第六十八話「病に蝕まれる村」
リンとの別れを経て、零たちは、さらに西へと旅を続けていた。
「――次に向かうのは、どの辺りだ」
零が尋ねると、聖が、地図を確認しながら答えた。
「この先に、大きな農村地帯があるみたい。この大陸の、食料の多くを、支えてる地域らしいわ」
道中、零たちは、次第に、周囲の空気が、これまでにない、重苦しさを帯びていくのを感じていた。
「――何か、様子がおかしい」
夜が、鋭く指摘した。
やがて、目的の農村地帯に到着すると、そこには、これまでの旅で見てきた、どの惨状よりも、深刻な光景が広がっていた。
「これは……」
聖が、絶句する。
見渡す限りの田畑が、まるで、生気を吸い取られたかのように、枯れ果てている。畑仕事をしているはずの農民たちの姿も、ほとんど見当たらなかった。
「――この辺りの村、ほとんどの人が、倒れてるみたいね」
夜の報告に、零は、拳を握りしめた。
村の中心部に辿り着くと、そこには、簡易的な救護所が設けられ、多くの村人たちが、力なく横たわっていた。
「聖、頼む」
「わかってる」
聖が、すぐに治癒魔法を試みるが、やはり、これまでと同様、根本的な改善には至らなかった。
⸻
救護所を取り仕切っていた、村の若い村長が、零たちに、状況を説明した。
「――一月ほど前から、突如として、この病が広まり始めたのです。畑の作物も、次々と、枯れていって……」
村長の顔には、深い絶望の色が滲んでいた。
「このままでは、村人たちだけでなく、この地域全体が、飢饉に見舞われることになります」
その言葉の重みに、零たちは、改めて、この病の脅威の、途方もない広がりを、実感させられた。
「原因について、何か、心当たりは」
零が尋ねると、村長は、少し躊躇いながら、口を開いた。
「――村の外れに、古い井戸があるのです。そこから、最近、妙な水が、湧き出るようになって」
「妙な水……」
「黒く濁った、異臭を放つ水です。それ以来、この病が、広まり始めました」
零たちは、思わず顔を見合わせた。
(また、四天王か、それに準ずる存在か)
⸻
井戸へと向かうと、そこには、これまでの旅で幾度となく感じてきた、あの重苦しい気配が、これまで以上に、濃密に漂っていた。
「――この気配、明らかに、強い」
零が身構えると、井戸の中から、黒い靄が、まるで泉のように、絶えず湧き出ているのが見えた。
「――四天王、なのか」
零が問いかけると、靄の中から、ゆっくりと、これまで対峙してきた者たちとは、また異なる、しかし同じく禍々しい気配を纏った者が、姿を現した。
「――イカニモ。我ハ、新タナル四天王。コノ地ノ、命ノ源――水ト大地ヲ、穢スベク、遣ワサレタ」
その言葉に、零の胸の奥で、強い怒りが燃え上がった。
「農民たちの、命の糧を、こんな形で、奪うなんて」
「――命ノ糧ガ絶エレバ、絶望ハ、コノ地全体ニ、広ガル。ソレコソガ、我ラガ主ノ、望ミ」
四天王の言葉には、これまで以上に、深く、そして残酷な悪意が滲んでいた。
零は、剣を構えた。
「絶対に、許さない」
その言葉と共に、零は、これまでの経験を糧に、確かな決意を胸に、四天王へと、真っ向から立ち向かっていくのだった。
見知らぬ大陸の、命の危機に瀕した農村地帯で、零たちの新たな戦いが、今、始まろうとしていた。




