら、そう呟いた。
零は、拳を握りしめた。
(何か、突破口を、見つけないと)
これまでの戦いで培ってきた、様々な経験。だが、目の前の十二使徒は、それら全てを、上回る実力を持っていた。
「――どうすればいい……」
零の脳裏に、これまでの旅で出会ってきた、多くの人々の顔が、浮かんでは消えていった。
トビアス、白川郷の村人たち、藤原家の少女、境村の人々、そして――今、この農村地帯で、救われた人々。
(みんなのために――)
零は、静かに、しかし確かに、自分の内なる力に、意識を集中させた。
「――俺は、まだ、諦めない」
その言葉と共に、零の胸の奥で、これまでにない強さで、あの熱が、燃え上がろうとした。
だが。
「――甘イ」
十二使徒が、冷静に、零の隙を突いた。
「――ッ、ぐああっ!」
零は、鋭い一撃を受け、地面に叩きつけられた。
「零!」
聖の悲鳴が、辺りに響き渡る。
零は、朦朧とする意識の中、それでも、なんとか立ち上がろうとした。だが、体は、思うように、動いてくれなかった。
「――マダ、立ツカ」
十二使徒が、静かに、しかし冷酷に、零を見下ろした。
「――終ワリニシヨウ」
その言葉と共に、十二使徒が、最後の一撃を放とうとした、その瞬間。
「――そこまでだ」
低く、鋭い声が、戦場に響き渡った。
零が、朦朧とする意識の中、その声の方向を見ると、そこには、見覚えのある、赤い髪の青年――皇帝牙の姿があった。
「皇帝、牙……さん……」
零の呟きに、皇帝牙は、静かに頷きながら、剣を構えた。
「零、お前が倒れるには、まだ早い」
その言葉と共に、皇帝牙は、十二使徒へと、迷いのない一撃を、放っていくのだった。
見知らぬ大陸の、崩れゆく大地の上で、零たちの命運は、皇帝牙という、心強い協力者の登場によって、新たな局面へと、その舞台を移していくのだった。




