第七十話「零の決意」
農村地帯での戦いを終えた零たちは、村人たちの回復を見届けながら、数日間、その地に留まることにした。
「――随分、顔色が良くなってきたね」
聖が、回復しつつある村人たちの様子を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「作物も、少しずつだけど、育ち始めてる」
零も、その光景に、静かな安堵を覚えていた。
だが、心の奥には、あの四天王の最後の言葉が、依然として、重くのしかかっていた。
――この地の絶望は、既に、深く根付いている。
(どういう、意味なんだろうな)
夜、零は、一人、村外れの丘に登り、静かに空を見上げていた。
「――また、一人で考え込んでる」
背後から、聖の声がした。
「聖、どうした」
「あなたのこと、心配で」
聖は、零の隣に、静かに腰を下ろした。
「四天王の言葉、まだ、気にしてるのね」
「ああ。この地の絶望が、深く根付いてる、って……。ただの脅し文句には、聞こえなかった」
聖は、しばらく黙り込んでいたが、やがて、静かに口を開いた。
「零。これまでの旅で、私たち、たくさんの場所を、救ってきたわ。でも、その一つ一つが、この世界全体で見れば、まだ、ほんの一部でしかない」
「……ああ」
「病神の計画が、どれだけ大きいものか、正直、まだ、想像もつかない。でも」
聖は、零の手を、そっと握った。
「それでも、私たちは、目の前の一つ一つを、大切に、救い続けるしかない。それが、遠回りに見えても、確かな道だと、私は信じてる」
聖の言葉に、零は、静かに頷いた。
「……そうだな。大きすぎる敵を前に、つい、全体像ばかり、追いかけようとしてた」
「今、この村の人たちが、笑顔を取り戻しつつある。それだけでも、十分、意味があることよ」
零は、静かに、村の方角を見下ろした。灯りの灯った家々から、微かな笑い声が、聞こえてくる。
「――ああ、そうだな」
⸻
翌朝、零は、改めて、パーティーの皆と、これからの方針について、話し合った。
「これまでの旅を通して、俺なりに、一つ、決意したことがある」
零がそう切り出すと、聖、夜、熊谷、花霞が、それぞれ耳を傾けた。
「病神の全貌を、一気に暴くことは、今の俺たちには、まだ、難しい。でも」
零は、静かに、しかし確かな声で続けた。
「目の前で、苦しんでる人たちを、一人でも多く、救っていく。そして、その積み重ねの中で、少しずつ、真実に、近づいていく。それが、俺たちのやり方だと思う」
その言葉に、夜が、静かに頷いた。
「あんたらしい、答えね」
熊谷も、豪快に笑いながら、賛同した。
「おうよ! 俺たちは、そういう旅を、続けてきたべ」
花霞も、静かに微笑んだ。
「零殿の、そのお心。まことに、尊いものと、存じます」
聖は、優しく零を見つめながら、頷いた。
「私も、その考え、賛成よ」
⸻
その日の午後、零たちは、村を発つ準備を整えていた。
「――お兄さんたち、本当に、ありがとうございました」
村長をはじめ、多くの村人たちが、見送りに集まってきていた。
「この村の未来、これから、しっかり、支えていってください」
零がそう告げると、村長は、力強く頷いた。
「必ず。そして、いつか、この地に、実りが満ちた頃、また、お立ち寄りください」
「はい、必ず」
零は、村の人々に見送られながら、次なる目的地へと、仲間たちと共に、歩みを進めていった。
(一歩ずつ、確実に)
零は、静かに、そう自分に言い聞かせた。
大きすぎる敵の存在に、時に、心が折れそうになることもある。だが、目の前の一人一人を、確実に救い続けること――それこそが、今の零にできる、最も確かな、そして意味のある戦い方だった。
見知らぬ大陸での旅は、零の、新たな決意と共に、さらなる先へと、その歩みを進めていくのだった。




