第六十五話「皇帝牙との再会」
新たな四天王との対峙は、これまでにない緊張感を、零たちにもたらしていた。
「――皆、油断するな」
零の言葉に、聖、夜、熊谷、花霞が、それぞれ武器を構えた。
「――我ガ名ハ、問ウ必要ハナイ。貴様ラハ、コノ場デ、消エル運命ニアル」
四天王が、黒い靄を大きく広げながら、宣告した。
だが、そのとき。
「――随分と、賑やかな場所だな」
聞き覚えのある、低く鋭い声が、街道の先から響いた。
「――この、声は……!」
零が振り返ると、そこには、赤い髪をなびかせた青年――皇帝牙が、剣を携えて立っていた。
「皇帝牙さん……!」
零の驚きの声に、皇帝牙は、僅かに口の端を上げた。
「久しいな、零。……いや、今は、そんな挨拶をしている場合ではないか」
皇帝牙の視線が、四天王へと向けられる。
「――勇者ダト……? ナゼ、コノ大陸ニ」
四天王が、明らかに動揺した様子を見せた。
「俺は、世界各地の異変を、調査して回っている。この大陸で、お前たちのような存在が、暗躍していると聞いてな」
皇帝牙は、そう告げると、剣を構えた。
「零、加勢する。共に、戦おう」
その言葉に、零は、心強さを覚えながら、頷いた。
「はい、お願いします」
⸻
皇帝牙の参戦により、戦況は、一気に、零たちに有利な方向へと傾いた。
「――ぐっ……!」
皇帝牙の剣が、四天王の靄を、鋭く切り裂く。以前、京の都で見た、あの圧倒的な力は、健在だった。
「零、お前も、遅れを取るなよ」
皇帝牙の言葉に、零は、静かに頷き、剣を構えた。
「――俺は、まだ、成長の途中です。でも」
零は、体の奥の、あの熱を、静かに引き出した。
「負けるつもりは、ありません」
零の周囲に、あの穏やかな光が、確かに、揺らめき始めた。
「――ホウ。良イ目ヲシテイル」
皇帝牙が、僅かに感心したように呟いた。
零と皇帝牙、そして、聖、夜、熊谷、花霞の連携によって、四天王は、次第に、追い詰められていった。
「――バ、馬鹿ナ……! 勇者ト、コノ小僧ノ、コノ連携……!」
四天王が、大きくよろめきながら、後退する。
「――今日ハ、コレマデダ……!」
その言葉を最後に、四天王は、黒い靄と共に、街道の彼方へと、姿を消していった。
⸻
戦いが終わった後、零は、改めて、皇帝牙に向き直った。
「皇帝牙さん、助かりました」
「礼はいい。それより」
皇帝牙は、零を、じっと見つめた。
「お前の力、随分と、育ってきているな。以前、この大陸に来たばかりの頃とは、比べ物にならん」
その評価に、零は、少し照れくさそうに笑った。
「日ノ本で、色々と、経験させてもらいました」
「そのようだな」
皇帝牙は、静かに頷くと、真剣な表情で続けた。
「零、一つ、伝えておきたいことがある」
「なんですか」
「四天王という存在、これまでの倒れた者たちの穴を、常に新たな者が埋めているようだ。だが」
皇帝牙の目が、鋭く細まった。
「その頂点にいる、病神本体――その正体、俺も、まだ、掴めていない。だが、確かなことが、一つある」
「なんですか」
「病神は、恐らく、この世界全体に、その影響を広げようとしている。各地で起きている異変は、その、壮大な計画の、一部に過ぎないのだろう」
その言葉の重みに、零は、改めて、この戦いの、途方もない規模を、実感せずにはいられなかった。
「――だからこそ、俺は、旅を続けている。世界各地の異変を、調査し、少しでも、この脅威の全貌を、掴むために」
皇帝牙は、そう言うと、零を、まっすぐに見据えた。
「零、お前も、その旅を、続けるのだろう」
「はい。仲間たちと共に、これからも」
零の答えに、皇帝牙は、僅かに微笑んだ。
「ならば、いずれ、また、どこかで会うだろう。その時までに、さらに、力を磨いておけ」
その言葉を最後に、皇帝牙は、颯爽と、街道の先へと、去っていった。
零は、その背中を、静かに見送りながら、胸の内に、新たな決意を、確かに、灯していくのだった。
見知らぬ大陸での旅は、皇帝牙という、心強い協力者との再会を経て、また一つ、大きな手がかりと共に、その歩みを進めていくのだった。




