第六十七話「心を通わせる剣」
剣術大会から数日後、零たちは、次なる目的地へと向かう道中、小さな村に立ち寄った。
「――あら、あの子」
聖が、村の広場で、一人の少年が、木の枝を剣に見立てて、素振りをしている姿を見つけた。
「剣術の、真似事かしら」
零も、その様子に、興味を引かれた。少年の動きは、我流ながらも、確かな熱意が感じられるものだった。
「――もっと、上手くなりたいのに」
少年が、悔しそうに、そう呟くのが、零の耳に届いた。
「なんで、そんなに、剣を練習してるんだ?」
零が、思わず声をかけると、少年は、驚いたように振り返った。
「……お、お兄さんは、旅の人?」
「ああ。さっき、通りかかった」
少年は、少し警戒しながらも、素直に答えた。
「僕、村を守る、剣士になりたいんだ。この村、最近、物騒だから」
「物騒?」
零が尋ねると、少年は、暗い表情で頷いた。
「近くの森に、変な魔物が、出るようになったんだ。何人か、怪我をした人もいる」
零たちは、思わず顔を見合わせた。
(また、病神の影響かもしれない)
「その魔物について、詳しく教えてもらえるか」
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少年――名を、リンといった――の案内で、零たちは、村の長老の元を訪ねた。
「――異国のお方々が、この件に」
長老は、零たちの話を聞き、驚いた様子を見せた。
「実は、森の奥に、古い祠があるのじゃが、そこから、近頃、禍々しい気配が、漏れ出しておるのじゃ」
これまでの旅で、幾度となく耳にしてきた、あの言葉。零は、静かに頷いた。
「調査させてください」
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森へと向かう道中、リンが、こっそりと、零たちの後をついてきていることに、夜が気づいた。
「――あんた、危ないから、村に戻りなさい」
夜の指摘に、リンは、頑なに首を振った。
「僕も、村を守りたい! 足手まといには、ならないから!」
その必死な様子に、零は、かつての自分自身を、重ねずにはいられなかった。
「リン、お前の気持ちは、わかる。でも」
零は、リンの目線に合わせて、屈んだ。
「今のお前じゃ、まだ、危険すぎる。それより」
零は、優しく続けた。
「今は、俺たちに任せてくれ。お前がやるべきことは、もっと、力をつけること。それに」
零は、微笑みながら、リンの持つ、木の枝の剣を見つめた。
「本当に強くなりたいなら、正しい師について、基礎から学ぶことだ。俺も、そうやって、少しずつ、強くなってきた」
その言葉に、リンは、しばらく黙り込んでいたが、やがて、素直に頷いた。
「……わかった。村で、待ってる」
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祠に到着すると、そこには、これまでの旅で幾度となく見てきた、あの重苦しい気配が、色濃く漂っていた。
「――使徒か」
零が身構えると、案の定、祠の奥から、黒装束の使徒が、姿を現した。
「――穢レナキ者ノ、気配。マタ、貴様カ」
「この村を、これ以上、脅かすな」
零は、剣を構えた。
戦いは、これまでの経験を活かし、比較的、速やかに決着した。使徒は、零たちの連携攻撃の前に、なす術なく、闇の中へと退いていった。
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村に戻ると、リンが、心配そうに、零たちを待っていた。
「大丈夫だったの!?」
「ああ、心配かけた」
零がそう答えると、リンは、安堵の表情を浮かべた。
「これで、村は、もう安全?」
「しばらくは、大丈夫だと思う」
零は、静かに、リンの頭を撫でた。
「リン、お前、本当に、剣士になりたいのか」
「うん! 村を、守れるような、強い剣士に!」
その真っ直ぐな瞳に、零は、微笑んだ。
「なら、これを、覚えておいてくれ」
零は、灰堂から教わった、体の使い方の基本――無駄な力みを抜き、自然体で構えることの重要性を、簡単な形で、リンに伝えた。
「これだけで、随分、動きが変わるはずだ」
リンは、真剣な表情で、その教えを、繰り返し実践した。
「――お兄さん、ありがとう!」
リンの、輝くような笑顔に、零は、胸が温かくなるのを感じた。
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村を発つ日、リンは、村の入り口まで、零たちを見送りに来てくれた。
「お兄さん、いつか、僕も、強くなったら、また、会いに行くよ!」
「ああ、待ってる」
零は、そう答えながら、静かに思った。
(自分も、灰堂さんや、皇帝牙さんから、こうして、多くのことを、受け取ってきた)
その受け取ったものを、今度は、自分が、次の誰かへと、繋いでいく。
そのことに、零は、確かな喜びを感じていた。
見知らぬ大陸での旅は、リンという、新たな出会いを通して、零に、教え、繋ぐことの意味を、改めて、教えてくれるのだった。




